ムビスモ
解説:池田光穂
エヴァンズ=プリチャード(1902-1973)の『アザンデ人の妖術、託宣、呪術』(1934)のなかに、ムビスモの用語が登場する。
彼は、アザンデの用語のムビスモに魂(soul)という訳語を与える。しかしながら、英語の話者がいだく命と意識を含んだ魂の概念よりも、アザンデにとってそれは公共的で客観的な出来事のあつまりを意味する。
しかし、彼はムビスモを魂と呼ぶことを躊躇しない。この言葉(=魂)が〈我々〉(=英語の読者)の文化が表現する観念は、人間のムビスモというアザンデの観念に、ほかのどのような言葉よりもちかいからである。
ここでは、英語の魂を英語の話者が想起するものと、アザンデの人がムビスモという語で想起するものが、相互のアナロジーで繋がっていることにおいてのみ正確に説明できる。魂とムビスモが繋がるのではなく、魂の観念に関する英語の話者の想起と、ムビスモの観念に関するアザンデの想起が類似しているのである。
**
”読者には(アザンデの)神託を支える彼らの主張を完全に論破する論証を考えていただきたい……。それをもしアザンデの思考様式に翻訳できたなら、かれらの信念体系全体を支持することになるだろう。なぜなら彼らの不思議な諸概念は完全に論理整合的であり、その結合のネットワークにより相互に結びついていて、また露骨には感覚敬虔と矛盾しないように組織化されている。そのため経験はそれらを正当化するように思われるからである”(1937, p.319f)
Copyright Mitzub'ixi, 2008