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大学院共通教育に関するレポート:北海道大学への調査事例2013

Report on the Inter Graduate School Classes,  Hokkaido University, Japan

解説:池田光穂

出張報告書:大学院共通教育の実施にかかわる北海道 大学への調査旅行

1.旅行期間:

平成25 年11 月19 日〜11 月21 日(2泊3日)

2.用務先と住所:

(1)北海道大学大学院文学研究科(札幌市北区北10 条西7丁目 011-726-7728)

(2)北海道大学高等教育推進機構学務部教務課大学院担当(札幌市北区北17条西8丁目 011-706-5252)

3.用務内容:

(1)大学院共通授業科目「性差研究入門」の授業を参観し、企画担当代表教員(瀬名波栄潤・同研究科教授)に授業実施状況等について聞き取り調査をおこな う。

(2)北海道大学高等教育推進機構において学務部教務課大学院担当者(芳岡洋係長、宇田大学院担当事務補佐員)に、同大学が実施している大学院理工系専門 基礎科目および大学共通事業科目に関する実施状況等について聴取する。

4.報告内容:別項 

5.添付資料:別項

4.1 出張の概要

4.1.1「性差研究入門」の授業参観

4.1.2「性差研究入門」担当責任教員へのインタビュー

4.2 北海道大学高等教育推進機構において大学院理工系専門基礎科目および大学共通事業科目に関する実施状況等についての聴取

4.3 添付資料

4.3.1 性差研究入門シラバス:瀬名波栄潤教授提供

4.3.2 性差研究入門シラバス:『平成25 年度版大学院理工系専門基礎科目・大学院共通授業科目履修案内』から

4.3.3 瀬名波論文「北海道大学大学院におけるジェンダー教育」

4.3.4 高等教育研究推進機構でのヒアリング資料

4.3.5 北海道大学大学院文学研究科応用倫理研究教育センター

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 調査報告書1.8MB(全文:パスワード付き)パスワードは池田光穂 rosaldo[at]cscd.osaka- u.ac.jp まで当該ページのURLを含めて御照会ください。

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1.1「性差研究入門」の授業参観

11 月20 日(水)第3時限(午後1時〜2時30 分)に人文・社会科学総合教育研究棟W205教室で実施された大学院共通授業科目「性差研究入門」(責任教員:瀬名波栄潤教授)の第9回目「ジェンダー法 学と法:その隘路」(担当:尾崎一郎)[シラバスには「法の隘路」と記載。p.218]を授業参観する。

授業には、受講生は事前に準備されていたネームカー ド着用し着席する。TA1名と担当教員1名(妙木先生)がそれを補佐する。授業参加人数は学生27名で、教員は担当の尾崎先生、責任教員の瀬名波先生、補 佐を担当していた妙木先生、および参観者の池田光穂である。ネームカードの残部から3、4名程度が欠席していたと推定される。冒頭に責任教員の瀬名波先生 から講師の尾崎先生の紹介と、この授業における意義について簡単に説明されて、授業が始まった。

授業は講義形式で、1.法女性学からジェンダー法学へ、2.ジェンダー法学の隘路、3.法と性差(あるいは法の隘路)の3部構成からなる。

冒頭の1.法女性学からジェンダー法学へ、では、 ジェンダー法学の一般的特徴と、11項目からなる各論という個別議論の紹介が行われ、おおむね過去半世紀にわたる女性の法的権利観の変化、さまざまな裁判 例に見られる、婚姻観の変遷、ジェンダー意識の変化、生殖補助技術の発達による家族と家族法に関わる対応の変化、新たな問題の発生、ポルノグラフィと売買 春、性的志向やジェンダーセックス観の変化、などを通して、法が社会の変化に対してさまざまな対応をとっている様が紹介された。あわせて現今話題になった 非嫡出子の相続に関する嫡出子との差別に関する違憲判決(憲法14 条1項)をめぐる種々の判決やジェンダー法学者による解釈や異論などが判決文や論文の一部が紹介され、先に述べられた各論とのどのように関連するかなどが 手際よく説明されていった。2.ジェンダー法学の隘路では、女性の権利への社会的意識の向上と種々の法的改革に関する過程の中で登場してきた、バックラッ シュなどの問題を、ジュディス・バトラーやガヤトリ・スピバックなどの諸理論と関連づけて説明され、法社会学における更なる検討課題などが紹介された。 3.法と性差(あるいは法の隘路)では、法的リベラリズムの前提とされる個人主義と、保護と被保護の非対称的な関係を扱う「ケアの論理」との相克や、近年 の脳科学を中心としたジェンダー本質論と、社会構成主義的なジェンダーとセックス論の論争、同性愛やトランスセクシュアルなどのような性と性愛アイデン ティティの多様化というものに、法はどのように向き合うのかという課題などが検討された。

