暴力の強度を数量化すること
body count politics
Z・ブレジンスキー(1993)によれば、今世紀(1993年までの)の政治暴力の犠牲者の推計は、1億6700万人ないしは1億7500 万人以上と概算している。
これに対して、1945年から89年までの死者数の推計は1,700万人で、全体の約1 割に相当するが、それらの死者は、ゲリラやゲリラ掃討作戦などの小規模非正規戦争(紛争)によるものである(オサリヴァン『地政学事典』1994)。
ここでは暴力の強度を数量に還元するという視座がみ られる。
「人間を量的見地から見ることは、ひとりひとりの生 命を奪う暴力よりも、さらに完璧な、いわば鳥瞰的な死のパースペクティヴを一望のもとに収める立場に立つことである」(澁澤 1989:109)
リンク
文献
●その他の情報:練習問題
これは、またまた、我々の検討課題である。次の事例 を検討しましょう。
事例 1.
【ヘッダータイトル】
<中東情勢>衝突の死者、双方で累計2002人に
【記事内容】
AP通信によると、00年9月末に始まったイスラ エルとパレスチナの武力衝突によ る双方の死者は21日までに計2002人に達した。内訳はパレスチナ側が1533人、イスラエル側が469人。
パレスチナ側の死者には自爆犯やパレスチナ支持デ モで死亡したアラブ系イスラエル 市民、イスラエルに内通したとして同胞に殺されたパレスチナ人などが含まれ、イスラエル側には自爆テロに巻き込まれた中国人やフィリピン人も含まれてい る。
【配信通信社情報】(エルサレム共同)(毎日新聞) [(2002年:引用者)4月22日20時37分更新]
事例 2.
「1979年から1987年までのFBIによって収集された資料では、この期間に女性は 男性のパートナーによって560万回の激しい暴力を行使され、それは1年あたりの平均では62万6千回にもなることが示されている。男性パートナーによっ て女性は15秒ごとに1回殴られたことになり、すべてのカップルの半数で最低一回の暴力的な出来事があったことになる。親密な関係での虐待の91%は報告 されていないことがわかっているので、これらの数値はかなり控えめのものである」(マイヤー、オバーマン他『わが子を殺す母親たち』岩本隆茂ほか訳、 pp.197-8[表現は多少変えています]、2002[2001]年)。
事例 3. 大坂なおみの2020年の全米オー プン の勝利について
以下の新聞(沖縄タイムスのコラム)を読ん
で、黒人の命
は大切だ(Blacl Lives
Matter)について考察しなさい。
テキスト「テ ニスの大坂なおみさんが 全米オープンを制し、制しスポンサーのナイキがSNSでメッセージを流した。 「この勝利はじぶんため/この闘いはみんなのため」 現地米国で黒人に対する差別と暴力が続き、大会はただのスポーツではなくなった。 大坂さんは暴力の犠牲者の名の入ったマスクを7枚用意し、毎試合1枚着けて抗議の意思を示した。 米国企業の内規は大坂さんの行動を支えることを内外に示した。スポンサーには日本企業もついているSNSのぞいてみた。だがそこにあるのは「感動をありが とう」といった定型句ばかり。毎日新聞の記事に、日本関係者の本音があった。「人種差別の問題と本業のテニスを一緒にするのは違うのでは」「素晴らしい行 為だと思うが、それで企業のブランド価値が上がるかと言えば別問題」。愕然とする。日本でも米国でも差別は命と尊厳という人間の根源を脅かす。中立の立場 はない。「本業」も「別問題」もない。あるのはノーだけだ。こんな本音が海外に知れたら、きっと不買運動が起きる。実際、米国では多くの企業が抗議を受け て対応を改善している。差別ノーを表明しなければ「ブランド価値」が下がると考えられている。あまりにも対照的な日本の企業の実態。変える責任は日本の企 業にもある」(阿部岳[記者])。——「大弦子弦」『沖縄タイムス』2020年9月14日