幻覚治療の医療化あるいは薬物中毒化
Chemicalization of treatment of anti-psychiatric illness
池田光穂
Riding of flying penis, Decretum Gratiani with the commentary of
Bartolomeo da Brescia, Italy 1340-1345 (Lyon, Bibliothèque municipale,
Ms 5128, fol. 100r)
「三十八歳のご婦人が私の診察を受けに来る。一年前 頃から彼女は幻覚に悩まされ、それを追い払いたいと思っている。幻覚のせいで彼女は狂乱状態になり、ごくたまにしか外出できないようになってしまった。彼 女は年上の女友達と暮している。/朝、眼がさめると、目を開いたその瞬間に、まだ頭を枕から持ちあげる暇もなく、人体ほどの大きさの拳(こぶし)が天井を 突きぬけ、目のほんの二、三センチ手前で停まることが多いという。/ペニスが空から雨あられと降り注ぎ、時には床や地面からも生えてくる。/この婦人が西 洋のどこかで殆どどの医師か聖職者に相談しても、十中八九、すぐに精神科医のところに回されてしまうだろう。この婦人のような精神不安定と幻覚と次第にひ どくなる孤立が見られる場合、殆どの精神科医は、「観察」と治療のために精神科に即刻入院することを勧めるはずだ。治療はすぐに投与され始める幾種類かの 薬を土台として行なわれることになり、その服用量が調節されたのち、彼女はその薬を――ことによったら何年間も――服(の)みつづけることを条件として退 院させられる。その薬によって幻覚が大幅に阻止される見込みは大きく、狂乱や不安定の状態も少くなるだろう。服む薬は一種類以上で、その服用量も多い―― 精神医療の全体から見ればそれほど多量ではないかもしれないが、正常人が毎日服まなくてはならない薬を急に毎日飲むようになったとしたら、昏睡状態に陥っ て病院にかつぎこまれないほうがおかしいという意味では、多量なものとなることは殆ど間違いない。そこで彼女の体質は、これほどの規模のケミカライゼー ション〔薬づけによる化学的変化〕に適応しなくてはならないという代償を支払うことになる。こういった薬はすべて、その使用目的である特定の効能のほか に、彼女の体質に作用を及ぼす。「副作用」と呼ばれているものがこれであり、要するに、薬のこういう作用は望ましいものではない。だが、このような投薬に 対して非常に感謝し、支払うべき代償である望ましくない副作用があっても、投薬の結果――先に述べたような苦しみの原因となっている精神活動が防止される という結果――を考えれば構わない、と信じて疑わない患者も大勢いる」(レイン 1986:41-42)。
文献
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