はじめによんでください

コミュニケーション技術と人間本来のコミュニケーション

Changing Patterns of Human Communication Modes under the Modern Prgress of ICT Ecosystem


池田光穂

Introduction / Leslie Haddon, Enid Mante-Meijer and Eugène Loos
Part I : Disciplinary insights into the social dynamics of innovation and domestication
Computer anxiety in daily life : old history? / John Beckers, Henk Schmidt and Jelte Wicherts

ICTs and the human body : an empirical study in five countries / Alberta Contarello, Leopoldina Fortunati, Pedro Gomez Fernandez, Enid Mante-Meijer, Olga Vershinskaya and Daniel Volovici

The adoption of terrestrial digital TV : technology push, political will or users' choice? / Tomaž Turk, Bartolomeo Sapio and Isabella Maria Palombini

The flexible room : technology for communication and personalization / Marianne Jensen, Heidi Rognskog Mella and Kristin Thrane
Part II : The Internet as a tool to enable users to organise everyday life
Uses of the family Internet sites : a virtual community between intimate space and public space / Fanny Carmagnat, Julie Deville and Aurélia Mardon

Legal self-help and the Internet / Lieve Gies

On older people, Internet access and electronic service delivery : a study of sheltered homes / Maria Sourbati
Part III : ICTs in organisational settings : a tool or a curse?
Resistance to innovation : a case study / Raija Halonen

Using ICT in human service organizations : an enabling constraint? : social workers, new technology and their organization / Eugène Loos

The impact of ICT implementations on social interaction in work communities / Niina Rintala
Part IV : The future : the boundaries between work and non-work life
There is no business like small business : the use and meaning of ICTs for micro-enterprises / Jo Pierson

Teleworking behind the front door : the patterns and meaning of telework in the everyday lives of workers / Arjan de Jong and Enid Mante-Meijer
Part V : Future developments
Enabling humans to control the ethical behaviour of persuasive agents / Boldur Bărbat, Andrei Moiceanu, Hermina Anghelescu

Challenging sensory impairment / Keith Gladstone
Conclusion / Enid Mante-Meijer, Leslie Haddon and Eugène Loos
このページは「臨床医工学の進展におけるコミュニケーション様態の変 化」という研究課題で、平成21(2009)年度からはじまった、日本学術 振興会。科学研究費補助金・基盤研究(B)「臨床医工学をめぐるコミュニケーション・モデルの構築に向けて」(研究代表者:霜田求・大阪大学大学院医学系 研究科・准教授)に私が研究分担者として参加しているが、その研究の遂行状況を報告し、かつ同時に、私自身の研究の展開のよすがとするものである。

霜田(科研・研究計画調書)によると、現今における臨床医工学――霜田の定義は「様々な領域の先端テクノロジーを医療分野に導入する学際研究」 である――には次のような領域がある。

1.バイオテクノロジー

遺伝子操作、幹細胞制御

2.ナノテクノロジー

分子標的薬

3.コンピュータ・テクノロジー

「DNA情報の解析を応用した」もの。これはバイオインフォマティクスと思われる(池田註)

4.工学・テクノロジー

内視鏡、遠隔手術

5.ニューロ・テクノロジー

ブレイン・マシン・インターフェイス [→ニューロエシックス(脳神 経倫理学)]

霜田がまとめるこれまでの我が国の研究動向などから、次の3つの具体的な研究課題と実践目標が立ち上がる。

(A)「研究者と医療スタッフ」の集団と、「被験者あるいは患者」の集団のあいだのコミュニケーションをめぐる課題

技法が新しいために、これまでのルーティン化された臨床治療実験(治験、ちけん)にはなかった、倫理的判断や社会的配慮、ならびに情報公開 の範囲や配慮が求められるようになる。両者のコミュニケーション過程を〈改善〉するためには、まず、その実態、現状分析、それにもとづいた新手法による試 行などが必要になる。また、コミュニケーション改善には、両者のコミュニケーション能力や科学リテラシーさらには社会リテラシーの能力やスキルアップを試 みるエンパワメントプロセスが必要なのか、それとも、両者を媒介するメディエーターやコミュニケーターという「専門職」をさらに養成、投入する必要がある のか、などの[現時点では行われていない]さまざまなコミュニケーション過程の改善や創造についての考察が不可欠である。

霜田は言う「臨床試験に関連する研究は、非人道的人体実験の歴史、被験者保護の観点、治験コーディネータの役割についての研究など、国内外 には膨大な蓄積があるものの、先端医療技術の臨床応用におけるコミュニケーションに焦点を当てた研究は見あたらない」(様式S-1-7)

【具体的な実践目標:A】

・臨床コミュニケーターの養成のためのプログラム作成

・臨床医工学教育プログラム:「研究倫理」「倫理と知材」

・コミュニケーションデザイン科目:「臨床コミュニケーション」「医療 対人関係論」

関連学会ネットワーク

・Internationa Conference on Medical Systems Engineering, Annual Meeting of the Neroethics Society, INternational Conference on Biotechnology and Nanotechnology, Europian Society of Philosophy of Medicine and Health Care, 日本生命倫理学会、日本医学哲学・倫理学会

