添い寝
Attachment Parenting in bed, そいね
解説:池田光穂
しつもん
子供の添い寝についておたずねします。母子密着型の日本では当たり前のことですし、親子で川の字になって寝るのがふつうなのに、以下のネットの記事を読んでいると、アメリカでは、子供との添い寝が悪いかのような話を聞きました。この違いはどうなっているでしょうか? いま大学の宿題(3000字のレポート)で、子供の添い寝が良いか悪いかということで頭を悩ませています。どのように書けばよいでしょうか?
http://www.eurekalert.org/pub_releases/2002-08/cfta-cah080702.php
おこたえ
まず、質問の動機は、リサーチペーパー作成での資料収集ですね。
その場合は授業でもあなたがお習いになられたように、レポートの作成は以下のようになろうかと思います。(1)テーマの背景説明と当該レポートにおける論点の提示、(2)テーマに関する事実の収集と論拠(出典)の提示、(3)執筆者による資料の吟味・検討、(4)論点に対する結論、という筋書きで進むかと思います。
あなたの質問は、上記の論点の提示が具体的に書いておられないので、わかりにくいのですが、結局のところ「子供との添い寝は良いか悪いか」について議論したいのではないかと思われます。
もしそうであれば結論は極めて簡単で「子供との添い寝が子供の発達と親の関係に[生物]心理学的に悪い影響をもたらす具体的なデータはない」ということです(リンク先にあるDr. Paul Okamiも否定的なデータはないと主張しているとおり。また6歳という根拠は学齢ということで、この時期の子供の精神発達の多様性を考えると5歳数ヶ月と6歳数ヶ月の違いを意識しすぎるのは愚かな数値主義に陥ります)。
また全世界的には(ユニセフやWHOなどの国際機関はアメリカ合衆国の白人中産階級の人たちがもつ文化的規範には距離を奥傾向があるので当然と言えば当然ですが)母親の子供に対するネグレクトを防ぐ意味でも、母乳育児や添い寝あるいは両親のお腹の上で眠らせる(カンガルーケアと言います)ことまで推奨しています。このユニークなケアをおこなう論拠は、両親の心音が赤ちゃんに聞こえると乳児が「安心して」眠ることができというものです(乳児の「安心」をどのように診断するかはさておき)。
ただし、視点を変えてみて、「子供との添い寝は良いか悪いか」という問題における「良い/悪い」を社会文化的な尺度で判断しているのだと考えてみましょう。そうすると、その見解には社会文化的あるいは歴史的にきわめて多様性があることがわかります。つまり、悪いものとして、子供の成長の早い段階で1人ないしはこどもたちだけで寝させる社会(時代)もあれば、そのことで別に良い/悪い判断について頓着しない社会(時代)もあるということです。文化人類学の育児の民族誌には、育児における親と子の関係について驚くべき多様性があることを指摘してきました。このことについて具体例を調べるのは、 あなたご自身の仕事なので、これ以上の言及は控えます。
さて あなたがご指摘のような、日本社会が「母子密着型」の社会であるかどうかについては、文化人類学的にみれば異論のあるもの(つまり、そういう類型が学問的にそれほど議論するに値しないという見解もあり)なのでこれも注意が必要です。つまり、母子密着型の主張をする研究者の議論を引用して、その主張の妥当性を吟味することも必要です。また北米の白人中産階級の文化は、長期的な添い寝が子供が成長したときに悪い影響をもたらすのではないかと心配でたまらない強迫神経症的な面をもっていることなど(一部の小児科医などもそのような文化的言説を真面目に信じる)の文化的バイアスに関しても注意が必要です。このような例は、人間は自文化の「よい規範」と信じている制度の中で長年育つと、後年になってなかなかそのような「偏見」から自由になることができないという、見事な事例になっています。
** グーグルで「添い寝」で検索すると以下のような面白いページが見つかりました。
◎添い寝(下記のサイトの日本語抄訳)
http://www.sweetnet.com/cosleep.htm
◎ATTACHMENT PARENTING by Tami Breazeal (教育学の修士論文:上記のオリジナルページ)
http://www.visi.com/~jlb/thesis.html
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あなたに課せられたのは3000字程度のレポートで、分量から考えるといろいろなテーマを盛り込んだ大論文などは書けないので、論点を絞って具体的なケースで議論したほうがいいでしょう。また、この問題に関してネットで意見表明している人たちのページには、電子メールアドレスが書いてあるので、直接メールで聞くのもいいでしょう(例えば、Dr. Okamiに「じゃ6歳以上はどうなんですか?」と聞くとか)。きっと誠実に応えてくれるはずです。ただし、大切なのは、さまざまな主張を多角的に吟味し、導き出した結論に対して、きちんと論拠を割り当てて、[最後は自分じしんで]明確に説明することであると思われます。
ご検討をお祈りします。