フィールド熱帯医学における民族誌資料の活用
Use of
Ethnographic sources for development of Tropical Medicine
(研究シーズ)
緒言
本ページは2007年11月に日本学術振興会科学研究費補助金として提出した池田光穂とこの趣旨に賛同していただいた医療人類学関連の研究者に よる申請の内容である。残念ながら2008年の春にその採択通知を得ることができなかった。代表者として忸怩たる思いである。しかし、そういうことにめげ てはならない。失敗を肥やしにして次を期そう。現時点(2008年4月)での私の反省は以下のようなものである。
いずれにせよ2008年度には採択されなかったが、この申請書をブラシュアップして再度挑戦するつもりである。では研究上の秘策が含まれている ものをなぜネット上に公開するのか? そんなことをしたらせっかく苦心した研究上のアイディアが他の研究者に盗まれてしまうのではないか、という暖かいご 助言をいただくかもしれません。
しかし、すでに審査員には見られているわけだから、この研究上のアイディアの一部ないしは部分が知らない間に転用される可能性だってある。もち ろん審査員には守秘義務はあるが、ピアレビューをするのは同業者であり、意図するしないにかかわらず別の方への研究指導という形で転用されるかもしれな い。なぜなら、文化人類学者の仕事は、そのアイディアを実際に検証しなければ、研究上のモデル云々を議論ばかりしていても仕方がないのです。
もしそうだったら、私自身がすばらしいと思う研究上のデザインをより多くの皆さんに見てもらい、お役に立てるものなら使ってもらおうというのが 私の魂胆である。研究計画書などというものは、業界の小さなサークルでのみ流通するものだし、またその研究上のアイディアを研究者は論文を公刊する前には 出したがらないからだ。
でもその考え方はやはりセコイ! 文化人類学がこれまで明らかにしてきて、人間の生き方の多様性と他者に対する寛容性の涵養に貢献してきたの は、研究上のアイディアを研究者集団だけに独占せず、より多くの人に共有してもらおうとする姿勢である。
ひょっとしたら、発案者である私よりも、もっと素晴らしい調査項目や検討材料を見つけだす未来の文化人類学者がでてくるかもしれない。そういう 人が未来の私のライバルになっても、私は正々堂々と勝負したい。能力のある人が、よりよい考えを推進してもらうためでもある。もちろん、私自身の研究の備 忘であるし、私の考え方に賛同してもらう人はモラルサポートなり、研究費の支援などをしていただくことは、大歓迎である。
以下に研究計画の抜粋を掲げる。みんなに公開するからといって、このページの著作権は池田光穂にありますので、二次利用される方はご一報くださ い。もちろん(こんなものが経済的活動に繋がるものなのかどうかはわかりませんが)ジョイントベンチャーのお誘いも大歓迎!
電子メールは(tiocaima7n[at]mac.com --[at]を@(半角)に変えてください)でお願いします。
フィールド熱帯医学における民族誌資料の活用に関する文化人類学的研究
研究目的
本欄には、研究の全体構想及びその中での本研究の具体的な目的について、冒頭にその要旨を記述した上で、適宜文献を引用しつつ記述し、特に次の 点については、焦点を絞り、具体的かつ明確に記述してください。(記述に当たっては、「科学研究費補助金(基盤研究等)における審査及び評価に関する規 程」(公募要領56〜92頁参照)を参考にしてください。)
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本研究は、文化人類学の領域で確立された分析手法を通して、フィールド熱帯医学の調査研究における民族誌の利用と活用に関する歴史・実態・評 価・予測について明らかにすることを目的とする。
〈研究の全体構想〉および〈(1)-1研究の学術的背景〉
フィールド熱帯医学とは、熱帯医学研究における疫学データの収集のために実験研究室の外部でくりひろげられる社会活動や調査のことをさす[ラ トゥール 2007]。また民族誌とは、文化人類学・民族学・社会人類学の学術活動において様式化されている、研究対象となる〈民族集団に関する記述〉のことであ る。民族誌は、通常フィールドワーク(野外研究)と呼ばれている活動や調査によってデータが収集される。すなわち、フィールド熱帯医学と民族誌を書く(= 生産)ためのフィールドワークは、極めて類似した活動になっている。にもかかわらず、この両者の社会活動についての分析的関心は双方の分野で低く、また双 方とも研究成果の産出のための下準備という位置づけがなされ、これまで十分な比較検討の機会が少なく、それらの間の学知の交換という現象に光が当てられる ことはなかった。
