伝統的出産介助者(産婆)
Traditional Birth Attendant, TBA
解説:池田光穂
伝統的出産介助者(産婆)- Traditional birth attendant, Wiki
分娩は妊婦ひとりだけで行なうことが慣習化している社会と、ある種の介助者が呼ばれる社会がある。後者の介助者はふつう産婆と呼ばれてお り、ほとんどの社会において産婆は女性である。近代社会では西洋医学の訓練を組織的に受けた産婆を「助産婦」と呼んでいる−−英語ではともに midwife である−−が、世界保健機関の推定によると全世界では6割から8割の出産は伝統的な産婆によるものと言われている。
伝統的な日本ではトリアゲババ、ヒキアゲババなどと呼ばれて、子供をこの世に‘取り上げ’たり‘引き上げ’ることによって人間の世界に仲 間入りさせる意味があったと言われている。また産湯を使うという意味のアライババや、臍帯を切り‘運’を与えるという意味でフスアジ[臍婆]と呼ばれると ころもあった。またアイヌでは助産のことをイコインカルと言うが、助産だけの専門にするのではなく、降霊や霊視、手当てや呪術による治療、薬草療法なども 手がける広義の治療師である。
中米グアテマラのメスティーソ(スペインの植民者と現地人の混血の末裔)の産婆においても、薬草を取り扱い、妊婦にマッサージをすること ができ、霊能力を持ちいろいろな占いなどに通じているものがいる。妊婦にたいして伝統的な食養生、例えば食物は概念的に‘熱いもの’−−唐辛子など−−と ‘冷たいもの’−−キャベツなど−−の一群に区分されるが、妊婦は‘冷たいもの’を摂取することを制限される。重いお産の際には祈りの言葉を捧げ、生まれ てからも産褥婦と新生児にはいろいろな指導をする。妊婦を‘冷やさない’ように薬草で沐浴させたり、出産直後に鶏のスープを飲ませたり、先のように食養生 を勧めたりすることである。マレーシアの産婆は、グアテマラの場合と似て、産褥婦への食養生やマッサージをおこなう。彼女は‘精霊に弱い’妊婦と子供を守 るために、いろいろな災厄の儀礼を行なうことも知られている。また難産の際にはより幅広い伝統治療をおこなう治療師が特別に呼ばれる。
助産をする男性−−産爺とも呼べようか−−もいる。フィリピン・ミンダナオのブキドノン族では単に助産を行なうものから、呪文を駆使して 病気治療の祈祷ができるものまで、幾つかの区分がなされている。高度の儀礼や呪文を司る能力が‘より高い’と見なされており、それは現地における‘政治的 リーダー’たる資格をもつ。この職能は男性が務めることもあるが、彼が助産を行なったり、逆に女性の産婆がこの職能を兼ねたりすることがある。この場合、 助産における‘霊的な統制’が、現地の政治的権力統制と類似の構造をもつことがその理由であろうと考えられている。
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