かならずよんで ね!

ソクラテスとアスクレピオスと鶏とニーチェ

 Socrates, Nietzsche, and Asclepian rooster

池田光穂

「死に臨んだソクラテス。——ソクラテスが行なった り、言ったり——あるいは言わなかっ たり——したことのすべてにわたって見られる彼の剛毅と英知に、私は感嘆する。皮肉でも あり溺愛されもしたこのアテナイの怪物にして誘惑者、このソクラテスは、不遜きわまる若 者たちをも震え上がらせ鳴咽させたものだが、しかし彼はたん、かつて存在した最も賢い 饒舌家だっただけではない、彼は沈黙においても同じく偉大であった。私の思うには、彼 は 生涯の最後の瞬間にも沈黙を守ってくれたらよかったのだ——そうすればおそらく彼はいっそ う高級な精神の一人に数えられたことであろう。ところが、それが死か毒薬か敬虔か悪意か そのどれだったかしらないが——とにかくある何ものかが、あの最後の瞬間に彼の口を解き ほぐした、で彼は言った——「おお、クリトンよ、私はアクスレピオス神に雄鶏(おんどり)一羽の借り がある」。この笑止でもあり恐ろしくもある「末期の言葉」は、聞く耳のある人には、こうき こえる——「おお、クリトンよ、人生は一個の病気である!」と。こともあろうに!明朗 で、誰が見てもひとりの兵士のように生きてきた、彼ほどの人物が、——ペシミストだった とは!どうやら彼は人生に対し良い顔をして見せていただけだったのであり、一生涯自分 の究極の判断、自分の奥底の感情を隠していたのだ!ソクラテス、このソクラテスが、人 生に悩んでいたのだ!のみならず彼はなおその復讐までやったのだ——あの婉曲な、ぞっ とするような、信心ぶった、だが涜神的な言葉でもって!ソクラテスのごとき人物でさえ も、復讐せずにはおれなかったのか?彼のあり余るばかりの徳性のなかにも1グラムの宏 量(こうりょう)が不足していたのか?——おお、友よ!われわれは、ギリシア人をも超克しならぬ!」(ニーチェ『悦ばしき知識』信太正三訳、アフォリズム 340、pp.361-362., 筑摩書房(ちくま学芸文庫)1993年)

"The dying Socrates.— I admire the courage and wisdom of Socrates in everything he did, said—and did not say. This mocking and enamored monster and pied piper of Athens, who made the most overweening youths tremble and sob, was not only the wisest chatterer of all time: he was equally great in silence. I wish he had remained taciturn also at the last moment of his life,—in that case he might belong to a still higher order of spirits. Whether it was death or the poison or piety or malice—something loosened his tongue at that moment and he said: "Oh Crito, I owe Asclepius a rooster." [Asklepios: Greek god of medicine.] This ridiculous and terrible "last word" means for those who have ears: "Oh Crito, life is a disease." Is it possible! A man like him, who had lived cheerfully and like a soldier in the sight of everyone,—should have been a pessimist! He had merely kept a cheerful mien while concealing all his life long his ultimate judgment, his inmost feeling! Socrates, Socrates suffered life! And then he still revenged himself—with this veiled, gruesome, pious, and blasphemous saying! Did a Socrates need such revenge? Did his overrich virtue lack an ounce of magnanimity?— Alas, my friends, we must overcome even the Greeks!" - Nietzsche, The Gay Science at 340

La Mort de Socrate (1787), New York, Metropolitan Museum of Art, by Jacques-Louis David (1748-1825)

●ソクラテスへの死罪のジレンマによってソクラテス は自死したわけであり、それはソクラテスが生きる権利に対して「合理的な人間」だったわけではない。

「個人は、自分を追放したものたちよりも自分の方が価値が高いと思っていても、自然に与えら れた共同体にたいして、追放の権利を認める。したがって、ソクラテスが脱獄することを拒んだ のは、自分の祖国の法律は、自分に死刑を宣告したものの、なおかつ自分にとって守らねばなら ぬものと、と彼が感じたからであった」(ヘラー 1976: 12)

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