はじめによんでね

フォー ビギナーズ人類学

Introducing Anthropology: A Graphic Guide

Mitzub'ixi Qu'q Ch'ij

1
【I】人類学理論
人類学とはなにか?
1.    人類学とは何か?

2
「未開」とはなにか?(括弧でくくってい るところが味噌!)
2.    〈未開〉とは何か?

3
人間を研究する
3.    人びとを研究する


4
人類学のビッグな問題!
4.    人類学の大きな課題 


5
他者(別名「大文字の他者」)
5.    他者


6
変化する問題
6.    変化する課題


7
【II】人類学史 Part 1
人類学の起源
7.    人類学の起源


8
創設者たち(父なる創設者たち:The Founding Fathers)
8.    建学の父たち


9
隠された項目(要するに啓蒙主義的系譜の ことです)
9.    隠された項目


10
ルネサンス期(前項を引き継いで)
10.    リコナサンス(大航海)時代


11
「古きものへの忠誠」 ("Fidelity to the Old")
11.    〈古き時代への忠誠〉


12
人権の問題
12.    人権という問い


13
イエズス会関連文書
13.    『イエズス会リレーションズ』


14
西洋思想の主潮
14.    西洋思考の主潮


15
伝統の連続性
15.    伝統の連続性


16
派生したマイナーな風潮
16.    派生したマイナーな風潮


17
帝国主義
17.    帝国主義


18
人類学の複雑性
18.    人類学の加担


19
倫理の違反
19.    倫理の冒涜


20
【III】人類学史 Part 2
ルーツに戻ると・・
20.    ルーツへの回帰


21
必要不可欠な未開
21.    必要不可欠な未開性


22
発明創発/でっち上げを思い描いて
22.    創造についての推論


23
何が最初に人類に到来したか?
23.    何が最初にあったのか?


24
生きている残存物=遺風(Living Relics)
24.    現存する遺風


25
肘掛け椅子からの眺め
25.    肘掛け椅子からの眺め


26
進化主義の諸理論
26.    進化主義の諸理論


27
生物なるものと社会なるものを統合する
27.    生物学的理論と社会的理論の統合


28
伝播主義の理論
28.    伝播主義理論


29
人種の詐欺(The Race Spindle, 人種という名の詐欺、てな意味で しょうか?)
29.    人種というペテン


30
フィールド研究
30.    フィールド研究


31
人類学の樹
31.    人類学の樹


32
【IV】人類学の四大領域
自然人類学(Physicalであって Naturalぢゃないよ〜)
32.    形質人類学


33
多元発生説《対》単元発生説
33.    多元発生説vs単一起源説


34
人間生態学と遺伝学
34.    人間生態学と遺伝学


35
社会生物学の隆盛
35.    社会生物学の隆盛


36
遺伝子理論における人種の再焦点化
36.    遺伝子理論のなかで再焦点化される人種


37
初期の人類学との別の関連性(リンク)
37.    初期人類学との他のつながり


38
考古学と物質文化
38.    考古学と物質文化


39
人類学的言語学
39.    人類学的言語学


40
社会/文化人類学
40.    社会/文化人類学


41
文化とは何か?
41.    文化とは何か?