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【上図参照】フィールド熱帯医学と民族誌製作が極めて類似した重要な学問的活動であることは、熱帯医学者と文化人類学者の間の協働 (collaboration)が応用=開発人類学の議論でしばしば取り上げられること、また実際の歴史などから明らかである。フィールド熱帯医学者と文 化人類学者は、これまで相互に多大な学問的交換をおこなってきた。我々が知りうるもっとも典型的な例は、今日BSE(牛海綿脳症)やCJD(クロイツフェ ルト・ヤコブ病)の原因物質であると最有力視されているプリオン病の一変種であるニューギニア高地人にみられたクールー病の研究史において知ることができ る。プリシナのノーベル医学生理学賞受賞(1982)に先立つ6年前に未知の感染性のアミロイドあるいはタンパク質の存在の示唆によりノーベル賞を受賞し たガイダシェック(D.C.Gajdusekガジュセック)は1957年に国際小児麻痺財団によりメルボルンのM・バーネット卿を訪問したことで、当時の 信託統治パプアでのジーガスと知悉することになる。その結果文化人類学者グラースの協力を得て、フォーレ地域における広範囲のフィールド熱帯医学=民族誌 調査が始まる。このクールプロジェクトは、米国の文化人類学者リンデンボームの参加により、それまでの遺伝仮説が棄却されて、70年代以降に感染説が有力 になり、チンパンジーへの種間を超えた接種実験の成功により、クールーの儀礼的喰人の際に粘膜への感染が起こったと説明されるようになる。ガイダシェック の学問的成功は、やがて文化人類学者アレンズの文献考証による批判から、詳細な民族誌事実による対決という学問上の論争へと発展する。熱帯病の研究経緯を 立体的に調査すれば、フィールドワークを媒介とする多元的知的活動のダイナミズムが見えてくる。本研究が目指しているのは、このようなフィールド熱帯医学 と民族誌生産のあいだにみられるダイナミズムである。
〈(1)-2着想に至った経緯〉
研究代表者はこれまで、科学研究費補助金基盤(B)(2)「病気と健康の日常的概念に関する実証的研究」(平成11-13)ならびに基盤 (B)(2)「価値の多元化状況における保健システムの変貌」(平成15-18)を受けた。前者では日常生活の価値の多元化と学知としての医療の専門分化 のために近代社会における医療の利用者にとって次第に〈健康が意味する全体像〉を喪失してゆく過程を、具体的かつ実証的に描くことに成功した。前者の研究 を受けて、近現代社会のさまざまな政治経済的変動のもとで、保健システムの変貌の様子がM・フーコーの〈統治性〉の概念を通してモデル化できることを後者 の研究では指摘した。この研究は同時に本研究メンバーの多くが関わり池田が代表である国立民族学博物館共同研究会「グローバル化がもたらす保健システムの 変貌」(平成16-19)の中における世界各国の帝国医療の事例研究の検討に引き継がれている。(「今回の研究計画…準備状況」および「これまでに受けた 研究費…等」を参照)
これらの研究から、個人(=主体)の健康への配慮(anatomo-politic)と人口統計や公衆衛生などの集団的管理技術(bio- politic)という異なる2つの社会管理の技法とその相互連関の様態についての問題が主題化された。しかしながら、多くの文化人類学が対象にするかつ ての植民地の社会――いわゆるポストコロニアル社会と総称される――や近現代史にみられる帝国医療の実施状況のもとでは、理想=西欧的な統治性のタイプに 綻びが生じ、さまざま異型の医療と保健の実践が生まれていることが示唆された。そこで学問的に成熟し、その歴史的資料や展開のプロセスを通して文化人類学 者の知的営為を明らかにした研究手法――さしあたりそれを「メイキング分析手法」と呼ぼう――に範を求めて質的な実証研究をおこなうことにした[浜本ら 2005]。すなわち本研究は、猖獗の地における医学的知の生産過程を、熱帯医学研究を最終的に医学という実践知に変換する過程に参与する研究者という主 体と現地社会の状況を理解するための道具としての民族誌との関係のなかで明らかにしようと構想された。
〈(2)何をどこまで明らかにするのか〉
