野生の啓蒙
文化人類学における研究成果にいたる道
解説:池田光穂
クレジット:文化人類学における研究成果にいたる道(資料の収集と整理):知的生産学入門:野生の啓蒙
copyright Mitzu Ikeda 2002
収集資料整理して情報がいつも引き出せるようしなければならない。ただし、すべての資料を引き出せる人類学者は、そう多くはいないだろう。 研究者もっとも関心をもっているテーマに即したものだったり、それに関連する情報から優先されて資料が整理されてもいっこうにかまわないだろう。最終的 に、民族誌として結晶されるように、効率的に整理されればよい。
フィールドノート:→インデックスと索引
電子化したフィールドノート:→プリントアウト、インデックスと索引
録音記録:→テープおこし(テキスト化する)、テキスト化したものはインデックスと索引
映像記録:→編集、インデックス化
copyright Mitzu Ikeda 2002
・たのしくやる
退屈になったら休んだり気分転換する。
つまらない研究はおこなわない。
・必要な資料はすべて集める
複写や現物の収集に努める。もし、かなわない場合は「戦略的文献リスト(Strategic Bibliography)」を完成させる。
・社会的インパクトや社会的コンテキストを考える
その当時の人たち、その社会の人たちにその情報がどのような意味をもつのか考えなさい。
・適切な啓蒙理性に裏付けられた論文は、高校生がよんでもわかるはず!
つねにわかりやすくを!を心がける
・オリジナリティを最優先する
オリジナリティのない研究者は知的生産の奴隷であり、いつも時間に追われてヒ〜ヒ〜言っている。彼/彼女らを反面教師とすべし。
・他人と不必要に競争する必要はない
オリジナリティがあれば競争する必要がなくなるからねぇ
・一日に1つの発見、一週間に1つの熟考
思考の生活を楽しく!
・対話的理性を重んじる
楽しいアイディアは、同僚のみならず、いろいろな人に説明をして、コメントを聞こう。
楽しみは分かちあうべきである。
玄人よりも素人の人のコメントに輝きのあるものが多い。
・索引を完璧に信じてはなりません
私の著作のように索引にリキの入ったものもあれば、そうでない義理でやったようなものもあります。
・専門的医学雑誌よりも大衆医学雑誌のほうが資料探索には重要
わかりやすさ、という観点から
・どのようなテーマでも年表をつくる
年譜は、その研究の歴史的コンテクストについて教えてくれるはず。
・卒論、修論、博論は、テーマを狭めて研究のフォーカスをしぼり、論点をシャープにする
最初から大風呂敷を敷くと、修正するのが後で大変。大物やベテランは「冗談」で済ませられる――リスクが低い――が、若手は一度貼られ たステレオタイプから自由になるのはリスクが高いし、大変。
・わからないことを正直に告白できる人間が一番偉い
ベテランになればなるほど、無知を告白するのがつらくなる。
もちろん、いつも河馬を装う必要はないが。
・啓蒙書を小馬鹿にしてはなりません
新しい研究をはじめる際には、かならずいくつかの啓蒙書に眼を通しなさい。
知ったかぶりしないで、自分を戦略的に無知にすることが重要。そこで、その概念構築に関するもっとも重要で基幹的なことについて知る。
啓蒙書にも善し悪しがある。善い啓蒙書は、記述が正確で、わかりやすさを小手先のレトリックでごまかさない。悪い啓蒙書は、不適切なレ トリックの多用に代表される。
・100%網羅主義は終わりがない。
S字カーブの情報曲線が飽和になる段階をよく見据える。
・グラフは身を助ける
どのような文系の研究でも表やグラフは不可欠である。
表やグラフはアリバイ証明ではなく、自分と他人にとっての理解の補助線であるべきです。
・アブストラクトにはかならず英語のサマリーをつける
書式が設定されていないものには、自分で標題、章立て、キーワード、要約を英文で作成し、それを論文に添付する。
・引用図録には出典を明記する。
自分のオリジナルか、他人の引用かの区別は重要です。
・くだらない仕事はしない
とくに<教授会>関係の仕事には、ろくなものがない。無知を装い避けるべし。
【文献】
板倉聖宣、塚本浩司、宮地祐司『たのしい知の技術』仮説社、2002年
※この本には「片岡みどり」、という板倉の助手だった女性の発言が、板倉の託宣に似た発 言をフォローする重要な役割を果たしている。しかし、塚本と宮地は、共著者に彼女の名前を入れていない。これを板倉を含めた連中のセクシズムと批判するこ とはできるだろうか。あるいは、仮説実験授業という発想の中に、ジェンダーによる差異とその社会性をどのように組み込んでゆくかという批判的理性が完全に 欠如しているということだろうか? すくなくとも、この部分に注目すれば「仮説実験授業」のもつ<ジェンダー・イデオロギー>の脱色性について考察する十 分な資料になるだろう。(文中敬称略)
copyright Mitzu Ikeda 2002
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