42
専門領域への細分化 (Increasing Specialization)
42.    専門領域の増加


43
民族誌の岩盤=基盤
43.    民族誌(エスノグラフィ)の根幹


44
異国人を書く(Writing the Exotic)
44.    エキゾチックを書く


45
【V】ビッグマンたちとその方法
フランツ・ボアズ
45.    フランツ・ボアズ 


46
ブロニスラウ・マリノフスキー
46.    ブロニスロー・マリノフスキー


47
フィールドワーク
47.    フィールドワーク


48
【VI】エコロジーとエコノミー

フィールドワークにおける人間生態学
48.    フィールドワークの人間生態学


49
生態人類学
49.    生態人類学


50
経済の問題
50.    経済という問い


51
ポトラッチ儀礼
51.    ポトラッチ儀式


52
ニューギニアの「ビッグ・メン」
52.    ニューギニアの〈ビッグマン〉たち


53
クラ交換
53.    クラ交換


54
経済人類学
54.    経済人類学


55
交換と交易のネットワーク
55.    交換と交易のネットワーク


56
形式主義《対》実体主義論争
56.    形式主義者と実存主義者の論争


57
マルクス主義人類学
57.    マルクス主義人類学


58
マルクスの進化論的見解
58.    マルクス主義的進化論の見方


59
【VII】婚姻と親族と縁組理論
世帯単位(The Househould Unit)
59.    世帯単位


60
家族の形態
60.    家族の形態


61
婚姻紐帯(The Marriage Links)
61.    結婚紐帯


62
婚資、あるいは婚礼[契約]資金
62.    結婚契約にかかる支払い


63
親族の研究
63.    親族研究


64
親族記号
64.    親族コード


65
類別的親族 (Classificatory kinship)
65.    類別的親族


66
擬制的親族(fictive kinship)
66.    疑似的親族


67
出自理論(descent theory)
67.    出自理論


68
結婚と居住の規則
68.    結婚と居住の規則


69
親族用語
69.    親族の表現方法(イディオム)


70
親族の「効用(use)」とは何か?
70.    親族の〈効用〉とは何か?


71
連帯理論と近親相姦の禁止
71.    縁組理論とインセストタブー


72
心のなかの構造
72.    心(マインド)のなかの構造


73
基本的構造の形態
73.    基本構造の形態


74
縁組理論は本当にうまくいっているのか?
74.    縁組理論は役に立つのか?


75
【VIII】法と紛争処理
政治と法律
75.    政治と法


76
オマケの例
76.    その他の事例


77
用語法的研究
77.    用語法(ターミノロジー)的アプローチ


78
政治人類学
78.    政治人類学


79
年齢階梯社会
79.    年齢階梯社会


80
共時的《対》通時的見解
80.    共時的視点vs通時的視点


81
他の社会階層化
81.    その他の社会階層


82
交渉するアイデンティティ
82.    交渉するアイデンティティ


83
エスニシティ(民族性)の諸問題
83.    エスニシティの諸問題


84
植民地主義
84.    植民地主義


85
反ー資本主義的人類学
85.    反-資本主義人類学


86
法の人類学
86.    法人類学


87
口論解決のメカニズム
87.    係争処理のメカニズム


88
【IX】宗教とシンボリズム
宗教
88.    宗教


89
シャーマニズムとカーゴ・カルト(積荷崇 拝)
89.    シャーマニズムとカーゴカルト


90
聖と俗
90.    聖と俗


91
魔術/呪術の人類学
91.    呪術の人類学


92
信念をめぐる論争
92.    信念についての論争


93
儀礼の検討
93.    儀礼の検証


94
通過儀礼
94.    通過儀礼


95
神話の研究
95.    神話研究


96
クロード・レヴィ=ストロース
96.    クロード・レヴィ=ストロース


97
二項対立と構造
97.    二項対立と構造


98
象徴とコミュニケーション
98.    象徴(シンボル)とコミュニケーション


99
象徴と社会過程
99.    象徴(シンボル)と社会プロセス


100
アクター、メッセージ、コード(行為者/ 伝達内容/暗号)
100.    主体(アクター)、メッセージ、コード


101
シンボリズムと新しい見解
101.    象徴主義と新たな視点


102
【X】芸術と表象
芸術の人類学
102.    芸術人類学


103
映像人類学
103.    映像人類学


104
消失してゆく世界
104.    消えゆく世界


105
新しい枝か?古い根っこか?
105.    新たな枝派か?あるいは古根か?


106
フィールド経験を書きたてる (Writing up the field)
106.    フィールドを書き上げる


107
現在において書く
107.    現在において書く


108
【XI】論争・批判・内省

自己[回帰の]人類学(Auto- Anthropology)
108.    自己回帰の人類学


109
二重のテポストラン、闘争的テポストラン
109.    テポツォトラン論争/テポツォトランの2つの顔


110
テポストラン再訪
110.    テポツォトラン再訪


111
人類学とは科学なのか?
111.    人類学は科学なのか?


112
科学のふりをすること
112.    見せかけの科学


113
インディアンは居留地を出る
113.    保留地の外へ出たインディアンたち

114
誰がインディアンのための語るのか? 114.    誰がインディアンのために語るのか?

