メタボリックシンドローム
"Metabolic Syndrome,"
a Japanese
medical and journalism jargon
解説:池田光穂
メタボリック症候群ともいう。近年の日本の生活習慣病対策のなかで急速に注目された、医療政策用語であると同時に社会的問題用語である。した がっ て、これは生物医学にもとづく臨床的な用語ではない。
2000年3月31日厚生省(当時)事務次官通知等により、国民健康づくり「健康日本21」というプログラムがはじまった。これは医療制度改革 大綱(2001年11月29日策定)につながる、国民の健康の向上のための啓蒙運動と、そのことによる医療費の削減を目的としたものであった。この流れの なかで、2002年3月に健康増進法案が国会(首相:小泉純一郎、厚生労働大臣:坂口力)に提出され、同年8月に公布された。
2007年から2008年春にかけて特定健診制度の導入(2008年4月〜)をめぐって、メタボリックシンドロームという疾患の存在とその判断 基準をめぐって、医療界ならびにマスコミのあいだでさまざまな議論が展開された。そのため、日本の国民の間では、通称としての「メタボ」あるいは「メタボ 症候群」が登場し、(実際には治療効果が証明されていないのに、間接的な予防効果があると宣伝されている)関連する特定栄養食品の登場や既存の食品に「メ タボ対策」「脂肪を燃焼する」という便乗健康食品があふれることになった。
メタボリックシンドロームの、もっとも簡便な定義は、内臓脂肪肥満に、(1)高血糖、(2)高血圧、(3)高脂血症の3つのうち最低2つを合併 した状態をいう。したがってメタボリックシンドロームは、特定病因論に該当する疾患ではなく、そのために症候群という集合的な概念名称が与えられている。
また、メタボリックシンドロームを発見、予知するもっとも簡便な方法として腹部の周りの長さ(腹囲)を測定する方法が提唱されているが、これが 専門家の間で論争を呼んでいる。
論争の背景には、メタボリック症候群の発症メカニズムの研究者自身の学術的解釈の違いのほかに、厚生労働行政との政治的・学問的関係、さらに学 派間の争いという要素があると言われている。(このことを明らかにするためには、より深い医療人類学上の実態調査が必要である)。
【メタボリック・シンドローム診断の歴史】(依拠した資料は Wiki、作成は倉田誠と池田光穂による)
1951 「男性型肥満は心血管疾患の原因になる」(Jouve & Vague)
1981 「正常体重でも肥満の人と同様に心血管疾患になりやすい人が存在し、それらは高インシュリン血症によるものと考えられる」 (Rudermann)
1988 「シンドロームX」(Reaven):生活習慣病の三大要素(高血圧・糖代謝異常・脂質代謝異常)がインシュリン抵抗性*を基礎 に集積して、心血管疾患を引き起こすという学説
1989 「死の四重奏」(Kaplan):高血圧・糖代謝異常・脂質代謝異常・男性型肥満→インシュリン抵抗性症候群の研究
1998 「メタボリック・シンドローム」(WHO)→診断基準:「内臓脂肪型肥満に高血圧・高血糖・高脂血症のうちの2つ以上を併発した 状態」
2005 世界統一の診断基準(国際糖尿病連合)/日本独自の診断基準(日本肥満学会→メタボリックシンドローム診断基準検討委員会による 採用)
*インシュリン抵抗性:健康な人と比べて糖尿病の人では、同じ量のインシュリンを注射しても糖尿病の人の方が血糖値が下がりにくい。また、 軽症糖尿病と重症糖尿病ではやはり重症の方が血糖値が下がりにくい。このようなことから、インスリンが効きづらいことが糖尿病の本態の1つであると考え、 それをインスリン抵抗性と称した。インスリン抵抗性を発症している人は、血圧や脂質の状態などに異常をきたしやすいことから、心筋梗塞や脳血栓といった生 活習慣病疾患群の背景には、インスリン抵抗性がよこたわっていると疑われるようになった。
【資料】
【メタボリック・シンドロームに関する政府方針】
『食育推進基本計画』(2006)より(『食育基本法』(2005)にもとづき策定された計画)
生活習慣病の有病者やその予備軍とされる人々は、内臓脂肪型肥満やこれに伴う高血糖、高血圧又は高脂血を重複的に発症させている傾向がみ られる。このような状態は、内臓脂肪症候群(メタボリック・シンドローム)として位置づけられており、生活習慣病を予防するためには、運動習慣の徹底等と ともに健全な食生活によりその状態の改善を図ることが必要である。このため、内臓脂肪症候群(メタボリック・シンドローム)を認知している国民の割合の増 加を目標とする。具体的には、平成22年度までに80%以上とすることを目指す。
『医療制度改革大綱』(2005、医療改革協議会)の数値目標より
2008年4月から始まる特定健診制度(糖尿病等の生活習慣病に関する健康診査)では、メタボリックシンドロームの概念を応用して糖尿病 対策を行う事を目指し、40歳から74歳までの中高年保険加入者を対象に健康保険者に特定健診の実施を義務化すると共に、メタボリックシンドローム該当 者、または予備軍と判定されたものに対して特定保健指導を行うことを義務づける。5年後に成果を判定し、結果が不良な健康保険者には財政的なペナルティを 課す事によって実行を促す。厚労省は、中年男性では二分の一の発生率を見込むなど、約2000万人がメタボリックシンドロームと予備軍に該当すると考えて おり、これを2012末までに10%減、平成27年度末までに25%減とする数値目標を立てている。これにより医療費2兆円を削減する。
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