フィールド熱帯医学がおこなわれ、現地社会の民族誌が蓄積されている地域を厳選し、その地域に精通している文化人類学者による、(a)現地資 料収集・文献研究、(b)関係研究者へのインタビュー、および(c)地域を超えたフィールド熱帯医学と民族誌記述がもつ相互ダイナミズムに関する共同研究 会を通して、フィールド熱帯医学と民族誌というフィールド科学による2つのタイプの知的生産物に関する調査研究を進める。各研究班の構成員は、代表者によ る総括のもと、当該地域の熱帯医学研究に関する資料収集とレビューをおこない(→(a))、主たる研究者の業績や活動についての情報を蓄積し、生存してい る場合は聞き取りをおこない、研究者間のネットワークを描出する(→(b))。共同研究会は、これらの研究活動の調整、批判的検証および研究のための助言 附与の機能を担う。
次頁の研究計画・方法で詳述するように、一般的にこの種の研究は、(i)調査研究を通した歴史・実態の解明を通して、最終段階においては (ii)成果から得られた確度ある提唱や提言ができるという評価、(iii)事実関係についての蓋然性を加味した予測、という使命をもつ。研究期間4年間 のうち最初の2年間を(i)の解明に力を注ぎ、3年目に(ii)を、最終年度の4年目に(iii)についての研究を遂行する予定である(次頁の表参照)。
〈(3)本研究の学術的な特色・独創性〉
この研究には研究者の学際的知識のみならず、関連研究者への聞き取りや助言の受領が欠かせない。また文理の区別を問わず科学研究の民族誌的調 査のセンスが欠かせない。研究代表者は萌芽研究「実験室における社会実践の民族誌学的研究」(平成18-19)を受けて、視覚研究に与する神経生理学研究 室の実験活動に関する民族誌研究をこれまでおこなってきた。また中央アメリカにおいて生物多様性や熱帯生態学に関する研究者集団の社会分析の研究業績[池 田2000,2002; Ikeda 1996,1998]を積んできた。欧米では実験室やフィールドサイエンスに関する民族誌研究はラトゥールら[1979, 2007]のものがあるが、我が国では平川[2002]らの秀逸な文献研究はあるが、具体的な民族誌調査につながる実証研究はおこなっていない。本研究の 対象は、実験室のフィールドワークと、2つの科学(熱帯医学と文化人類学)の科学論研究の中間に位置するものであるが、これを対象とするようなユニークで トランスディシプリナリー(領域横断的)な研究は他に例を見ることが稀である。
主要文献:Gajdusek, D.C., Correspondence on the discovery and original investigations on Kuru, 1976; 浜本満ら『メイキング文化人類学』2005;平川秀幸『科学論の現在』2002; Ikeda,M. Epidemiology and Cultural Anthropology, In "Ethnoepidemiology of Cancer," 1996; Ikeda,M.Ethos, Eco-Tourism, Exploitation and the Cultural Production of the Natural Environment in Costa Rica. Anales de Estudios Latinoamericanos, 18, 1998; Latour, Steve Woolgar, Laboratory life,1986; ラトゥール『科学論の実在』2007.
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研究計画・方法
本欄には、研究目的を達成するための具体的な研究計画・方法について、冒頭にその要旨を記述した上で、平成20年度の計画と平成21年度以降の 計画に分けて、適宜文献を引用しつつ、焦点を絞り、具体的かつ明確に記述してください。ここでは、研究が当初計画どおりに進まない時の対応など、多方面か らの検討状況について述べるとともに、研究計画を遂行するための研究体制について、研究代表者及び研究分担者の具体的な役割(図表を用いる等)及び研究分 担者とともに行う必要がある場合には、学術的観点から研究組織の必要性・妥当性及び研究目的との関連性についても述べてください。また、研究体制の全体像 を明らかにするため、連携研究者及び研究協力者(海外共同研究者、科学研究費への応募資格を有しない企業の研究者、大学院生等(氏名、員数を記入すること も可))の役割についても必要に応じて記述してください。
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本研究の研究計画の概要は、フィールド熱帯医学がおこなわれ、現地社会の民族誌が蓄積されている地域を厳選し、その地域に精通している文化人類 学者による、(a)現地資料調査・文献研究、(b)関係研究者へのインタビュー調査、および(c)地域を超えたフィールド熱帯医学と民族誌記述がもつ相互 ダイナミズムに関する共同研究会を通して、フィールド熱帯医学と民族誌というフィールド科学による2つのタイプの知的生産物に関する調査研究を進めること にある。