115
神としての白人
115.    神としての白人

116
権威の神話
116.    権威神話

117
出来事の位相
117.    出来事の地平線


118
自己批判的人類学
118.    自己批判の人類学


119
人類学のヒーロー
119.    人類学の英雄


120
ミード神話の没落
120.    ミード神話の崩壊


121
観察される観察者
121.    『観察される観察者』


122
粘土の足
122.    もろい基礎


123
自己投射の議論
123.    自己投射の問題


124
【XII】トラブルからの脱却
文化を書くこととポストモダニズム
124.    文化を書くこととポストモダン
125.文化を書くこととポストモダン

『人類学の歴史』の編集委員会には、後に『文化を書く』(1986)に収載される、ニューメキシコ州で開催された「民族誌のテキストをつくる」というセミ ナーに参加した人類学者たちが多く含まれている。『文化を書く』は、人類学における劇的な転換を生み出した。それ以降、モダン人類学から区別されてポスト モダン人類学登場するようになる。ポストモダン人類学は、いかなる誇大理論※も拒絶する。

学者(人類学者)——【台詞】——「それゆえ人類学者は、民族誌的真実の「理論的真実」と「全体性」を拒否してはどうかと考えるようになったんじゃ」—— 「文化についての真実のどのような可能性も、文化についての完全な言及の可能性も、さらには推論の可能性までもが無くなったんじゃ」

リーチの「一時的な」虚構は、『文化を書く』のなかでジェイムズ・クリフォードが述べる「文化的表象のナラティブな特徴」になった。人類学は、〈書くこと のなかで〉つまり読まれるべき存在になり、分析され、小説のように吟味されるテキストのなかだけに存在し、著者のパーソナリティは、民族誌を作り上げるこ との中確固としたものとされた。


※グランド・セオリーのことで、その学問分野の主要な語り(マスター・ナラティブ)すなわち著名な議論のことをいう。ライト・ミルズ『社会学的想像力』を 初めて邦訳した鈴木広(1965)は、タルコット・パーソンズの理論を揶揄するミルズの心情を汲み「誇大理論」と巧みに翻訳している。

125
ポストモダンの麻痺
125.    ポストモダンの無気力感
125. ポストモダン的痙攣(けいれん)

しかし、人類学者の全員がこの事態を快く思った訳ではない。クリフォード・ギアーツの解釈主義は、人類学における革命である『文化を書く』よりも以前にそ の形を前もって示したものであり、ギアーツはポストモダン人類学の擁護者の筆頭となった。イギリスの人類学者アーネスト・ゲルナーは、次のようにギアーツ を批判した。

 ギアーツは「全世代の人類学者に対して、極度の難解さと主観主義の正当化としての認識論的な懐疑と束縛された状態を利用することで、実際の、ないしは捏 造した内面の不安や無気力感を見せびらかすように奨励した。彼らは、退行のどのレベルにおいても、自身そして他者について知ろうとする際の自らの無能力に あまりにも苦悩しているため、他者についてもうこれ以上思い悩む必要はないと考えてしまうほどである。もし世界のすべてが分節化し、多様な形をとり、実際 にはそのもの以外の何にも類似しておらず、もし誰も他者(あるいは自分自身)について知ることはできず、もし誰ともコミュニケーションをとることができな いのであれば、立ち入り不可能な散文のなかにある今のこの状況によって生まれている苦悶を表現する以外にここで何ができるというのだろうか?」
『ポストモダニズム、理性、宗教』1992より。

アナザシ——【台詞】——「だから人類学は、人類学者についての学問だとなるんだよ。それなのに、なぜ連中は俺たち(先住民)を困らせ続けているんだ?」

126
人類学における女性
126.    人類学の女性たち
126.人類学の女性たち

人類学はひとり男性によってつくられたのだろうか? 専門的職業、また今世紀の後半まではずっと規模が小さく、周縁的な、どちらかという奇妙な仕事だと考 えられてきた学問として、この問いに答えるのは簡単ではない。学者の数の比率から見れば、人類学の主要な地位に西洋の学術界のうちでは他の分野に比べてよ り多くの女性がいた。

