ヤクザと臓器移植
施設寄附行為は臓器を「売買」したと言えるのか?
■ヤクザと臓器移植とスティーブ・ジョブス (李啓充先生の文章の全文引用です/ ■見出しは、池田が付けました/本文中に加筆箇所が多数あります)
ハンドウアウト(要パスワードです! japanYakuzaTransPlant.pdf)
しかし,MELDが導入された2002年以降,米国において肝移植をめぐるトラブル が皆無になったかというとそんなことはない。
2003年9月,ロサンゼルスのセント・ビンセント・メディカル・センターで,本来移植が行われるべき患者にではなく,待機順位52位と, はる かに下位の患者に移植が行われ問題となった。しかも,移植後,書類をねつ造,あたかも優先順位1位の患者に移植が行われたように装ったから 悪質だった。
■待機リストの上位へのスキップ疑惑
さらに,日本でも報道されたことと思うが,山口組系暴力団後藤組組長・後藤忠正ら暴力団関係者4人がUCLAで肝移植 を受けていた事実が 2008年に明るみに出、問題となった。
■後藤忠政(本名:忠正,1942- )とはこんな事情の人(ウィキペディア日 本語より)
1942年東京生まれ、暴力団・川内組若頭補佐兼静岡支部長を経て、暴力
団・後藤組を結成、後に伊堂組舎弟となった。指定暴力団・山口組の幹部構成員として、五代目山口組若頭補佐、六代目山口組舎弟などを歴任したが、2008
年をもって引退。2001年4月、肝臓が悪化したため、アメリカで肝臓移植を受けさせてもらうかわりに、連邦捜査局に山口組内部情報を米当局に教えると約
束をし、弘道会の幹部らのリストや山口組の米国でのご用達の金融機関などを教えた。2001年7月にカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)付属病
院で肝臓移植手術を受け、その際同病院へ10万ドルを寄付。病院側が謝意を表明したプレートを院内に掲示したため、問題となり直後に撤去された。2003
年11月ごろ、アメリカの捜査当局は、後藤からの情報を元に、五菱会の実質2だった梶山進の資金2億ドルを発見し、警察庁に連絡した。資金2億ドルは、
全額没収された。
4人に移植が行われたのは,MELD導入前後にまたがる2001〜04年の4年 間。いずれも比較的短い待機期間の後に移植を受けることが でき たのだが,通常,ロサンゼルス地区では,3年以内の待機期間で移植を受けられる患者は34%に過ぎない上,移植を受けられずに亡くなる患者も毎年 100人を超すと言われている。しかも,後藤組長など2人が移植直後UCLA外科部門に各10万ドルを寄付,「金で肝臓を買った」とする批判が噴出した (註:以下)。
■すべては病院収入のため。
註:米国の保険に入っていない「無保険患者」に対する手術は割引なしの「定価で の販売」なので,UCLA・執刀医にとっては診療報酬面からも大 幅な収入増になったと言われている。
■貧乏は不幸という、道徳の存在
ちなみに,『ジョンQ』は,デンゼル・ワシントン演じる父親が子どもに心臓移植を 受けさせるために悪戦苦闘する様を描いた映画であるが, 医 師・病院が,「親に支払い能力がない」ことを理由に子どもを待機リストに載せるのを拒否することがストーリーの要となっている。実は,「支払い不能」を理 由に待機リストに載せない行為は決して「絵空事」などではなく,現行ルール下ではまったく「合法」の行為とされている。日本の暴力団関係者が「金で肝臓を 買った」かどうかの真偽はともかくとして,「金で臓器を買う」対極には,「お金がないと待機リストにも載せてもらえない」という悲惨な状況があるの であ る。
■〈犯罪歴で病人を差別してはならない〉という論法
さらに,暴力団関係者の肝移植をめぐっては,移植を実施したUCLA外科部長の役割も注目された。手術後日本に何度か 「往診」しただけでな く,後藤組長が収監された際にも診察,「拘置生活に耐えられない」と,医学的理由から保釈を求める診断書を裁判所に提出したのである。後藤組長を「特別扱 い」したとする批判に対し,外科部長は「私は患者を犯罪歴で差別するようなことはしない」と弁明した。
■ヤクザはなぜ米国入国が可能になったのか?
ところで,米国政府は,原則として日本の暴力団関係者の入国を認めていない。ではなぜ後藤組長が入国できたのかというと,それは,FBIと情 報提供について「取引」したからだとされている。
後藤組長が肝移植を受けた後,稲川会・稲川裕紘 (本名:土肥, 1940-2005)[三代目]会長 がやはりUCLAでの肝移植を希望した。ロサンゼルスタイムズ紙によると,稲川会長も FBIに情報提供を申し出たのだが,ビザは発給されなかった。後藤組長がFBI との約束を反故にし,情報提供をしなかったことがたたったからだと言われている(稲川会長はその後オーストラリアで肝移植を受け,2005 年[5月]に日本[の病院]で死 亡)。
■資料
米国移民法で無査証入国非適格と定めている項目、ひとつでも該当する場合は、原則として無査証入国はできない。
■複数の州で待機リストに記載されること、召喚されたら、すぐに急行できること
日本の暴力団関係者に肝移植を実施したことについて,UCLAは「何もルール違反はしていない」と開き直った。しかし,「移植はドナーの善 意 で成り立っている。ドナー・カードに署名した人が快く思うはずがない」と批判されたのは言うまでもない。 「宝くじ」を当てるには 注意深い読者は,ジョブズが移植を受けたのが,居住地のカリフォルニアではなくテネシー州であったことにお気づきになられたのではないだろうか。テネ シー州は移植待ちの患者が少ないことで知られている上,米国の移 植ルールは,患者が複数の地域で待機リストに名を載せることを禁止していないのである。
というのも,たとえ複数の地域で登録したとしても,遠隔地でドナーが現れた場合,居住地から手術先の病院まで移植が可能な時間内に移動す るこ とは,通常,まず不可能だからである。しかし,ジョブズのように自家用ジェットを所有するような大金持ちの場合,全米のどこでドナーが現れようとも,数時 間で手術地に移動することは容易である。彼らにとって,複数地域での登録は「宝くじに当たる確率を大幅に高める」手っ取り早い手段に過ぎないのである。
後藤組長は「肝臓を金で買った」と批判されてい
ると
上述したが,ジョブズの場合,肝臓を直接金で買ったわけではないにしても,複数地域での登
録という「裏技」が使えたという意味で,財力に物を言わせて移植を受けた事実に変わりはないのである。
データ出典:http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02863_04
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■問題
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■スティーブ・ジョブズ(Steven Paul Jobs, 1955-2011)臓器買収疑惑に答える
【ヘッダ】Jobs and Hospital Answer the Critics
【出典】CNBC, Tuesday, 23 Jun 2009
http://www.cnbc.com/id/31515176
【本文】
Facing mounting criticism that Apple CEO Steve Jobs
acquired a donated liver somehow through unethical means, the hospital
where Jobs had the operation took the extraordinary step of confirming
the surgery, and offered the reasons why Jobs was a prime candidate for
the organ.
