はじめによんでください

マートンのCUDOSからザイマンのPLACEまで

Robert K. Merton's the CUDOS principles


池田光穂

ロバート・キング・マートン(1910-2003)のノルム(規範)について

ロバート・キング・マートン(Robert King Merton, 1910-2003)は科学者集団のエートスを歴史的資料からまと めてクードスの原理(the CUDOS principles)という形で表現しました。なおちなみに、彼の息子ロバート・カーハート・マートン(Robert Carhart Merton, 1944- )は1997年にノーベル経済学賞を受賞しています。

さて、父のキング・マートンの言う、CUDOSとは、英語の5つの頭文字からとった次の4つの原理です。すなわち、1.科学的真理の共有性 することの優先(共同占有性:Communalism)、2.科学的真理は、人種、ジェンダー(性別)、民族性、国籍や特定の文化など影響を受けないのだ という普遍性(Universalism )への信念、3.科学の利益は、人類のためにあり、私利私欲のためにあるのではないという無私性/利害への無関心 (Disinterestedness)、4.検証や証明がされるまでには、どんな真理と言われるものに対しても疑問をぶつける組織的懐疑主義 (Organized Skepticism)、です。

ウィキペディアの Mertonian norms から引用しましょう(2011年5月12日確認)

The guiding principles in Cudos are:

  1. * Communalism entails that scientific results are the common property of the entire scientific community.
  2. * Universalism means that all scientists can contribute to science regardless of race, nationality, culture, or gender.
  3. * Disinterestedness according to which scientists should not present their results entangled with their personal beliefs or activism for a cause. Scientists should have an arms-length attitude towards their findings.
  4. * Organised Scepticism ;Scepticism means that scientific claims must be exposed to critical scrutiny before being accepted.

以上 をおさらいしてみましょう。社会学者マートンは、科学研究を通して、科学者集団に は次のようなエートス(ēthos)が共有されていると指摘しました。

    1. 科学的真理を共有しているという共同占有性=コミュナリズム
    2. 科学は世俗的な権力から自由なのだという=普遍性
    3. 科学の利益は自分の営利のためではないという=無私性
    4. 真理が証明されるためには、何事も疑ってかかる=懐疑性、それも集団的な懐疑性

ジョ ン・ザイマン(1925-2005)のノルム(規範)について

マートンの結論は、歴史的な研究をもとに推論したために、科学者の現実を反映していない。とりわけ社会学者が集団に対してみる冷静な客観的態度が欠けてい るのではないかという指摘は、古くから指摘されていました。物理学者であり、科学技術論に大きな貢献をしたジョン・ザイマン(John Michael Ziman, 1925-2005)は、CUDOSをもじって、PLACEだとそのアクロニムで次のように言いました。それぞれマートンのCUDOSと対照的です。

    1. Proprietary:[知識資源を中心とした]資産階級でかつ研究を独占する(=所有化)傾向(←→Communalism)
    2. Local:真理の通用範囲は、普遍的で局所的だ(←→Universalism)
    3. Authoritarian:知に対して謙虚ではなく権威主義的(←→Disinterestedness)
    4. Commissioned:専門家として[政府や権力あるいは資本家から]委託されている(←→Disinterestedness
    5. Expert work:専門家としての振る舞いが期待されているし、また専門家として振る舞う(←→Organised Scepticism)

マートンの理想主義あるいは、理想的理念型の指摘 を、「現実はそうじゃない!」と修正したザイマンのオツム(=頭脳)がそれほど優秀 とは思えないのは、両者は科学の現状にまったくちがった認識論的アプローチをしていることにザイマンがまったく気づいていないからです。

科学社会学あるいは科学論という観点からみれば、ザ イマンはここでは全く失格です。

リンク

文献

  • Merton, Robert K. (1973), "The Normative Structure of Science", in Merton, Robert K., The Sociology of Science: Theoretical and Empirical Investigations, Chicago: University of Chicago Press.
  • Ziman, John (2000), Real Science: what it is, and what it means, Cambridge: Cambridge University Press
  • その他の情報

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