マーガレット・ミード 「私は、イギリスの大学システムが女子の入学を認め始めたときには、すでにフィールドワークを行っていたのよ」

同じことが、オーストラリア生まれのフィリス・ケイバリーにもいえる。初期の世代の主要人物として次のような名前を挙げることができる。

ルース・ベネディクト、ルース・バンツェル、ルーシー・メイア、エリザベス・コルソン、オードリー・リチャーズ、モニカ・ウィルソン

ヒルダ・クーパー、メアリー・ダグラス、キャサリン・ゴー、ローズマリー・ハリス、ローラ・ネイダー

127
人類学者たちの親族紐帯
127.    人類学者の親族紐帯
127.人類学者の親族紐帯

人類学において女性は顕著な存在で、個人としてだけではなく、以下の2つの際立つやり方でも足跡を残してきた。最初のインパクトは、「結婚をして権力をつ ける(=power marriage)」ものである。〈マーガレット・ミードは、グレゴリー・ベイトソンと結婚し、モニカとゴドフレイ・ウィルソンは夫婦であり、ヒルダとレ オのクーパー夫妻(ジェシカ・クーパーの配偶者であるアダム・クーパーのおじおばにあたる)もいる。その他にも、ロバートとエリザベスのフェルニー夫妻、 サイモンとフィービーのオッテンバーグ夫妻、グッディ夫妻、アレンツ夫妻、マーシャル夫妻、ペルトー夫妻、ストラザーン夫妻など多数の人類学者同士の夫婦 がいる〉。

イブとしてミード——【台詞】——「このような結婚は、訓練を受けた現役の人類学者である2人をつなげ、それぞれ彼または彼女自身の力となったのよ」

アダムとしてのベイトソン——【台詞】——「フィールドワークにおいて互いが協力するとき、研究対象の人びとのうちの、女性の家庭内の世界が、男性の相方 に対しても開かれるのさ」

128
フィールドの協力者
128.    フィールドの協力者
128.フィールドの協力者

もう1つのインパクトは「人類学的な妻」としてのものである。訓練を受けた人類学者である場合でなくとも、女性たちはフィールドにいる男性の人類学者たち の同伴であり協力者であった。《従うべきは女だ》というほどではなくても、彼女たちは寡黙な相方として過小評価され見過ごされるはずの誰かでは決してな かった。もっとも男の人類学者は、女たちを過小評価しその存在を見過ごしていたのだが。

イブとしてミード——【台詞】——「人類学的な妻は「女性たちの世界」に関与することを通して、「真の」人類学者である夫の研究助手になる」

アダムとしてのベイトソン——「でも妻たちは報復する。私たちこそがが理性的で人気のある本を執筆するのよ、とね」

人類学者ポール・ボハナンの妻ローラ・ボハナンは、『笑いへの回帰』を執筆した。メアリー・スミスは、人類学者M.G.スミスの妻で、イスラム教徒のハウ サの女性の伝記『カロのバーバ』を執筆した。このことは、女性のエージェンシーという概念に性的な意味合いのことも含めたニュアンスのある両義性を与え た。

129
フェミニスト人類学
129.    フェミニスト人類学
129.フェミニスト人類学

オックスフォード大学の教授エドウィン・アーデナー(1927-87)は、人類学そのものが男性によって支配されており、単に男性の人類学者が優先的に採 用されるということだけでなく、人類学の理論、概念、方法論、そして実践が男性文化の所産であると指摘する。さらにそれは、女性が人類学を実践している場 合にも当てはまるという。

アナザシ——【台詞】——「君は白人男性がつくり出すものに何を期待するのかな?」

フェミニスト人類学は、フェミニズム同様、複雑で多様である。フェミニスト人類学は「女性と男性の関係は、自然と文化の関係か?」というシェリー・オト ナーの問いのようなものも含む。

130
フェミニスト人類学の位置づけ
130.    フェミニスト人類学の位置付け
130.フェミニスト人類学を位置付ける

一方に偏らないフェミニスト人類学を提唱し、擁護するのは、ヘンリエッタ・ムーアである。

〈フェミニスト人類学は……ジェンダーが文化をとおしてどのように経験され構築されるのかを問うよりもむしろ、経済、親族そして儀礼がジェンダーをとおし てどのように経験され構築されるのかという理論的問いを形成する〉。