また、研究全体(将来の展開研究も含めて)を通して、文化人類学の領域で確立しつつある分析手法を通して、フィールド熱帯医学の調査研究にお ける民族誌の利用と活用に関する歴史・実態・評価・予測の〈領域〉について明らかにする。それぞれの領域に対応する以下のような個別的な方法がもって調査 研究に臨む。研究は、年次進行に従い、研究の歴史や実態について平成20年21年度に、研究の評価的側面については22年度に、そして予測をも含めた総合 的な研究のとりまとめは最終年である23年度におこなう。【下表参照】
※メイキング分析手法とは、研究当事者という行為主体の認識論を主題化し学知の生産を歴史的文脈化する分析手法で、George Stockingらの一連の研究[History of Anthropology, 1983-96]や浜本ら[2005]がその典型例である。
研究開始年度である平成20年度は、本研究に従事する構成員全員(以下、研究班――下表参照)による連携研究よりスタートする。研究計画調書 の2頁では、研究代表者、研究分担者及び連携研究者の6名が記載されているが、実際の研究班の構成員はそれに下表の4名の研究協力者を加えた、総勢10名 によって編成される。研究の内容は、それぞれの個人が自分の意思にもとづいて自主的におこなう(a)現地資料調査・文献研究と(b)インタビュー調査と、 共同でおこなう(c)共同研究会等に参加し討論をおこなう、2つの部分の学術活動から構成される。後者の共同研究では、各構成員は、電子メールによるメー リングリスト、ビデオ会議、ならびに共同研究会を通して、研究全体に関する情報や理論的基盤の共有という意思疎通に努める。当該年度をふくめた研究計画の すべての年度を通して、(a)現地資料調査・文献研究、(b)インタビュー調査、(c)共同研究会という3種の学術活動を継続的におこなう。それらの活動 に充てる予算はそれぞれ、(a)外国ならびに国内旅費、代表者と分担者が管理する設備・備品、および消耗品、(b)外国ならびに国内旅費、謝金等、(c) 国内旅費、事務連絡等の謝金、およびその他(印刷費・通信費)で賄われる。
研究班の構成と班員が平成X年度に準備している個別研究課題は以下のとおりである。
【下表参照――省略】
以下に、平成X年度の個別テーマの方法論についてのより具体的な研究計画・方法を記す。
1)科学研究の人類学的研究:中米における栄養学調査と国際医療協力
中米の近代栄養学的知見は、1950年代に米国開発庁の指導のもとにINCAP(中米パナマ栄養学研究所)が設置されたことにはじまる。大 規模な身体計測や栄養疫学調査のデータは、世界の開発途上地域における基礎代謝などの〈標準値〉などの算出に貢献した。ポストコロニアルの文脈における栄 養学調査がもたらしたさまざまな社会的影響を、当時の関係者へのインタビューを通して明らかにする。
2)英領マラヤにおけるマラリア対策史からみるポストコロニアル医療
大英帝国植民地下のマレー半島において、医療行政官たちがどのように配置され、マラリア熱や性感染症などを取り扱ったのか、どのようにして 問題解決にあたったのかについて、当時から現在にいたる文化人類学の民族誌調査の技法と比較しながら現地調査ならびに文献研究を通して明らかにする。
3)先進国市民の熱帯医学・植民地医学・開発医学に対する精神的〈耐性〉の研究
今日の開発人類学を含む開発学の主導理論は1980年代以降に本格化するコミュニティ参加の実践理論である。その要衝は、多様に変化する開 発途上地域において〈市民の自立〉の概念の確立を前提にして、国際的な援助レジームのもとで〈専門家の関与〉の概念を住民に植え付けようとするものであ る。熱帯医学・植民地医学・開発医学という3つの相の推移のなかで、この2つ概念がどのように変化したのか。また今日において、それ以外の回路を模索する 際に、文化人類学者の関与はいかにして可能になるのか、関係者へのインタビューと文献調査をもとに明らかにする。
4)コモロ諸島における民族医療の史的展開と現在
帝国医療はその資源配分の過程の中で、その版図の周縁においては、現地の既存のシステムを有効活用することが認められる。即席の近代医学教 育を施された現地の看護師はその大きな働きをした。脱植民地化状況において多様な適応形態をもって――たとえば移民先のパリ郊外のコミュニティにおいて ――コモロ諸島民にもたらされた帝国医療の足跡を、インタビューと文献調査をもとに明らかにする。
5)ニューギニア民族疾病観研究と国際医療協力
