筋ジストロフィーの社会史
Social History of patients of PMD and Myotonic Dystrophy in Japan
解説:池田光穂
※下記の記録は池田光穂による備忘ノートで、未確認情報などが数多く含まれます。引用等をされる場合は、ご自身の責任で、この記述の背景にある 傍証をきちんととっていただくようお願いします。
筋ジストロフィー(Progressive muscular dystrophy, PMD)
・戦後、戦傷者・障害者の病棟→結核病棟に、さらに高度経済成長時に、女性の社会進出がすすみ、遺伝病でキョウダイに患者が発症しやすいデュシ エンヌ型のPMDの子供たちを収容するための病棟として流用されるようになった。
・筋ジスは、患者(家族)団体が難病指定のために社会運動をおこない、医療保険による全額支援という制度が確立した。
・他方、人工呼吸器の普及と在宅化、あるいは平成18(2006)年から施行された障害者自立支援法は、その名とは裏腹に、障害者への医療ケア を切り、彼らへの支援を介護業務として位置づけ直す動きであった。 ・自立支援法以降は(現=2009年末=民主党政権下で)廃止あるいは改正の計画中があるが、現行法として機能している。
・現在(2009年末)、筋ジス病棟は全国の27施設にあり、筋ジス病棟などと称されている。
「日本では、1964年に「進行性筋萎縮症対策要綱」を施行し、旧国立病院内(現国立病院機構病院および国立高度専門医療センター内)のPMD 病棟に患者を収容し、医療と教育の機会を保障するわが国独自の対策をとってきた」(菊池麻由美の指摘による)。
・今日の筋ジス病棟は、筋ジス(筋肉原性疾患)のみならずALSや脊髄性退行性筋萎縮症などの運動ニューロン疾患(motor neuron disease, NMD)などの患者も入っている。また、医療保険にほる難病指定という歴史的経緯もあり、筋ジスの患者の病棟での高齢化がすすんでいる。
・筋ジスの長期収容患者の話から想像されることは以下のとおり。
・長期滞在のために、作業療法などのスペースがあり、また、それらを支援するさまざまなスタッフが配置されている。
・病棟での在院が30年にわたる人がいる。長期入院患者つまりアサイラムの患者的な側面がある。
・アサイラム化の歴史:「世界的には脱施設化政策が推進される1964年に、国立療養所筋ジストロフィー病棟への患者の入院は始められた。病棟 開設のきっかけは「全国進行性筋委縮症児親の会」が厚生大臣に陳述を行ったことに端を発し、その目的のひとつは、当初の患者のほとんどを占めるデュシェン ヌ型患児を病棟に隣接する養護学校へ通学させて、正式な教育・医療を受けさせるということであったと指摘されている(福永,1996)」[出典:石田絵美 子のレジュメより: Dec. 4, 2009. 臨床の現象学研究会、大阪大学豊中キャンパスCSCD]
・その地理的空間や環境など:「全国に27ある国立病院機構の筋ジストロフィー病棟は、以前の結核患者の減少に伴い、その空いた病棟を利用して いったものが多いために、交通の不便な場所に建てられていることが多い。しかし、対象病院は地方都市の比較的交通の便利な街中にあるために、電動車椅子で 動き回れる患者達は、気軽に街中に出掛ける事ができるという点に惹かれて他県から入院してくる人たちもいる。/本年度、対象病院は老朽化に伴う建て替えを 実施し、鉄筋5階建て290床の病棟で、急性期一般病棟と慢性期障害者病棟の混合病棟が新しく完成した。対象病院のホームページによると、この新病棟完成 により、これまでの療養所特有のむき出しの配管が走る、低い天井の暗い廊下のある病棟から、より快適な療養環境へと整備されたこと、また、慢性期障害者病 棟では、重症心身障害児(者)、筋ジストロフィー、神経難病などの長期療養が必要な患者の生活の場として、医療と福祉の両面から支えていくと掲載されてい る(2009/11/30アクセス)。また、平成18年の自立支援法を受けて、従来の筋ジストロフィー専門病棟は、介護療養型病棟へと変更となり、それに 伴い、新たにALS患者などの神経難病患者も一緒の病棟となり、患者数も40床から60床へと増床した」[出典:石田絵美子のレジュメより: Dec. 4, 2009. 臨床の現象学研究会、大阪大学豊中キャンパスCSCD]
・病院の「内容物」が時代によって変化するというのは、ミッシェル・フーコー『狂気の歴史』の冒頭の部分を想起させるような内容である[あくま での池田のコメントで引用されている人のそれではありません、念のため]。
・時間の長さや、入院年数などについて語られることが多く、その語りは、受刑者どうしの語りのような感じさえすらある。
・すこしづつ進行してゆく、緩慢な死にたいする茫漠とした不安がある。
・ハンセン病者の収容にともなう家族との離別のような悲しさがみられるような語り(の部分)がある。
・ネットの利用者:ALSの患者は(協会の働きかけもあるのか)ネットの利用や、ウェブやブログで情報発信している。筋ジスはどうか?:高齢者 のPMDはなかなか使わない(むしろ高齢化がすすみ認知症の発症などが現場では問題化している)。全体で3割程度? また小児病棟のデュシエンヌ型の患者 は若く、ほとんどがインターネットを利用している。
【南山堂医学事典18版より】※一部改変していますので、引用の際には、かならず原典にあたるよう強くおすすめします
運動ニューロン疾患[ウンドウニューロンシッカン]
【英】motor neuron disease(MND) 【独】motorische Neuron‐Krankheit 【仏】maladies des nerfs moteurs
