看護人類学から人類学的看護へ!講義
Prolegomena to Anthropological Nursing
解説:池田光穂
00. 看護人類学から人類学的看護へ(基礎資料集)
Prolegomena to Anthropological Nursing
「前の晩、私は恐れと不安で一睡も出来なかった。その二日前、コロンビア長老教会医療センター乳幼児病院の医師たちのチームが、1年半前に心臓切開手術を受けた息子のマークの定期検診を行ない、稀少な肺病の兆候を見出したのだ。この結果に衝撃を受けた医師たちは、さらに六時間に及ぶ精密検査を行なった末に初めて私たちを呼び、マークが肺高血圧症である、と告げた。「助かる見込みはありません」と彼らは言った。「あとどのくらい生きられますか」と私は訊ねた。「判りません。数ヶ月なのか、それ数年か」。/翌日、医師のチームは、肺生検を受けさせる許可を求めた。これは非常な苦痛を伴う、侵襲的な〔針やカテーテルなどを用い、体を傷つけて行なう〕手技だ。「それをすれば良くなるんですか?」。彼らは答えた、「いや、良くはなりません。ただ、これによって病気がどの程度進行しているかが判ります」。マークは既に、前日の辛い検査で消耗し切っていた。息子を胸に抱きながら、もしもこれ以上、手術室の中でマスクをした見知らぬ人々が彼に針を突き立てるなら、彼の小さな心臓は悲鳴を上げ、そのまま息絶えてしまうだろう、と私は感じた。私たちは生検を拒否し、マークの毛布と衣類、それにピーター・ラビットを纏めて、彼を家に連れ帰った」 。
エレーヌ・ペイゲルス『禁じられた福音書:ナグ・ハマディ文書の解明』松田和也訳、Pp.10-11、青土社、2005年
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