講義内容の水準は非常に高度であったにも関わらず、 寝入る学生はほとんどみられなかった(1、2名が時に軽く居眠りしたがほとんどが授業に聞き入っていた)。その理由を推測するに、尾崎先生が準備されたハ ンドアウトは16ページの大部なもので、適宜、ページを繰って注目する箇所を指示したり、難渋な判決文等を「悪文」とコメントしながらも、それを優しく読 み解いて解説するという工夫をされていて、受講者の手を頻繁に動かせることが功を奏していたものと思われる。ただし(大阪大学でも同様だと思われるが)手 を熱心に動かしてノートをとるような学生は少なく、ハンドアウトに適宜簡単なメモをとるものが若干見られただけであった。

講義は2時15 分ごろ終了し4件の質疑応答がなされた(うち2件が教員からのものであった)。質問の内容には法的な内容に踏み込んだ内容もあり、尾崎先生は適宜解説を加 えながら、授業で説明されたさまざまな難問=隘路を受講生に思い起こさせるように丁寧に応答していた。最後に瀬名波先生からのまとめの言葉があり、池田に も自己紹介と来学目的に紹介せよということで2分弱ではあるが、説明させていただいた。授業終了後に、以前、阪大で私の授業(コミュニケーションデザイン 科目)を受けていた当時の学部学生が、現在は北大の大学院生としてこの授業を受講しており、わずかな時間ではあったが旧交を温めることができた。

4.1.2「性差研究入門」担当責任教員へのインタビュー

同日の午後4時から5時15 分まで、2007 年後期から続けておられる、この授業の代表教員 である瀬名波教授に、文学研究科の教授室にてインタビューをおこなった。

この授業の来歴は古くその経緯は瀬名波ほか (2008)年の報告書論文に詳細が説明されてい る。2000 年政府の男女共同参画基本計画の策定にあわせて、北海道大学の内部にワーキンググ ループが発足し、2002 年前期から学部学生向けの全学教育科目複合科目「私たちの世界:ジェ ンダーを考える」(2単位)が発足した。初年度の開講時には150 名超の受講者と研究科を超 えた12 名の教員による授業が、現在まで11 年間続いている(現在の授業科目カテゴリーは、 総合科目人間と文化「私たちの世界:ジェンダーを考える」)。大学内における男女共同参画 計画に関しては、2005 年に全学委員会が発足しそのミッションが設定されて、2006 年に7 月に 女性研究者支援室が開設された。瀬名波教授は、2005 年度文部科学省・海外先進教育研究実践 支援プログラムによりアメリカ合衆国の米国の20カ所あまりのジェンダー関係の大学プログ ラムを視察する調査旅行に出かけた。帰国後のその時期に、瀬名波教授は当時の副学長・理事 と懇談し、学内教員有志によるジェンダー教育体制構築のための研究会「ジェンダー教育研究 を考える会」が発足し、学内の担当副理事による講演会や研究会を開催している。その活動を うけて同年12 月に総長室重点配分経費からの財政的支援を受けて「北海道大学ジェンダー教育 に関する研究教育体制整備検討作業部会」へと同研究会は発展解消を遂げた。なお、この時期 (2006 年11 月)に日本学術会議は対外報告書「提言:ジェンダー視点が拓く学術と社会の未 来」が発表された。

これらの流れをうけて翌年度の2007 年後期から学部生向けの授業に加えて、全研究科の大学 院生むけの大学院共通授業科目「性差研究入門」が開講されるに至った。この初年度のキック オフの開講授業は、現在もつづいている授業形態である、ジェンダー学やジェンダー研究に造 詣の深い学内外のさまざまな分野の教員によってオムニバス形式で開講されるもので、当初は、 学内の教員は全部の授業への参観が求められ、今後の教育体制の構築のために準備すると同時 に、ジェンダー研究の根幹となる基礎概念の説明の重複を避け、より効率的な授業運営のため の教員間のコミュニケーションデザインを試みるものであったと、理解することができる。詳 しい歴史的詳細は瀬名波(2008)に譲る。

瀬名波教授との面談により、現在の現状の自己評価と 課題には次のようなことが述べられた。 男女共同参画に関する政府からの働きかけにより、学内の有志が連絡をとりあい、まず一般教 養の授業を皮切りに、次第に教員の資質を現場であげてゆくと同時に、大学本部にかけあい学 内で研究会からワーキンググループへと発展させてゆき、大学院共通授業科目として確立し、 学内での一定の評価を得られるようになっことは、運営者としては喜ばしい。次の課題は、協 力できる担当教員の数を増やしてより多くの受講生を増やしてゆくことだが、全学の必修化に するには、現在のボランティアベースでの活動としては無理がある。ただし、現在の「性差研 究入門」は文学研究科からの提供授業であり、その運営主体を文学研究科内部に設置された、 応用倫理研究教育センター(眞嶋俊造センター長:海外出張中で接見は叶わず、名刺のみ受領) の活動のなかに「ジェンダー・セクシュアリティ研究」(担当者は瀬名波教授)として位置づ けられており、今後も安定した授業運営が確保されている。今後の課題としては、先にのべた ようにこの科目の全学必修科ないしは受講の推奨科目にするためには、学内的な知名度をあげ、 かつそれぞれの研究科に属する大学院生への広報のみならず指導教員などのこの授業科目に対 する重要性を認識してもらう一層の努力が必要である旨を述べられた。