「随意運動神経系のみが選択的に侵される疾患群の総称.知覚,感覚,自律神経系は健在で,他の内臓系統も侵されない.神経系の退行性疾患で疾病 により進行度は異なるものの増悪する傾向が強い.上位運動ニューロン系,下位運動ニューロン系,脳神経系,脊髄神経系など責任病巣によって病名が異なる. また,原因不明の例がほとんどである.→筋萎縮性側索硬化症[ALS]*,→脊髄性進行性筋萎縮症*,家族性痙性麻痺,シャルコー・マリー足(→シャル コー・マリー・トゥース病*),進行性球麻痺progressive bullar paralysis,若年性一側上肢筋萎縮症(平山病)などが含まれている.代表的な筋萎縮性側索硬化症 amyotrophic lateral sclerosis(ALS)は,中年以後に発病,四肢遠位筋の筋萎縮に始まり,数年間で全身に及び→球麻痺*にまで至る進行性疾患であるが,眼輪筋と尿 道括約筋が最後まで侵されないのが特徴とされている.いずれの疾患も現在のところ,根治療法は見出せない」.
筋萎縮性側索硬化症[キンイシュクセイソクサクコウカショウ]
【英】amyotrophic lateral sclerosis(ALS) 【独】amyotrophische Lateralsklerose 【仏】scl#rose lat#rale amyotrophique 【ラ】sclerosis lateralis amyotrophica
「運動ニューロンの選択的変性がみられる,いわゆる→運動ニューロン疾患*motor neuron diseaseの代表的疾患である.本症は中年以降に発症し,男性にやや多い.有病率は10万当たり2〜6とされているが,わが国では紀伊半島に,世界的 にはグアムで多発している.原因は不明である.〔症状〕 二次ニューロン障害としての小手筋の筋力低下,筋線維束性攣縮,筋萎縮などから始まり,四肢筋に及ぶ.感覚障害はみられない.一次ニューロン障害としての 深部腱反射亢進,Babinski徴候などの病的反射出現という→錐体路徴候*が認められる.また,舌の萎縮,構語・嚥下および呼吸障害などの→球麻痺* 症状が出現する.〔予後〕 きわめて不良で,治療法はなく5年以内に球麻痺症状の悪化によって死亡する.最近は,人工呼吸器などの使用によって,呼吸管理が容易となり,延命が可能に なった.1974年,→難病(特定疾患)*に指定」.
「脊髄性進行性筋萎縮症[セキズイセイシンコウセイキンイシュクショウ]
【英】spinal progressive muscular atrophy(SPMA) 【独】spinale progressive Muskelatrophie 【仏】atrophie musculaire progressive my**lopathique
「脊髄前角細胞の変性,消失のため,骨格筋の萎縮と筋力低下をみる遺伝性の変性疾患である.大多数は常染色体劣性遺伝をとり,それは臨床症状か ら3型に分類されている.いずれの型も遺伝子座は第5染色体長腕にある.SMA 1(spinal muscular atrophy 1あるいは→ウェルドニッヒ・ホフマン病* Werdnig‐Hoffmann disease):乳児期早期に発症し,座居の獲得はない.約70%は1歳までに呼吸不全で死亡する.SMA 2(中間型):発症はやや遅く座居まで獲得する.SMA 3(→クーゲルバーグ・ウェランダー病*Kugelberg‐Welander disease):発症は小児期以降で,歩行は獲得する.進行は遅い.上記いずれの疾患でも筋電図では高振幅・長持続時間電位など神経原性所見をみる.病 理学的には脊髄前角細胞は著明に減少し,脊髄前根内の大径有髄線維の選択的消失をみる.骨格筋には群萎縮など,典型的な脱神経的変化をみる.X(性)染色 体劣性遺伝をとるものは球脊髄型筋萎縮症bulbospinal muscular atrophy(ケネディ・オルター・スン症候群Kennedy‐Alter‐Sung syndrome)と呼ばれる.X染色体長腕のアンドロゲン受容体遺伝子(Xq21‐22)内のCAG繰り返し配列(リピート)の延長がある.成人発症 で,→球麻痺*症状,→女性化乳房*をみるのが特徴的である」。
シャルコー・マリー・トゥース病[シャルコーマリートゥースビョウ]
【英】Charcot‐Marie‐Tooth disease(CMT) 【独】Charcot‐Marie‐Tooth Krankheit 【仏】maladie de Charcot‐Marie‐Tooth
「《同義語》神経性進行性筋萎縮症neural progressive muscle atrophy 優性または伴性劣性遺伝性疾患で,20歳以下の男子に多い疾患で,下肢前角細胞より末梢神経の脱髄,軸索変性を伴う神経原性筋萎縮性疾患である.筋萎縮は 下肢遠位部に始まり,その分布から逆champagne bottle型下肢萎縮(またはstork leg型)を示す.経過により上肢に筋萎縮が出現する.顔面・体幹・肢帯筋は侵されない.下垂足(垂れ足)のため歩行は鶏歩を示し,つまずきやすい.深部 腱反射の消失,末梢性感覚鈍麻,振動覚減弱があるが,膀胱・直腸障害はない.まれにCPK活性値の上昇,onion balb形成をみる(Jean Martin Charcotはフランスの神経科医,1825‐1893;Pierre Marieはフランスの医師,1853‐1940;Howard Henry Toothはイギリスの医師,1856‐1925)」.
