かならずよんで ね!

メンタル・マップ

Mental map

池田光穂

メンタル・マップ(mental map)とは、まずは(1)人の頭の中にある地理空間的イメージつまり「頭の中の地図」というのが、最初の定義である。しかし、実際に、私たちは頭の中を かち割ってその地図を取り出すことができないので、情報提供者(インフォーマント) に、物理的な地理的尺度とは無関係に、「その場所の地図を」描いてくださいと指示して、書かれた地図(様)の空間図をメンタル・マップ—— (その人の)心の中の地図——と呼ぶ。

基本的に、『不思議の中のアリス』では、原寸大の地 図が登場するが、ふつう地図や空間図面には、縮尺というものがあり——教室や聖堂の中の大地図や絵画から地図帳や市町村地図、地形図などや、液晶モニター 上の(縮尺可変の)地図までその縮尺はさまざまなだが——マップとは「縮小された空間図」であるが、メンタル・マップの場合、それは大きくデフォルメされ ている。しかしながら、デフォルメされているからこそ、研究者(人文地理学者や文化人類学者など)が、インフォーマントによって書かれた地図を前にして、 質問をして、インタビューを通して、その人の空間的イメージや具体的な空間の「意味や価値」などを知ることができる。また、さまざまな人にメンタル・マッ プを書いてもらい、それに付随する「語り」を比較することで、彼ら/彼女らの「集合的な(つまり、社会的な)」空間における意味や価値の概念を把握するこ とができる。

人文地理学者で、メンタル・マップ(ス)の存在を指 摘して、それが人文科学の研究にとって価値があるものにしたのは、ピーター・グールド(Peter R. Gould, 1932-2000)とロドニー・ホワイト(Rodney White, 1943-)の業績であり、彼らは共著『メンタル・マップス(邦題:頭の中の地図)』を1976年(第二版は1986年)に出版している。

■『ザ・ニュー・ヨーカー』1976年3月29日 号、絵画(イラスト)はソール・スタインバーグ(Saul Steinberg, 1914-1999)である。この挿し絵のタイトルは「九番街からの世界の眺め(View of the World from 9th Avenue)」 という作品で、ニューヨーカーにとって、ハドソン川の南西は遠く、テキサスやメキシコで、北西はシカゴやカナダがあると描かれている。ニューヨーカーに とってマンハッタンは世界の中心であることが、よくわかるメンタルマップである。この図を見ている私たちの背中には大西洋()が広がっているはずなので、 スタインバーグはこのようにニューヨーカーの世界を描いたのだろう。

★右:乾隆52年(1787)環海全圖之東半球

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Mitzub'ixi Quq Ch'ij, 2017

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