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日本の健康文化に関する実証的研究 ノート

池田光穂

【研究目的】  

 (1)現代日本における健康文化の構造 を、社会的構築主義( Bury 1986)の枠組みから、インタビュー、参与観察、メディア分析をとおして実証的に分析する。

 (2)近代社会における健康と病気の概 念形成が、医療の専門職からの伝達と流布だけでなく、それらを取捨選択する一般の人びととの相互作 用から構築される過程を実証的に仮説検証する。

【研究の実施計画の大要】

 近代医療の制度的構造が日本に近似した 英国の医療社会学者たちは、1980年代に「医療の社会的構築主義」(Social Constructionism of Medicine)という枠組みを提示した。これは以下のような認識論的利点がある。

 (1)健康と病気を、専門職集団によっ て一義的に規定される概念としてでなく、医療専門職と社会の交渉の結果としてみることで、健康と病 気に関する社会現象を総合的に把握することが可能になる。

 (2)構築主義の枠組みが、我々にとっ ての健康と病気という二分法を相対化し、健康が文化にねざす社会的な価値実践であることを明らかに した。つまり健康が人びとの参加によって構成される論理的な前提を用意した。

その概念構成は単純であるが、さまざまに 交錯する「人びとの知識」の構造を分析するためには構築主義は強力な理論となる。この理論的有益 性にもかかわらず、医療構造が異なりフリードソン学派の専門職集団批判が主流である米国では構築主義は十分に受け入れられず、日本では理論紹介すら十分に なされていない。

我々は過去一年間、構築主義の文献研究を 通して、この理論が近代医療の社会的分析のみならず、さまざまな顔もった豊かな日本の健康文化を 理解する方法論であることを確信するにいたった。

本申請はこの文献研究の成果をもとに、健 康文化の構築主義を、医療関係者ならびに市民を対象とするインタビューと参与観察、およびメディ アの内容分析を通して実証的に検証する。参与観察は協力を依頼している大都市近郊の中規模病院で実施し、それを補完する集中インタビューを民族誌的 (ethnographic)手法を用いておこなう。医療報道をふくむ健康文化に関するメディアの内容分析はテレビならびに雑誌のほかにインターネット情 報を資料としておこなう。

本研究の特色は、まず(1)医学史および 医療人類学の研究者を中心に人文科学的に考察されてきた日本の健康文化研究の成果を、社会理論的 見地から検証することにある。そして、(2)医療の制度的構造の似た英国での構築主義研究を、文化の異なる日本で明らかにすることにある。

これにより諸外国の研究と比較可能な実証 的データを生産し、その研究成果の公開をとおして、日本における新たな「健康文化」の創造の可能 性を独自に提案することができる。


【本研究により期待される成果】

 1. 医学史および医療人類学で明らかにされてきた日本の健康文化を見る視座に、ミクロ社会学的な理論的基盤を提供できる。

 2. 医療をめぐる権力闘争というフリードソン流の医療社会学モデルを脱構築し、医療と健康を考える新しい市民型のモデル(構築主義)を提示することができる。

 3. 構築主義によって治療と予防を分けて考える制度的な医療の領域区分を統一的に把握することができる。

 4. 日本初の構築主義にもとづく実証研究の手法を開発することで、従来の医学教育や医療報道のあり方を再検討することが可能になる。

 5.健康文化の構築主義という枠組みを とおして、医療のみならず福祉の領域にも方法論の視野を広げることができる。


【現在までの研究実績と論文リスト】

 池田光穂は中央アメリカの医療人類学的 実証研究に13年間従事した。本テーマには、構築主義を民族誌に応用したComaroffの手法を 日本の健康文化の分析に応用する。

 野村一夫の専門は社会学およびマスコミ 研究である。本テーマには構築主義を提唱したBuryの理論を、コミュニケーション論を援用しなが ら市民参加可能な中範囲理論として展開し、調査に臨む。

 佐藤純一の専門は医学哲学および医療思 想史であり、かつ集団検診の臨床に携わっている。本テーマにはZolaの犠牲者非難のイデオロギー という近代医療の制度上の難問を臨床実践をとおして構築主義的に乗り越える可能性を模索する。


1.理論研究の蓄積

2.実証研究の経験

3.民族誌調査の実績

池田蛙  授業蛙  電脳蛙  医療人類学蛙

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