受講者のためのお助けマニュアル*
池田光穂(阪大CSCD)June 26, 2007
臨床コミュニケーション:受講者のためのお助けマニュアル*
○授業を提供する側が自明視している命題(A)
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(A):教師の“常識” |
1.すべての人を満足させる授業プログラムを実施することはできない。
2.しかし、多くの人を満足させる授業プログラムは、経験的に言っても、可能なようだ。
3.多くの人を満足させる授業プログラムには、いくつかの共通点があるらしい。
4.ただしマニュアル化した教授法には限界があり、実際には経験知・実践知が重要だ。
○授業を受ける側が自明視している命題(B)
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(B):学生・院生の“常識” |
1.授業においては、教員は学生に対して知識を授け、知識獲得のためのヒントやノウハウを教えるものだ。
2.しかし、それが学生にとっての永遠の理想であるのは、現実の大学の授業ではしばしばそうならないことがあるからだ。
3.勉強には教えてもらうものと、自分で勉強しなければならないものがあるが、大学の高学年に進級したり大学院に進学するほど、後者の比重が高まる。
4.すべて自分で学べるものであれば、大学や大学院は不要である。[→だから教師は学生に教授しなければならぬ]
○臨床コミュニケーション授業における逆説[(A)×(B)=すれ違い]
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(A)×(B)=すれ違い |
1.対話型の授業とは、学生が話題に対して、自分の見解、自分の意見、自分のアイディアを随時提供しなければならない。
2.考えてから話すよりも、話しながら考えねばならない。
3.日常での議論とは延々と続くものなのに、制限時間があって、その時間までに結論(意見)をまとめなければならない。
4.自分の見解とは大きく異なる多様な意見に直面しても、それを無視することはできない。意見の多様性を確保することと、対話における均衡点を見つけ出すことの両立は難しい。
○解決策[すれ違い→(因数分解)→(A)×(B)]
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すれ違い→(因数分解)→(A)×(B) |
1.対話型の授業の利点と弱点を、授業を提供する人も、授業を受ける人も、もっと自覚しましょう。
2.利点は伸張させ、弱点はなにか代替手段をもって補完しましょう。前者も後者も、授業の中で実現可能なことと、授業の外側まで引きずらざるをえないものがあるはずです。
3.(ストレスを快楽に転換させること)カオスを楽しむ、多様性を享受する。そして、納得できるような暫定的な合意に至るようにしておかないと、再びストレスに陥ってしまうことを自覚する。
*このお助けマニュアルは、授業における出席確認のカードに書かれたメッセージを作成者(池田)が読んで、その全体の見取り図を書き、そこに伏在する解決可能な問題点を書いたものです。あくまでも壱教師の個人的なメッセージ・リプライです。このペーパーをもって、すべての授業提供の改善や受講態度の改善をもたらす唯一の処方でもありません。
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