以上の面談を行う過程で、北海道大学の大学院共通科目の運営方針や理念あるいは組織についての比較のために、大阪大学での「知のジムナスティクス」「高度 副プログラム」「副専攻プログラム」について説明し、本学の資料を手渡しした。同様の資料一式は、授業参観時に尾崎先生に手渡しした。

◎入手資料

- 瀬名波栄潤ほか12名「北海道大学大学院におけるジェンダー教育:大学院共通授業科目「性差研究入門」のはじまり。『高等教育ジャーナル:高等教育と生涯 学習』No.16, Pp.31-46,
2008.

- Center for Applied Ethics and Philosophy, 2013-2014, 三つ折りパンフレット

- 応用倫理:理論と実践の架橋 5巻別冊 シンポジウム「性差研究の作る道:老いとテクノロジー」記録、2011 年10 月、北海道大学大学院文学研究科応用倫理研究教育センター。

- 応用倫理:理論と実践の架橋 5巻別冊2 シンポジウム「ワーク・ライフ・バランス:持続可能な幸福の追求」記録、2012 年3 月、北海道大学大学院文学研究科応用倫理研究教育センター。

- 応用倫理:理論と実践の架橋 6巻別冊 シンポジウム「異性装とパロディ:自己と文化の多様性」記録、2013 年、北海道大学大学院文学研究科応用倫理研究教育センター。

4.2 北海道大学高等教育推進機構において大学院理工系専門基礎科目および大学共通事業科目に関する実施状況等についての聴取

北海道大学高等教育推進機構において大学院理工系専門基礎科目および大学共通事業科目に 関する実施状況等について聴取した。

なお、添付資料の日付は、当初予定の11 月20 日となっ ているが、初日19 日に池田が同機構に挨拶方々訪問した時に、その機会を利用して日程を前倒 して説明を受けることになったので、日付に異同が生じている。面談に応じてくださったのは 学務部教務課大学院担当者(芳岡洋係長、宇田大学院担当事務補佐員)の2名である。面談を 行う過程で、北海道大学の大学院共通科目の運営方針や理念あるいは組織についての比較のた めに、大阪大学での「知のジムナスティクス」「高度副プログラム」「副専攻プログラム」に ついて説明し、本学の資料を手渡しした。 北海道大学における大学院生むけの共通教育には、平成12(2000)年から始まった「大学院 6 共通授業科目」(2013 年度108 科目2,379 履修者数)と、平成22(2010)年度から開設された 「大学院理工系専門基礎科目」(2013 年度112 科目3,397 履修者数)の2つがある。教員が配 置された所轄部局はなく、高等教育推進機構の学務部教務課大学院担当が、教務連絡・履修登 録等の事務をおこなっている。また、前者には特定経費として750 万円が予算化され、審査の 上、希望する教育に配分されている。後者については予算経費はなく、各教員・担当教室など の「ボランティア」によるものであると言う。

この実施に対しては、それぞれ学則の「北海道 大学大学院共通授業科目規定(と実施要項)」および「北海道大学大学院理工系専門基礎科目 規定(と実施要項)」により定められている。下位の科目群に関する分類は、前者のものはな く、ひとくくりの「大学院共通授業科目」のみであるが、後者のものには3つの区分すなわち、 1)「科学技術・リベラルアーツ科目」、2)「基礎科学領域(さらにその下位に「数学系・ 物理系・化学系・生物系・地球科学系」がある)」、3)「社会基盤領域(さらにその下位に 「情報・生命・環境・エネルギー・先端融合・フロンティア・社会工学・キャリアマネジメン ト」がある)」にわけられている。 「大学院共通授業科目」の守備範囲は非常に広範囲であり、理工学のトピック研究の特別講 義から実践語学、インターンシップや、プレゼンテーションやキャリアマネジメントなど多岐 にわたっている。

研究科別の受講生の分布を示す資料の提供は受けていないが、「大学院理工系専門基礎科目」 における自研究科/他研究科の受講の内訳に関する資料は示されており(入手資料の資料3) 開講初年度を除くと、概ね全履修者の1割が他研究科の受講生であり、この科目が研究科全体 を通した全学共通の授業科目として履修されているよりも、自研究科の基礎科目と開講されて おり、それが他の「理工系」の研究科にも開かれて開講されているということがわかる。

◎入手資料

- ヒアリング資料「大阪大学コミュニケーションデザイン・センター 池田先生」全20 ページ、平成25 年11 月20 日付文書

- 北海道大学『平成25 年度版大学院理工系専門基礎科目・大学院共通授業科目履修案内』全300 ページ。

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調査報告書1.8MB(全文:パスワード付き)パスワードは池田光穂 rosaldo[at]cscd.osaka- u.ac.jp まで当該ページのURLを含めて御照会ください。

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