(B)専門家集団と一般市民との間の公共コミュニケーション

私(池田)は、この両者の間のコミュニケーションモデルを、次の3つ、すなわち、(i)広報活動モデル(public relations model)、(ii)  公聴会モデル(public auditory model)、(iii)法廷紛争交渉モデル(jurisdictional conflict and negociation model)の観点から、霜田による提案を再解釈し、そのモデルの具体例や理念的枠組みについて研究したい。

(i)広報活動モデル(public relations model)

専門家集団[→専門職支配]がいわゆる「一般市民」むけに対応説明することは、これまで広報活動モデル(public relations model)でおこなわれてきた。これは、専門的知識に詳しくないと想定されてきた市民の不信感を和らげるために、わかりやすく解説したパンフレットなど を印刷し配布し、その際に、専門職を抱える機関(以下、専門機関と称する)の相談窓口への情報アクセスなどを開示しておく方法である。ここにおける専門家 は、専門的知識のゲートキーパーであり、意思決定の権力を市民に譲り渡すことはない。専門家の責務は、市民にわかりやすく説明することだけに限定される。 他方、市民の理解のプロセスは、視覚情報に訴えるパンフレットならびに、そこに書かれてある文言の理解――すなわちリテラシー――に表象される。

(ii)  公聴会モデル(public auditory model)

専門機関が市民に対して、広報活動モデル以上のより強い「市民の同意」[→ヘゲモニー]を求める時には、パンフレットの配布と相談窓口を設ける以上の、市 民に対 する積極的なアクションを求めるようになる。このような専門職と市民の交流の場が、公聴会(public hearing)やタウン・ミーティング(town meeting)と呼ばれるものである。ここでは、専門機関にとっては、対面的に説明したという説明責任を示すことができ、また市民は個別の意見や疑義を そこで表明することができるため、コミュニケーションの強度はより高くなる。ただし、市民はつねに専門家の説明に納得し同意するとは限らないので、専門職 集団はプレゼンテーションの技巧に長け、想定される質問などに事前に対処するようになる。このため市民からみると、お手盛りといわれる事前のシナリオどお りに公聴会が進むことを懸念するために、事前情報の公開や、公示内容の誠実性(真正性)について、なんらかの信用担保を求めるようになる。

(iii)法廷紛争交渉モデル(jurisdictional conflict and negociation model)

これらの両集団の差異がダイナミックに分裂生成(schismogenesis)する場合は、通常の法廷での紛争のような、中立の裁定 者(=裁判所)をとく形式的論争に展開する。ここでの調停は、賠償のように、紛争で取り替えられない欠損や障害を、関連性をもつ別の代償物(=金銭や謝 罪)によって補完したり、判決のように二者択一の白黒をつけるという手段が使われる。ここでのコミュニケーションは、きわめて非人間的な論理(=神学モデ ルでのみ理解可能な)展開になる。

「この分野では近年リスクコミュニケーションをめぐるサイエンスショップやコンセンサス会議といった実践的な研究が盛ん」である(霜 田、前掲書類)。

【具体的な実践目標:B】

・公開シンポジウム

・公共コミュニケーター養成のためのプログラム策定

関連団体ネットワーク

生命科学と社会のコミュニケーション研究会

科学技術社会論学会

NPO法人サイエンス・コミュニケーション(サイコム・ジャパン)

ナノテクノロジーとバイオテクノロジーの倫理的・社会的問題に焦点を当てた日仏共同研究プロジェクト(Shimoda, Byk)

(C)人間学的・文明論的意味の反省的熟慮のための素材提供

臨床医工学の進展がもたらす一連の問い(霜田による):

・「治療から増強・強化(エンハンスメント――引用者)の適用拡大は不可避なのか」

・「人体の資源化・商品化の進展は社会に何をもたらすのか」「人間の欲望の際限なき肥大化をさらに推し進めるのか」

・「テクノロジーの力を借りることで「思い通りになる」「思い通りにならないものをなくす」といった、現代テクノロジー文明によって支 えられている人々の心性が、より一層強められてしまい、冷静かつ慎重に対応することが困難になるかもしれない」

・「テクノロジーの医療への加入がもたらす文明論的な変化、例えば身体や脳の損傷・機能不全を回復するということが、同時に人体改造を 伴う能力・機能の増強(エンハンスメント)にもなりうるといった変化を、人々は受け入れることができるのか」

【具体的な実践目標:C】

・公共的議論を喚起する論文・著作の刊行

・討論をもとにした政策形成への提言

・「先端テクノロジーが人間社会や人間存在にとってどのような意味をもつのか、とりわけ治療的介入と人間改造あるいは増強との関連につ いて、哲学・倫理学・宗教学、人類学といった人文科学研究者の間で集中的な討議を重ね、国内外 の学会や研究会で議論を積み重ねつつ、社会科学や自然科学研究者も巻き込んだ議論の場を継続的に組織する」

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