球麻痺[キュウマヒ]
【英】bulbar palsy(paralysis) 【独】Bulb#rparalyse 【仏】paralysie bulbaire 【ラ】paralysis bulbaris
「《同義語》延髄球麻痺 脳幹の延髄病変で,迷走神経,舌咽神経と舌下神経が核,核下性に両側性に障害され発語,嚥下,咀嚼ができなくなることを〔真性〕球麻痺という.これらの脳 神経は両側性の皮質延髄路で支配され(核上性supranuclear),この皮質延髄路の障害により,同様に発語などが障害されることを仮性球麻痺 pseudobulbar palsy(または核上性麻痺supranuclear palsy)という.時に顔面神経・三叉神経・副神経麻痺を伴うこともある.〔真性〕球麻痺では舌筋萎縮,舌に線維束性攣縮がみられ咽頭反射も消失する が,軟口蓋反射palatal reflexは比較的後期まで保持される.両側大脳半球の障害で仮性球麻痺が起こると三叉神経運動核の核上性麻痺により,下顎反射亢進がみられ,舌の前方 挺出が困難となるが舌筋萎縮や線維束性攣縮は出現しない.急性の〔真性〕球麻痺は→ギラン・バレー症候群*,→ボツリヌス中毒*,→ジフテリア*(→ジフ テリア後麻痺*)などでみられ,慢性の経過をとる疾患では→筋萎縮性側索硬化症*,→脊髄(延髄)空洞症*,脳幹下部腫瘍,→多発性硬化症*などで出現す る」.
多発性硬化症[タハツセイコウカショウ]
【英】multiple sclerosis(MS) 【独】multiple Sklerose 【仏】scl#rose en plaques
「脱髄疾患*の一種で,中枢神経系の白質に大小さまざまの脱髄巣が散在し,その病巣もまた新旧さまざまなのを特徴とする.病巣は側脳室周囲,視 神経,脳幹,脊髄などの白質に好発する.組織学的には髄鞘が破壊され,軸索,神経細胞は侵されない.脱髄巣は早期には炎症性細胞浸潤があるが,慢性期にな るとグリア線維でおきかえられて硬くなる.緯度の高い地方に多発する傾向があり,急性型多発性硬化症では同心円型脱髄巣を形成することがあり→バロー同心 円硬化症*Balo's concentric sclerosisと呼ぶ.有病率は欧米では10万人あたり30〜80人であるが,わが国では1〜5人程度にすぎない.臨床症状は視神経炎,複視,眼振な どの眼球運動障害,痙性麻痺,→有痛性強直性痙攣発作*painful tonic seizure,レルミット症候群 Lhermitte syndrome(→レルミット徴候),失調症,言語障害,膀胱直腸障害などの症状がいろいろな組み合わせで出現し,しかも寛解を示すことに特徴がある. CTや核磁気共鳴法などによって脱髄巣を証明し得るほか,髄液の免疫グロブリン,感覚誘発電位などに異常所見をみることが多い.原因は不明であるが自己免 疫疾患説,感染説などが唱えられている.→視神経脊髄炎症候群」
難病(特定疾患)[ナンビョウ]
【英】intractable diseases(specified diseases)※日本人による考案か?
「1972(昭47)年の難病対策要綱によれば,行政対象とする難病の範囲を, 1)原因不明,治療法未確立であり,かつ後遺症を残すおそれが少なくない疾病, 2)経過が慢性にわたり,単に経済的な問題のみならず介護等に著しく人手を要するために家庭の負担が重く,また精神的にも負担の大きい疾病(原文のまま) としている.対策として, 1)調査研究の推進, 2)医療費自己負担の解消, 3)医療施設の整備をすすめてきているが,癌,脳卒中,心臓病,精神病などのように別の対策がすでにあるものはこの対象から除外されている.特定疾患調査 研究事業の対象疾患のうち,診断技術が一応確立し,かつ難治度・重症度が高く,患者数が比較的少ないために公費負担の方法により受療を促進しないと原因の 究明や治療方法の開発などに困難をきたすおそれのある疾患については,これを治療研究対象疾患に指定している」.
関連リンク
文献リスト
Copyright Mitzub'ixi Quq Chi'j, 2009