対話コンポーネンツ
Dialogic Components
池田光穂
中岡成文と堀江剛(Online)によると、対話コンポーネンツとは「特定の……問題について異なる 利害や立場の関係者たちが対話する、一定の方法」とされている。引用文中の……には医療が入っているが、医療問題だけに特化する必要もないと思われるので 省略している。あるいは中岡(私信)によると「複数の対話スタイルを組み合わせて、問題の把握と解決につなげる」実践だという。
コンポーネンツとは「構成因子」とでも訳せようか。
より具体的には、当該の問題解決をもとめている当事者(利害関係者、ステイクホルダーなど)や研究者が、情報収集とそれにもとづく「対話」 という議論を経由して、一定の考えに到達する手法のことであり、その手続きを4つの要素にわけて段階を追って進めてゆく手法といえよう。
さて、コンポーネンツと複数表現されるように、対話コンポーネンツは、ひとつの事前準備と3つの種類の対話コンポーネントの組み合わせから なっている。またコンポーネントは日本語の省略語法にしたがってコンポと表現される。中岡と堀江(Online)によると、それらは以下のように表され る。
第0コンポ:テーマに関する事前の調査・聞き取り(テーマについて知る)
第1コンポ:テーマに関する論点の枚挙・自由な議論(テーマを展開させる)
第2コンポ:普遍的な「問い」をめぐる対話(テーマから一旦距離をおく)
第3コンポ:テーマに関する議論(再びテーマへ還る)
それらの手続きについて手順を追って説明しよう。
まずゼロ番目のコンポでは、文献研究(先行研究、既存の報道情報の収集)の他に、調査対象者やそれについて調べている研究者への面談(ヒア リング)、共同研究者内部での議論や研究会など、いわゆる調査に関わる、事前資料収集ならびに検討に関する活動がここでおこなうステップになる。
第1のコンポでは、「対話フォーラム」などの公開討論を開催したり、非公式的なWS[ワークショップ]を開催して、ブレインストーミング形 式でさまざまな論点を出すステップである。ここでは、なるべく発話者の立場について参加者が理解しておくことが重要である。複数の立場が複数の見解をもち うることについて自覚的になり、立場が一枚岩になる時には、その潜在的な可能性の有無について議論を重ねることも重要かもしれない。
第2のコンポでは、前のコンポのような生々しい立場から一歩退き、より一般化された問いについてソクラティク・ダイアローグ[→ソクラテス的対話]を実施する。しかし、参加者は、引き続きできるだけ多様な立場、多 様な利害の関係者(ステイクホルダー)に参加してもらうことが重要である。ここでの議論としては、遺伝カウンセリングがテーマであるとすると、「どのよう なリスクなら引き受けてもよいのか」「未来について考えるとはどういうことなのか」という利害をから解除した形のものとする。
第3のコンポでは、先のソクラテス的対話で合意されたことを受けて、テーマに回帰して、テーマについての一定の解決を目指した結論――例え ば、当事者たちの行動の原理原則や、行政への提言など――をめざす。
対話コンポーネンツがもつ社会的意味について考えてみれば、なぜ現代社会ではこの手法が有効であるのかが明らかになる。ここには、現代社会 に伏在する問題を対話による合意形成により、解決につなげてゆくことが期待されている。そのプロセスは、政治や裁判などの問題解決方法と似て、1.情報収 集、2.論点の整理、3.一般原則や法則化による客体化、そして、4.導き出された一般原則を今一度テーマに戻してみて考え最終的に具体的な成果を得ると いう手順を踏むことである。
対話コンポーネンツの手法を整理、図式化すると以下のようになる(図はこのページの作成者によります)。
【文献】
中岡成文・堀江剛「〈在宅における医療行為〉をめぐる対話の試み」人文・社会科学振興のためのプロジェクト研究事業・プロジェクト研究 〈医療システムと倫理〉「研究集会《医療の質の向上を目指して》」仙台市、2004年1月24日
http://www.sal.tohoku.ac.jp/philosophy/MedSys/conf/4124nakaoka.html (確認日2007年6月28日)