Dr. James D. Eason, program director at Methodist
University Hospital Transplant Institute and chief of transplantation
"confirmed today, with the patient's permission, that Steve Jobs
received a liver transplant at Methodist University Hospital Transplant
Institute in partnership with the University of Tennessee in Memphis,"
according to a statement from the hospital.
"Mr. Jobs underwent a complete transplant evaluation
and was listed for transplantation for an approved indication in
accordance with the Transplant Institute policies and United Network
for Organ Sharing (UNOS) policies," the statement continued.
"He received a liver transplant because he was the
patient with the highest MELD score (Model for End-Stage Liver Disease)
of his blood type and, therefore, the sickest patient on the waiting
list at the time a donor organ became available," Dr. Eason said.
Apple spokesman Steve Dowling would not comment on
the hospital's statement.
Statement from Methodist University Hospital
Transplant
However, two sources at Apple told me tonight that
both Jobs and the hospital were facing increased criticism that Jobs
used his wealth and status to secure the donated liver. The Wall Street
Journal, which broke this story, raised the issue in its Friday evening
coverage that there might be a perception that Jobs state-shopped,
looking for the shortest wait-list for a liver transplant.
In fact, in March when we were chasing this story, I spoke with one of
the top liver transplant surgeons in the world who remained skeptical
that Jobs would choose the facility in Memphis.
Hospital officials answered that concern tonight, saying, "The
Methodist University Hospital Transplant Institute performed 120 liver
transplants in 2008 making it one of the ten largest liver transplant
centers in the United States. We provide transplants to patients
regardless of race, sex, age, financial status, or place of residence.
Our one-year patient and graft survival rates are among the best in the
nation and were a dominant reason in Mr. Jobs’s choice of transplant
centers."
The blogosphere has been rife with speculation that Jobs may have
figured out a way to cut in line, and there have been questions as to
how he was able to secure the liver.
These sources say the same charges were leveled against Methodist
University Hospital. And after a while, both the hospital and Jobs
decided it was best to come forward to mitigate the criticism.
For the famously private Jobs, allowing the hospital to release this
statement shows just how serious the criticism was, how loud the
complaints had become, and how deeply they were felt by both hospital
officials and Mr. Jobs himself, a source told me.
According to the statement, "Mr. Jobs is now recovering well and has an
excellent prognosis."
スティーブ・ジョブズ病歴
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■バロック問題
美馬達哉氏は、英国の政治経済学者メアリー・カルドーの著作『バロック的兵器廠』(邦訳『兵器と文明』)から着想を得て、‘臓器移植’は近
代科学におけるバロック的技術の最たるものであると指摘している。
「『バロック的技術』とは、軍事の領域で使われ、兵器システム全体を考えず、システムの一部分の技術的改良のみを自己目的化する結果、兵器は大型・複雑
化し、高価になり、同時に信頼性は低下し、有用性は失われつつあるという事態を指している言葉である。」(医療人類学、五号、四頁、一九八九)
彼によると臓器移植は、「病人の悪くなった臓器だけを、別の健康な臓器と交換する」ゆえに、近代医療がもつ<臓器還元主義=特定病因論>の極みであると
いう。そしてこのことを具現するために、次の三つの過程が起こっているという。すなわち
(1)<臓器交換の自己目的化>
臓器移植を「治療」として確立するために、生体の自己防御機構であるの免疫系を破壊する必要がある。そのための免疫抑制という手段が開発される。強力な免
疫抑制剤の登場は、より適合性の低い臓器を使用することによって移植の件数が増大する。
(2)<自己増殖的肥大化>
万能治療としての移植が宣伝され、流行するとともに移植の適応(=治療の対象となること)が増加し、その結果生存率が上昇し、「治療法として確立する」。
(3)<内向的自己完成>
移植の拡大は「脳死」患者への治療を打ち切り、救急医療を臓器資源の生産場と化す。また移植が臓器不全に対する他の治療法の開発を抑制する側面をもちはじ
める。(同上)
★ これに類する事柄として、ギアツの agricultural involution やボアズのPrimitive
Artsにおけるdegeneration(装飾が一方的に微細になっていくこと:用語確認せよ)があげられる(田村師匠の御指摘による)。→→定向進化
のような袋小路化。★美馬達哉,臓器移植−バロック的技術としての,医療人類学,5号,p.4,1989:カルドー、メアリー『兵器と文明』技術と人間
社、1983
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