「普遍的な女たち」という概念に対して、ムーアは異議を唱える。

ムーア——【台詞】——「女はどこの女であってもよく似ているというのは、男性の人類学者さえもが明らかにした間違った考えだったわね」

女性たちの声を聞こえるものとし、彼女たちのエージェンシーや役割を明らかにするとき、女性の人類学者は、男性の人類学者のそれ以上でもそれ以下でもなく なる必要がある。

131
未接触の人々
131.    穢れなき民
131.非接触の民

ベネズエラのアマゾン熱帯雨林地域に暮らすヤノマミは、世界で最も有名な先住民である。ヤノマミは、ありとあらゆる人類学にとっての最も重要な戦利品—— つまり誰も訪れていないという意味で「非接触の民」——と表現されている。つまり、こういうことだ。その主張によると、地理的に離れた熱帯雨林の飛び地に 暮らしていることから、白人社会と接触しておらず、かつては皆がそうであっただろう最後の遺物であり、消滅していく最後の民族である。

ヤノマミ——【台詞】——「本当かい?スペインの征服者やゴムの木の樹液採取労働者、そして金鉱地で金を掘る労働者たちがアマゾンにいたことを誰も知らな いと言えるのか?」————「俺たちは、〈生存を救えキャンペーン〉や〈熱帯雨林を救え〉、そしてエコロジー運動のポスターのモデルにもなった、最も有名 な民なんだぜ」

別のヤノマミ——【台詞】——「人気のあるアイドルのスティング※が俺たちのところへやって来て、一緒に写真を撮りさえしたんだから」

当然のことながら、ヤノマミは何十年にもわたり人類学者たちによって研究されてきた。


※スティングはシンガーソングライター。本名は、ゴードン・マシュー・ホワイト・サムナー(1951- )

132
ヤノマモ・スキャンダル
132.    ヤノマミ騒動(スキャンダル)
132.ヤノマミ・スキャンダル

ヤノマミの人びとの間でフィールドワークを行った最も有名な、あるいは最も悪名高い2人の人類学者は、ナポレオン・シャニョンとジャック・リゾーである。 前者は、アメリカ合衆国の、最もよく知られた現代の人類学者の1人であり、後者は、レヴィ=ストロースの学生だったフランスの人類学者である。

パトリック・ティアニーは、その著書『エル・ドラードの闇:科学者とジャーナリストがいかにアマゾンを荒廃させたか』(2000)において、2人に対する 次のようなを申し立て(ケース)を行う。

ティアニーのシャニョンに対する批判は、シャニョンが……
■アメリカ原子力委員会によって資金援助を受けた調査チームのメンバーであったこと。資金は、ヤノマミの人びとの血液サンプル収集に対するものであり、そ の目的は、自然界の天然放射線量(バックグラウンドの線量)の影響についての比較することだった。それもヤノマミの人びとにとって何の役にも立たない調査 であり、インフォームド・コンセントの許容範囲を超えていた。それどころか、ヤノマミの人びとを感染症に晒すという潜在的危険をもたらした。
■はしかの生ワクチンを使用した。そのことで、はしかの集団感染への治癒どころか、むしろその原因をつくり、ヤノマミの村々で大量の死者を出した。
※Napoleon Chagnon (1938-2019)は、かつての訳書では、ナポレオン・シャグノンと記されていたが、近年は実際の発音にちかいナポレオン・シャニョンと呼ばれるよう になってきた。

ティアニーによるシャニョンへの告発は、まだ続く。

■シャニョンは、民族誌的情報を集めるため、ヤノマミの情報提供者(インフォーマント)に対して、交換財や価値のある鉄鋼の斧や銃で支払いを行った。彼 は、亡き親族の「秘密の」名前を集める目的でこの方法を使うことで、ヤノマミの人びとを蹂躙した。交換財の流入により村は動揺し、村の内部ないし村と村の 間で紛争が起こった。

■効果的に演出され特別にリハーサルされた=つまりヤラセの民族誌的な映像作品(フィルム)をつくるために交換財を利用した。これらの作品としては、『斧 の争い』と『祝宴(ザ・フィースト)』があり、これらは最もよく知られた民族誌的「ドキュメンタリー」である。

