日本物理学会第33回臨時総会の決議三のゆくえ
The
whereabouts of the Resolution #3, year 1967 of the The Physical Society
of Japan, JPS
1967年9月日本物理学会第33回臨時総会において決議3(正式には「決議三」だが以下では併用する)で承認された「内外を問わず、一切の軍隊からの援助、その他一切の協力関係をもたな い」決議は、マンハッタン計画や日本帝国陸軍関東軍防疫給水部(731部隊)に代表される学術研究と軍事研究の歴史的結びつきの歴史を踏ま えた上では、非常に重みのある歴史的決定であった。しかし、それは同時に、研究の自由のなかに「軍隊からの援助」や「協力関係」を排除するということを意 味していた。
日本の物理学者は、戦前にはサイクロトロンを使った核爆弾研究に着 手していたが、同時に、対戦国のアメリカ合衆国が極秘裏に莫大な国費をつぎこんでマンハッタン計画を推し進めた結果、広島・長崎の原子爆弾の投下により、 日本は「世界最初の被爆国」になった――よく誤解されるように「唯一」ではない、アメリカ・ソ連・フランス・中国の大気圏内核実験により実験地域の兵士な らびに住民は(日本人「第五福竜丸」乗組員を含む)その後、放射能被害に苛ま れることになる。日本初のノーベル物理学賞受賞者の湯川秀樹(Hideki YUKAWA, 1907-1981)は、1955年のラッセル=アインシュタイン宣言(Russell–Einstein Manifesto)に署名している。
その意味で、1877年創立、歴代のノーベル物理学賞11名化学賞2名を数える会員約17,000名(2016年当時)の日本物理学会と「軍事研究」との関わりは、日本の科学者と軍事研究の関係におい て、ある意味で倫理的綱要の規範となるものだと想定される。
1995年第五十期日本物理学会会長の伊達宗行(1929- )は次のように述べた。
「日本物理学会は1967年9月に開かれた第33回臨時総会において,「日本物理学会は今後内外を問わず,一切の軍隊からの援助,その他一 切の協力関係をもたない」という,いわゆる決議三を採択した.これが, 提案, 採択された直接の動機は, 我が国で開かれた半導体国際会議に際して米軍資金の援助があったことに対しての反発であったが,冷戦という当時の米ソ両大国の対立の下にあって,物理学者 はこれに関わりたくないという率直な気持ちの反映でもあった./しかしながらこの決議三は採択直後から多くの問題を生じた,それは当初から予想されていた ことだが,これが原則を示すだけのものであって,具体的な運用細則を含んでいないからである」(伊達宗行:第五十期日本物理学会会長)『日本物理学会誌』 50(9):696, 1995
そして、その第33回臨時総会(1995)において、それまで続いてきた「年会・分科会の講演募集要綱とプログラムの冒頭に掲載していた」《文 言》を、その年の秋の分科会以降、掲載しないことになったという。
「先ずこれまで学会が主催する年会,分科会のプログラム等の冒頭に示されていた,決議三の尊重を要望した文章を削除する.この文章の内容に
いささかの変更もないのだが,これが一人歩きして,年会や分科会に軍関係者の参加までを拒否しているように取られて来た面があり,歴代の理事会および学会
事務局がその対応に時間をとられたり,誤解が口コミで更に拡大し,学会が不利益をこうむって来た.
これを除去するわけである.但し,決議三の風化を防止するために学会誌の1月号に毎年これに見合う文章をのせることとした.改正のつぎの大きな点は,学会
が拒否するのは明白な軍事研究である,との点である.これまでは提出された論文等が軍事研究であるかどうかをめぐって理事会は多くの時間を使って来たが不
毛な議論が多かった.それは軍事研究といえども基礎研究と連続的につながっており,境界を定めることが出来ないからである.
したがって,これからは例えば武器の研究といった明白な軍事研究以外は自由である,という事でこの困難を除こうということである.また研究費が軍関係から
出たり,軍関係者の研究が提出されても,その研究内容が明白な軍事研究でなければ拒否しない,ということであり,また,論文の謝辞に軍関係機関が入ってい
るから拒否するとか,学会が共催等の協力をする諸団体に軍関係者が若干名入っているからといって協力を拒否することはしない,ということである.
これらはいずれも国際的な慣行に従って国際対応をするために必要なことであり,
これまで理事会が対応に困難を感じていた諸問題であった」(日本物理学会誌 50(9):696)。
それまで常時掲載されていた《文言》は次のものである。
日本物理学会は,1967年9月,半導体国際会議への米軍資金導入に関
して開かれた第33囲臨時総会において,日本物理学会は今後内外を関わず,一切の軍隊からの援助,その他一切の協力関係をもたないJ
という決議(決議三)を採択しました.本年会(本分科会)に際しでも,参加者各位はこの決議を尊重されるようお願いします.(『日本物理学会誌』50
(9):765 1995) |
ただし、軍事研究の関係を容認したわけではなく「明白な軍事研究」を、研究の自由の要件から外すという趣旨のことを表明するにいたっている。 1967年の臨時総会の決議後から数えて40年後の2007年の「日本物理学会行動規範」に付随する「第33回臨時総会の決議3について」には「決議3の 具体的取り扱い」として次のように書かれている。
1.会誌およびJPSJ等、学会の刊行する出版物に対する投稿、および学会発表は、その研究内容が明白な軍事研究であると判断される場合を 除き自由とする。
2.学会が共催、協賛、後援する諸団体、学協会の会合および各国との国際協力については、主催組織が軍関係団体である場合には協力を断る。
3.学会の会計で凍結されている米軍資金については、今後の検討課題とする。
注:明白な軍事研究、および軍関係団体の範囲については、理事会の判断事項とし、拒否例が出た場合には代議員に報告する。この判断基準は国
際常識に従い、研究費の出所のみで判断することはしない。(→出典:日本物理学会「日本物理学会行動規範」)
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