〈殺す〉の同義語について
On Japanese meanings of KOROSU, killing in English: an analysis of the synonym of killing
〈殺す〉の同義語
類語辞典(http://thesaurus.weblio.jp/content/l殺す)
殺すという語は、まず〈生きているもの〉を強制力をもって不可逆 的に死に至らしめる行為である。
ところが、殺す(ころす)の同義語(シソーラス)について調べてみると、殺すという語には、それ以外のさまざまな意味が賦与されていることがわかる。
上記のウェブ検索をおこなってみると、これらの同義
語には、殺すことにまつわる様態に応じてさまざまな表現方法があることがわかる。大きくわけると。まずA.〈生きているもの〉を殺すということにまつわる
5つの表現がみられる:(1)殺す行為そのものの類似語、(2)殺す主体によるもの、(3)殺す対象によるもの、(4)用具を使ったり殺す方法に関するも
の、(5)殺す・殺傷する規模によるもの、の5つに大別できる。そして、B.〈生きているもの以外もの〉の働きを止めるということを殺すという用語で言い
替えたものがある。
以上の分類に従って、以下に列挙してみよう。
A.大分類:〈生きているもの〉を殺すことに関する 同義語
(A-1)殺す行為そのものの類似語
殺める(あやめる)、屠る(ほふる)、葬る(ほうむ る)、ばらす、つぶす、さばく、しめる、殺る(やる)、けす、そぐ、めっする、殺生する、命(いのち)をうばう、滅亡させる、あの世におくる、打ち留める ・ 眠らす ・ 討取る ・そこなう(害う)・たおす(仆す)・ 片付ける ・しいする(弑する) ・ 叩殺す ・ 為とめる ・ ぶっ殺す・ 討ち果す ・ 打取る ・ かた付ける ・ 果す ・ 討ち止める ・ 討ち取る ・ 打留める ・ 仕とめる ・ 眠らせる ・ 討止める ・討ち果たす ・ 打止める ・ 殺害 ・ あやめる ・ 打ち取る ・ 死なす ・ ぶち殺す ・ 打ち殺す ・ 叩き殺す ・ 殺生・しとめる(仕留める)・はたす(討果す)・いとめる(為留める)
(A-2)殺す主体によるもの
【強盗、通り魔、殺人鬼など】
殺人(事件) ・ 殺傷(事件) ・(山荘での)惨劇 ・ 血なまぐさい(事件) ・ 殺害する ・ 惨殺する ・ 強殺する ・ 凶行におよぶ ・ (〜を)手にかける ・毒牙にかける ・ 他殺(死体) ・ なぶり殺しにする
【政府や合法・非合法の暗殺機関など】
処刑台に送る ・ 電気椅子にすわらせる ・ 首をはねる ・ 銃殺する ・ ギロチンにかける ・ ガス室に送り込む ・ (軍隊による)流血沙汰 ・ (犯人を)射殺する ・ 射ち殺す
【暗殺者や殺し屋など】
消す ・ 葬る ・ 始末する ・ 片づける ・ 処分する ・ 駆除する ・ ばらす ・ 仕とめる ・ 屠(ほふ)る ・ 屠殺する ・ 抹殺する ・ 命を奪う ・ 口を封じる ・ 殺(や)る ・ 「お命頂戴つかまつる」 ・ 血祭りに上げる
(A-3)殺す対象によるもの
【政治犯、政敵、活動家などを対象にする】
誅殺する ・ 誅伐する ・ 天誅を加える ・ 鉄槌を下す ・ 倒す ・ 排除する ・ 圧殺する ・ 息の根をとめる ・ 葬り去る ・ 討つ ・ 討ち果たす ・ 暗殺する ・ 毒殺する ・ 謀殺する ・ 殺(あや)める ・ リンチにかける
【家畜や動物などを対象にする】
(ヤギを)ほふる ・ 屠殺(とさつ)する ・ 畜殺する ・ 薬殺する ・ (トリを)しめる ・つぶす・さばく・(羊を)落とす ・ (大鹿を)仕留める ・ 「殺生(せっしょう)(をしてはならん)」 ・ スケープゴート ・ (〜に)とどめをさす
【昆虫やばい菌、植物などを対象にする】
駆虫(剤) ・ (害虫を)退治する ・ (ムカデを)踏み殺す ・ 踏みつぶす ・ (ばい菌を)死滅させる ・ 殺菌する ・ (花を)枯らす ・ 枯れ葉剤をまく
(A-4)用具を使ったり殺す方法に関するもの
刺す、絞殺する ・ 絞め殺す ・ 扼殺(やくさつ)する ・ 撲殺する ・ なぐり殺す ・ 打ち殺す ・ 刺殺する ・ 刺し殺す ・ 斬り殺す ・ (車で)轢(ひ)き殺す ・ (野犬が)かみ殺す ・ (女の怨霊が)とり殺す
(A-5)殺す・殺傷する規模によるもの
皆殺し ・ 大殺戮(さつりく) ・ 大量虐殺 ・ 根絶やしにする ・ 民族浄化(に乗り出す) ・ 無差別爆撃 ・ ホロコースト
B.大分類:〈生きているもの以外〉のはたらきを止める同義語
【働きや機能などを停止させる】
封じる ・ 抑える ・ 扼(やく)する ・ (力を)奪う ・ (作用を)制限する ・ ブレーキをかける ・ そぐ ・ 止める ・ さえぎる ・ 制約(を加える) ・ 減殺する ・ (力を)打ち消す(働き) ・ (〜を)封じ込める
【感情や想像力など潜在的な力をそぐ】
(創造性を)窒息させる ・ (才能を)ダメにする ・ (持ち味を)そこなう ・ (〜に)水をさす ・ 押さえつける ・ 押さえ込む ・ (判断を)鈍らせる ・ (笑いを)かみ殺す ・ (息を)おし殺す ・ がまんする ・ (自分を)抑える ・ (怒りを)飲み込む
殺すという語は、まず〈生きているもの〉を強制力をもって不可逆 的に死に至らしめる行為である。そこから、殺す主体、殺す方法、殺す対象(動詞の目的語)、殺したあとに帰結する有り様などを表現する方法 により、多様な表現がある。殺すことは、一般に反倫理的ないしは罪深いこと、つまり道徳的非難すべきことだが、それらの表現には、道徳的非難を内包するよ うなものは以外に少ない。そのため副詞表現などを伴って道徳的機能を補完する。例えば「無慈悲に殺した」「残忍に生き埋めにした」と。
〈生きているもの〉を死に至らしめるという様態から、派生して〈生きているもの以外〉のはたらきを止めるということにも使われるようになった可能性があ る。そのことにより、殺すという言葉に、多義性をもたらすようになったと思われる。これは後者の用例が時間的に後になって登場したという意味ではなく、 〈生きているもの〉を死に至らしめるという行為が、殺すということの本義により近いという相対的な関係を示している。
リンク
文献
その他の情報
Do not paste, but [re]think this message for all undergraduate students!!!