現場力と実践知(2010年)
授業の目的
1.実践知や身体知に関する実践的な知識を手がかりとして、“現場力”を考える 視点の多様性を確認する。
2.場との関係を考慮しつつ、自分自身の身体を用いて、知覚や感覚、運動、思 考といった人間の営みを根本から問い直す。
3.現場の多様な関係性の中から、具体的な人間の営み方(専門的な実践も含 む)や知恵を見出す方法を検討する。
講義内容
私たちは、ある「現場」に参加したときに、思うように動けなかったり圧迫 感を感じたり、あるいは逆に、状況に促されるようにスムーズに動けたり、先 のことまでもが見えてきたりすることがあります。本講義では、受講者それぞ れが活動する場において経験していることが、何によって促されたり決定され たりしているのかを考えます。そのため、現場において活動する主体である自 分自身の〈身体〉の営みとこの身体とともにある実践の知恵を多様な視点から 問い直すことを目指して設計されています。
具体的には、ワークショップなどを取り入れた経験学習、グループディス カッションを組み合わせながら、授業を進めていきます。そのため、受講者に よる積極的な参加を期待します。
授業内容は、下記の通りです。ひとつの内容につき、複数回の授業を行いま す。講義内容の順序は、初回の授業において提示します。
【授業スケジュール】
教科書特に指定しない。適宜資料を配布する。
参考文献授業毎に関連する書籍と文献を紹介する。
成績評価平常点(60%)、レポート(40%)。
グループ討論への参加度も評価に含める。
■現場とは
私たちは様々な社会活動に参加しています。例えば、家族の団欒や学校での ゼミナール、友人との交流、職場での専門的な実践などがこれに相当します。 本講義では、複数の人々が参加して具体的な活動が行われたり、その活動の中 で知恵が育まれたり、伝承されている場所を「現場」と考えます。つまり、よ り日常的な交流の場から専門的な実践が行われている場までを、幅広く射程に 入れております。
■現場力とは
複数の人々が活動する場所では、その場の雰囲気や居心地、ある種の圧力の 加減などを感じ取ったり、その場を見渡しながら活動が行われたりしていま す。同時にそれらを足場としながら、そのときその場で求められることを瞬時 に判断したり、行為に移したり、ときには立ち止まったりじっと待ったりする こともあります。
現場力とは、ある現場において行っている上述した行為の中に宿されている 知恵、つまり、その場や人と人の関係の中から生まれてくる雰囲気などの感受 性や応答性、そのときその場での求めに応じて行動する臨機応変さ、間やタイ ミングの取り方、対人コミュニケーションと深く関係する実践の知恵のことを いいます。そのような知恵は、ある現場における具体的な活動の中でこそ生み 出され、育まれ、共同実践の中で伝達されうるものと考えます。
■実践知とは
実践知については、古代ギリシャのアリストテレスのプロネーシスから始ま り、現在に至るまで様々な言説がみられますが、ここでは、その場で求められ ていることが熟慮された行為のことを言います。「知」を「行為」と言い換え ていることに違和感を覚えられるかもしれませんが、その行為自体にある種の 「知恵」が含み込まれているのです。また、その場で求められていることは、 状況によっても、参加者による考え方によっても変わる可能性がありますの で、強く文脈に依存した知恵であると考えます。
■本講義では
現場力と実践知という概念自体を問い直すことを目的としています。そのた め、先人の多様な言説を確認する作業を行います。また、概念を明確にしてい くために、実際に身体を動かしてその感受性を研ぎ澄ませたり、具体的な経験 を問い返したりする作業を行います。自分自身が感じていることや無自覚のう ちに行っていることの再発見は、現場の実践から、ある種の知恵を見出す方法 を学ぶことにもなるでしょう。
さらに、現場は複数の参加者で構成されています。その構成を再現する受講 者間のディスカッションを定期的に行います。授業自体を一つの現場と見立て て、その場でどのように知恵が生み出されてくるのかを体験することも授業内 容に含まれます。
関連科目として、第1学期に開講する「臨床コミュニケーション氈v「ディス コミュニケーションの理論と実践」、第2学期に開講する「臨床コミュニケー ション II」、夏期集中講義に開講する「医療対人関係論」があります。これら を受講していなくても履修可能です。
キーワード 現場力、実践知、対話、臨床コミュニケーション
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