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マーク・トゥエイン的理性

Mark Twainian Reason

解説:池田光穂

マーク・トゥエイン的理性とは、みたまま、思ったままという、ナイーブな主張を押し通すところからみえてくる認識や、道徳観のことを、池 田光穂(2020)が、自分の著作の視点を表現するために使った言葉。マーク・トゥエイン(Mark Twain, 1835-1910)は『トム・ソーヤの冒険』で有名な作家、ジャーナリストだが、旅行記においても秀逸な作品を数々残している。引用したのはトム・ソー ヤに遡る七年前に公刊された『海外渡航する無垢な連中たち、あるいは新巡礼過程(The Innocents Abroad, or The New Pilgrims' Progress)』の冒頭部分である。トゥエインは、南北戦争で引退した軍艦にアメリカ人観光団の一員として乗り込み、まずヨーロッパに到着し第二帝政 のマルセーユ、パリを経て教皇領からローマ、黒海からオデッサ、そして聖書の舞台であるヨルダン川西域の名所旧跡を訪問する。かつての啓蒙期初頭の貴族青 年たちのグランドツアーから、当時の大衆化した団体旅行への変化の時期にあたり、トゥエインは同行者と目的地の人々のとの交流や文物のアメリカ人の行動を ルポルタージュ風に描く。アメリカ人でありながら、ジャーナリズムの視点から同胞のアメリカ人の行動を観察する。それはまるで、土着人の人類学者 (native anthropologist)であり、かつナイーブな人類学者(native anthropologist)でもある。表象されるイノセントな観光客は、他方で、イノセントな人類学よって描かれる。つまりエスノグラファーの始祖と してのトゥエインの〈反省的観察〉——マーク・トゥエイン的理性("Mark-Twainian reason")の行使に基づく——の視点がそこにある、と言っても過言ではない(→『暴力の政治民族誌』8章註1, p.300)。

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