近隣集団にみられる伝道医療や国際協力の事例などを参考に、パプアニューギニア・テワーダ社会への近代医療の導入に関する歴史民族誌的研究 をおこなう。特に、現地語とピジン語の病い用語や、それに伴う概念に関する検討を文献資料や医療関係者へのインタビューをもとに明らかにする。
6)熱帯アジアの環境変化と感染症研究の学知生産プロセス
極東の先進国の高等研究機関で繰り広げられる熱帯アジアにおける環境変化と感染症対策に関する領域横断的研究を事例にとり、異なった専門家 どうしのコミュニケーションから紡ぎ出される〈感染症研究が想定=想像する現地社会〉と〈民族誌学的構築物としての民族誌〉――事例としてラオスと旧宗主 国フランス――の関係の相互作用について、社会構築的科学論アプローチを手掛かりにしながら解明する。
7)HIV感染症対策下におけるニューギニア生殖理論の変化
パプアニューギニアにおける住民へのHIV感染予防対策は、出稼ぎや買売春などの社会経済問題のみならずコンドーム利用が現地社会において 強い拘束力をもつ性・生殖理論という文化的〈阻害要因〉を考慮するというダイナミズムの中で定義されている。さらに伝道医療や国際保健協力のさまざまなセ クターが、外来のさまざまな〈文化的要素〉を持ち込んでいる。この複雑な状況を分析する際に、医療の民族誌という手法によって相対化できることを、関係者 へのインタビューを通して明らかにする。
8)オセアニアにおける栄養と加齢の熱帯医学
オセアニアはその島嶼という地理的環境によって熱帯医学研究の格好のスポットになってきた。栄養学と加齢研究が頻繁におこなわれたのは研究 対象の遺伝学的傍証によって西洋近代医療のモデル適用が容易になったからである。表象としてのオセアニアの医学的身体を、民族誌学が表象してきたオセアニ ア人(社会)を参照点にして、脱構築する方法論を模索する。
9)インド熱帯医学におけるジェンダーポリティクス諸相
サバルタン研究やM・フーコーの所論が刺激や契機になりインド社会に関する文化人類学的研究において〈女性の身体〉への関心が急速に浮上し ている。豊富な歴史人類学の資料を駆使して、古典的な身体観の研究の延長上に必要とされる感覚の問題や、女性の身体を媒介にするさまざまな権力の作用につ いて研究する。
10)ポストコロニアル状況における臓器流通の普遍経済学
移植臓器売買や臓器流通の売買とその事実についての〈知識〉の流通は実体上の問題である以上に、これまでの〈貨幣〉〈贈与〉〈債務と債権〉 および〈道徳〉という近代的概念に再考を促す心理的衝撃を与えている。新たな象徴財としての身体や臓器の意味を考えることにより、現実を成立させている 〈想像による呪縛〉の問題を、文献資料や専門家へのインタビューを通して考察する。
【平成X+1年度】
本項の冒頭(基盤B(一般)―3)で述べたように、研究開始初年度である平成X年度は、共同研究等を通して研究班全体でのコンセンサス形成と 個別研究に多くの時間を消費するものと予想される。したがって、前項【平成X年度】で挙げた研究テーマの遂行を継続しつつ必要な修正を加えてゆく方針を採 用する。ただし、研究の幅を持たせるために、調査地域を拡張したり、比較のために調査対象地域を変えたりすることを(採択年度当初に)推奨する予定であ る。
調査期間後半になる平成22-23年度の当初計画は、冒頭で述べたとおりであり、それぞれの研究を発展させて23年度以降に繋げる準備は平成 21年度の研究期間の後半より、迅速に着手する必要があると考えている。
また、当該年度では、共同研究会に研究班以外の外部の学識経験者――とくに長崎大学熱帯医学研究所や総合地球環境学研究所等のフィールド熱帯 医学の専門家――を招聘して、参考図書等では把握できない最新情報や実践知について情報収集し、研究の幅を広げる予定である。
人権の保護及び法令等の遵守への対応(公募要領7頁参照)
本欄には、本研究に関連する法令等を遵守しなければ行うことができない研究(社会的コンセンサスが必要とされている研究、個人情報の取り扱いに 配慮する必要がある研究及び生命倫理・安全対策に対する取組が必要とされている研究等)を含む場合に、どのような対策と措置を講じるのか記述してくださ い。なお、該当しない場合には、その旨記述してください。
1.想定される問題
本研究では人権の保護ならびに法令等の遵守に関して、研究遂行上、以下のような問題に直面する可能性があることが想定される。
2.想定される問題への対処や措置
研究遂行上のにおける学会等が推奨するガイドラインを守るだけでなく、上記の問題にはそれぞれ次のような対処や措置を講ずる。
3.その他
共同研究会においては、定期的に研究倫理上の問題に関しての議題をとりあげ、上記のような問題と対処について、議論の機会を設けておく。
根拠となる業績