臨床コミュニケーション第9
回(2012-06-12)
痛みを伝える
宮本 友介
【導入】
「虹の色には何色あるか」と問われてどのように答えるだろうか。色相は連続的に変化しているので,この問いに対する正解はない。敢えて挙げるならば,「虹
には無限の色が存在する」になるだろう。Newton は虹色として7 色を挙げたが,実際には7
色を識別できる人は少ないのではないだろうか。識別される色数は文化的背景に依存するといわれるが,広くは5 色として識別され,3 色あるいは2
色とされる場合もあるという。
私たちの色覚は,網膜の中心窩近傍に分布する錐体細胞が特定の波長(三原色)に対して特異的に反応することで生じている。だが,錐体細胞の分布および特
性には個人差があり,完全に同じ色覚をもった人間は二人としていない。(イメージ:電機屋のテレビ売り場)私たちは,ごく自然に感覚を共有(【羅】
communis) できていると思いがちだが,実は「感覚そのもの」を共有することは不可能である。それでも\コミュニケーション"
が可能になるのは,感覚に付随するさまざまなものを共有しているからに他ならない。今回は,とりわけ臨床コミュニケーション(human care
in practice) で重要となる「他人の痛みを理解する」←→ 「痛みを伝える」ための方法について考えてみよう。
【説明文】
ある先生からこんな想い出話をうかがったことがある。その方がまだ若くある病院に勤務しておられたところ、農家の老主人が「キヤキヤ痛んで困っていま
す」と訴えたそうである。「キヤキヤとはどんな痛みかね? ズキズキかね? シクシクかね?
キリキリかね?」「いやちがう、先生、キヤキヤですよ」「そのキヤキヤというのを説明してほしいのだが」「キヤキヤはキヤキヤだよ、先生」と、痛むという
その場所のあたりを触診しながら、問答を繰返したあげく、その先生はカルテに「KIYA-KIYA
Gefuhl*」と記入したのだそうだ。どんな痛みかはわからずじまいだったが、最後にその老主人は「先生はわしの言うことをよく聞いて下さった、こんな
によく聞いて下さったお医者さんは、はじめてだ」と感謝したそうである。看護婦長さんも、「先生が、何とかして患者さんの言うことを、わかろうとされてい
るその努力と熱心に頭がさがりました」と言ったそうだ』
「ところで佐藤さん、『キヤキヤ』とはどんな痛みだと思いますか?」
出典:佐藤愛子他(1991) 『痛みの話――生活から治療から研究から』. 日本文化科学社.p. 85.
*Gefuhl【独】(u はウムラウト): 気持ち,感じ,感情
【本日の課題】
1. "KIYA-KIYA Gefuhl" とはどんな痛みだろうか。できるだけ具体的に説明してみよう。
2.
「痛み」を端的に表現するための新しい用語(擬態語に限らなくてもよい)を提案してみよう。(まずは痛みの経験について述べ合い,痛みにはどのような特徴
があるのかを列挙してみる。)
3. そもそも「痛み」を定量的に測定する(数字で表す)ことは可能だろうか。可能だとすると,どのような方法が考えられるだろうか。
オリジナル資料:(
20120612miya.pdf)パスワードがかかっています
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