75■白人研究(藤川隆男による)
・「私も研究しているオーストラリアの先住民アボリジナルは、オーストラリアのみならず世界の学者によって観察され、研究されてきた。世界で最も多面的に 研究された集団であろう。しかし、アボリジナルの生活状況は一向に改善しないし、人種関係も緊張を高めている。なぜなのか。学問は何をしてきたのか。/こ れまで無色透明な、普遍的存在として人種関係を決定していた白人という存在を、白人がアボリジナルを見てきたように、特殊な存在として研究の対象にしよう とするのが白人研究だ。白人の人類学者がアボリジナルの世界を原始人の社会として研究したように、白人を同じ地平に引きずり出して、未開社会を見る目で白 人を観察する。啓蒙主義的な研究のあり方への根本的なアンチテーゼである」(藤川 2005:8)。
・「研究の分野に目を向けると、女性史研究は白人男性の支配権力の独占へのアンチテーゼとして確立された。ジェンダーの研究は社会的存在としての性の関係 に注目したが、白人という存在への根本的な問いかけは十分に行われてこなかった。人種やエスニシティの研究は、白人の差別や人種意識を批判することで始ま り、次いでマイノリテイ集団の実態の研究に移り、さらにアイデンティティの問題へと研究の重心はシフトしたが、最初の批判の対象となった白人というものの 検討はなおざりにされがちであった」(藤川 2005:9)。