臨床コミュニケーション入門
《第3回》
医療現場のコミュニケーション(1):自覚する手前の交流
講義目的
自覚する手前の交流について学ぶ
講義内容
臨床コミュニケーションの定義(承前)
問いかけ
・コミュニケーションは、一方が他方に言語的・非言語的に問いかけそれに応じるというスタイルだけでおこなわれているだろうか?
・コミュニケーションんは[うまくできる/できない]という次元でのみ行われているか?
・経験の次元において、見ること、聞くこと、触れること等々の感覚は明確に分化しているのか?
・経験の次元において、自己と他者は明確に分離されているのか?
1.医療現場のコミュニケーションの例(映像資料)
○ 遷延性植物状態(意識障害)患者の看護経験
○ 植物状態患者の定義
一見、意識が清明であるように開眼するが、外部刺激に対する反応あるいは認識などの精神状態が認められず、外界とのコミュニケーションをはかることができない。(Jannet and Plum 1972)
○ 患者と接している看護師や医師の多くは、この定義からは理解できないような関わりの手応えを経験することがある。しかし、それをはっきり説明することは困難である。
○ 疑問:はっきりとは説明できない、この「何らかの交流」をどのように理解するのか?
2.遷延性植物状態患者を取り巻く問題系
[医学的定義]→精神/身体、見る主体/見られる客体(二項対立の図式)→植物状態=意識障害=動かぬ客体→交流不可能(dis-communication)
[問題]次に示す客観性は、遷延性植物状態患者との交流にいかなる意味づけをするのか?
(1)測定と観察によって検証されるという意味での客観性——「法則性」
(2)多くの人が共通して経験しているという意味での客観性——「共通性」
3.現象学(メルロ=ポンティ)の身体論の視点
・現象学・身体論の思考
・現象学の視点が拓く植物状態患者との交流の可能性
4.両義的な〈身体〉の次元へ
・視線が絡む、タイミングが合う、手の感触が残るなどの表現と、具体的な関わりについての看護師の語り(西村 2001)
・『知覚の現象学』におけるメルロ=ポンティの記述(共感覚)
・『メルロ=ポンティの現象学的哲学』におけるクワント(1969:69-74)の分析
問いかけへの応答
・コミュニケーションは、一方が他方に言語的・非言語的に問いかけ、それに応じるというスタイルだけでおこなわれているのか?
・コミュニケーションは、[うまくできる/できない]という次元のみで行われているのか?
・経験の次元で、見ること/聞くこと/触れること等々の感覚は明確に分化しているのか?
・経験の次元で、自己と他者は明確に分離されているのか?
引用・参照文献
・Janett, B and Plum, F., Persistent Vegetative State after Brain Damage: A syndrome in search of a name. Lancet April 1, Pp.734-737, 1997
・メルロ=ポンティ、M.『知覚の現象学1、2』みすず書房、1967、1974年
・_______、『眼と精神』みすず書房、1966年
・クワント、レミ・C.『メルロ=ポンティの現象学的哲学』国文社、1976年
・鷲田清一『メルロ=ポンティ』講談社、1997年
・西村ユミ『語りかける身体』ゆみる出版、2001年
・西村ユミ「看護ケアの現象学—関わりの中で開かれる植物状態患者との交流」『現代思想』12月臨時増刊、29(17):132-140, 2001.
注意:このページは、西村ユミ先生が配布された資料にもとづいて、その授業の要約を池田光穂がまとめたものです。
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