『星の王子さま』より
(サン=テグジュペリ著、稲垣直樹訳、平凡社)
「ぼくの毎日の暮らしは、同じことの繰り返しなんだ。ぼくはニワトリを追いかける。人間たちはぼくを追いかける。ニワトリの一羽一羽がみんな似たり寄った
りなのさ。それに、人間の一人ひとりもみんな似たり寄ったりさ。だから、ぼくはちょっとばかり、つまらないのさ。でも、もし、君がぼくのなじみになってく
れたら、ぼくの毎日がパッと明るくなるだろうよ。ほかのだれの足音とも違う足音を、ぼくは聞き分けるだろうよ。ほかの人の足音が聞こえたら、ぼくは思わず
地面の下にもぐってしまう。君の足音が聞こえたら、ぼくは思わず巣穴の外に出るだろうよ、まるで、音楽に呼びだされたみたいにね。それにだよ、ぼくはパン
なんか食べない。小麦はぼくには、何の役にも立たないのさ。麦畑を見たって、ぼくはなにも感じない。そういうことって、さびしいよね。でも、君は金色の髪
をしている。君がぼくのなじみになってくれたら、すばらしいことになる。小麦も金色だろ。だから、小麦を見れば、ぼくは君のことをきっと思い出すのさ。そ
うなれば、ぼくは、麦畑に風が吹く音だってすきになるだろうよ・・・・・・」