ヴァーツラフ・ニジンスキー(1890-1950)の詩をよむ
Nijinsky's poem, your body, and my body
プログラム
1.各担当教員から、これまでの臨床コミュニケーションの授業の概要と、御自身が担当され
た授業と、その中でも印象に残った授業経験にまつわるエピソードを披露してもらう(できればTAの人も参加経験について語ってもらう)——アイスブレイキ
ングとイントロ
2.以下の文章は、ロシアの天才的舞踊家であったヴァーツラフ・フォミッチ・ニジンスキー(Vaslav Nijinsky, 1890-1950)による手記の一節である。彼は、出入りはあるもののセルゲイ・ディアギレフ(Sergei Diaghilev, 1872-1929)率いるバレエ・リュス(ロシア・バレエ団)で活躍し、バレエ(舞踏)史上革命的な舞台となった「牧神の午後」(1912年初 演)演じ たことでも著名である——写真は、そのコスチュームによるパネル映像でのポーズである。1917年バレエ・リュスの座長として南米アルゼンチンで公演をし た後、奇行が目立つようになり、やがて引きこもるように、パレエへの興味を失っていった。1919年1月19日、滞在国スイスのホテルで200名の観客を 前に、演技をせず叫んだり座り込んだりした後に「これから戦争の踊りをします」——この時期は第一次大戦が前年に講和し、また故国ロシアでは革命が 1917年に起こりソビエト政権期にあった——と言って、すさまじい即興の演舞を「狂ったように」延々と演じ続けたという。以降、彼は「精神病患者」にな り『手記』を書き始めることになる。引用したのは、その「第二のノート」と呼ばれるものの中にある、詩作である。
3.さまざまな形式で、この詩(『手記』)を朗読してみましょう
4.この詩の作者(ニジンスキー)の社会的あるいは伝記的背景など気にせず、この詩について論じてみましょう。「僕(一人称、私と置き換えてよい)」 「君」「愛」「神」などは、読み手が自由に解釈していいし、各、鑑賞者が住まう「世界」の物語として「読み込んで」みましょう。
5.朗読している時、あなた自身はどんな気持ちになったでしょう。その感想を述べ合ってみましょう。
***
私は詩を書くのが好きだが、詩を書くことはむずかしい。その習癖がないから。頑張ってもっと書いてみよう。
私は血について語りたい。
だが私の愛はそこにはない。
私は愛したい……
私は言いたい……
私はしたい……
私は……
私は君を愛している……
私はすべての人を愛したい……
私は……したくない。
私は……
私は詩では語れない。詩を感じることができないから。神に命じられたら、詩を書くことにしよう。私は出来上がっていない詩の例を見せたかったのだ。私は詩
を練り上げることがきらいだ。だから感じない詩は捨ててしまった。
私は詩を書きたい。
私は君を愛したい。
私は君を傷つけたい。
私は「なんじ」が欲しい。
私は「彼」が欲しい。
もし君が「彼」を愛したのなら、私にも「彼」が愛せる。
もし「彼」が君を愛するようになれば、私は君を愛せる。
君を愛したい。君の中の愛が欲しい。
私は君を愛することができる。私は君のもの、君は私のもの。
私は君を愛したい。君は感じることができない。
私は君を愛したい。君は私を愛していないから。
君に言いたい。君は知的だ。君はばかだ。
君に言いたい。君は神だ。私は君の中にいる。
君に言いたい。私は君を愛している。私の神よ。
君は私に好意をもっていない。私は君に好意をもっている。
私はこんなふうに泣かないだろう、私はこんなふうに泣くだろう。
君が愛を得ることを願う。君は私に言うことができない。
私はいつまでも君を愛する。私は君のもの、君は私のもの。
君が欲しい、ああ神よ。君は私のもの、私は君のもの。
君に言いたい。君は私のなかの愛。
君に言いたい。君は私の血のなかの愛。
私は君の血のなかの愛ではない。私は血だ。
私は君のなかの血だ。私は血ではない。
私は魂のなかの血だ。私は君のなかの魂だ。
君は魂のなかの血ではない。私は君のなかの魂だ。
私はいつまでも君を愛する。君を愛したい。
私はいつまでも君を愛する。私はつねに愛が欲しい。
君が欲しい、君が、君が。私は神である。私は神である。
私は感じるものである。私はいつまでも君を愛する。
君が欲しい、君が、君が。君が欲しい、君が、君が。私はいつでも君のもの。
私はいつでも君のなかにいる。いつでも君のなかにいる。
私はいつまでも君を愛する。ねんね、ねんね。
君は眠らない、私は眠らない、君はいつでも眠れない。
君の眠りを大きくしてあげたい。私は君の眠りのように大きくなる。
私は君のなかの眠りが好きだ。私は君の幸せを願う。
君の力強い眠りが好きだ。君への愛が欲しい。
何を言ったらいいか、わからない。何を黙ったらいいか、わからない。
いつまでも君を愛する。いつまでも君を愛したい。
私は君の幸せを願う。私はいつでもわからない。
私はいつでも、いつでも。私はすべてだ。すべてだ。
私は君の幸せを願う。
君が欲しい……
いつまでも君を愛する。
これ以上は詩が書けない。繰り返しているだけだから。素直に書くほうが好きだ。素直に書けば、感じていることを説明できる。私はフレンケルを愛している。
私は知っている、彼はとてもいい男だ。私は彼を知っている。彼は私の妻に対して悪意を抱いてはいない。彼は物事をきちんとしたいのだ。私はきちんとするこ
とが好きだ。私は愛が好きだ。彼が「私は君の友だちだ」と言ったとき、私はもう少しで泣くところだった。私にはわかる、彼は私をちゃんと感じている。私の
詩を感じたからだ。私は自分の詩を彼にあげた。私は泣く。涙がこぼれそうだ。泣きたくない。泣いているふりをしている、とみんなは思うだろうから。私は人
びとが好きだ。だから苦痛を与えたくない。私はほんの少ししか食べないつもりだ。痩せたい。妻が私を感じてくれないから。妻はフレンケルのところに行くだ
ろう。私はひとりで残る。ひとりで泣くだろう。私はだんだん激しく泣くだろうが、書くのをやめたくない。わが友、フレンケル先生が入ってきて、私が泣いて
いるのを見るのではないかと不安だ。私の涙で彼を動揺させたくない。涙をぬぐって、書きつづけよう。私は声に出しては泣かないから、他の部屋からは聞こえ
ないだろう。私は誰の邪魔にもならないように泣く。先生が咳をしているのを感じる。涙まじりの咳だ。彼は咳と涙を感じる。もし咳を感じたら、咳は涙だ。私
はフレンケルが好きだ。私はテッサが好きだ。私は涙を知らない。私が欲しいのは……
出典:
ヴァーツラフ・ニジンスキー『ニジンスキーの手記(完全版)』鈴木晶訳、Pp.109-114、東京:新書館、1998年。
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