■映像作家やジャーナリストをヤノマミの居住地区に連れて来るという、非倫理的で潜在的に大量虐殺に等しい無責任な行為を実行した。このとき彼は、西洋の 疾病に対するヤノマミの人びとの感受性をほとんど考慮しなかった。

ヤノマミ——【台詞】——「だからこれらの映像作品は詐欺行為であり、人類学者が西洋の視聴者に対して紹介する民族を誤表象するものだよ」————「でも それだけじゃないんだ」

・弁明不可能な解釈を立証する調査資を分かりにくくした。特に、より大勢を殺害した男がより多くの妻を有し、それによって遺伝子プールを支配するという命 題(=主張)である。この証拠は、種としての人類がどのように誕生し、どのように発展したのかについての社会生物学の理論的予測を実証するための核となっ ている。

■実際には何人が亡くなったのか、誰が殺したのかという点を偽証し、〈殺人〉を捏造した。

■病気で死んでいくヤノマミの人びとへの治療を行わなかった。

■ヤノマミの人びとを擁護しなかった。

 ヤノマミ——【台詞】——「告発のリストはまだ終わらないよ」

■ヤノマミの土地を徹底的に破壊する鉱山採掘ラッシュの先頭に立つ受益者と協力し、ヤノマミの人びとへの権限と、独占的にこれらの人びとに接近する権利を 確立しようとした。

■スペイン人とポルトガル人の到着以降、すべての地域がすでに植民地主義からの略奪行為の影響と衝撃のもとにあるにも関わらず、穢れなき人びととしてのヤ ノマミを構築した。

そしてリゾーは、
■自身の性的幻想を満足させるためにヤノマミの少年たちを性的に暴行した。

133
内戦を創り出す
133.    生み出される内乱
133.生み出される内戦

人類学者として、シャニョンとリゾーは、ヤノマミについての異なる2つのヴァージョンの表現をした。しかしティアニーは、今やもう馴染み深いこの告発がそ れだけには収まらないと主張する。というのも、村と村の間に激しい紛争をもたらしたのだ。交換財を得るためそれぞれの人類学者に依存していたそれらの村々 は、依頼人とそれに従属する関係にまで発展してしまっていた。

ヤノマミ——【台詞】——「これらの村出身の俺たちは、お互いをシャニョンとリゾーの「民」と呼び合うのさ」————「俺たちの村とは、お互いに戦争状態 にあるんだ」

人類学者たちは、研究対象の人びとの政治を、倒錯的に作り上げてしまったのだ。

これらのすべてに関して熱心な支援者だったのは、西洋のマスメディアである。「石器時代」の社会についての見出しを要求したり、マスメディアは、シャグノ ンを裕福かつ有名にし、彼の「どう猛な民」説を熱心に普及した。殺人が人間社会の最初の規則であるがゆえに、「どう猛な民」説は論理的には殺人と同起源の ものであるので、大量虐殺(ジェノサイド)も人間性にとって原初的なものである、という社会生物学的な説明を補完し、未開概念に関する最初から持たれてい た特徴を再利用するという形でおこなわれた。

アナザシ——【台詞】——「言い換えると、中世の民族誌が元気に生きながらえているということだね。ここが俺たちが生まれたところさ!」

[シャニョンに対するありとあらゆるすべての告発に関して、シャニョンはまったくの無実だとする完全擁護派の主張は、カルフォルニア大学サンタバーバラ大 学のホームページ上でかつては見ることができたが【訳注】今は見れない。]

※のちにアメリカ人類学連合の調査報告によるとシャニョンとニールに関する麻疹ウィルスの拡散に関してはシロ、採集された血液サンプルは一部返還されて、 これらの遺伝情報の採集に関してインフォームドコンセントがない点は報告書のなかで問題視された。右のカラム参照

134
人類学はどこへゆく?
134.    人類学はどこへ行く?
134.人類学はどこへ行く?

専門的職業としての人類学の歴史は、わずか1世紀ほどにすぎない。その後半の半世紀は、前半の半世紀を改革する歴史であった。人類学は、袋小路の危機に 入っている学問であり、差し迫った己の終焉を絶え間なく思考してきた。

アナザシ——【台詞】——「でも、人類学をすることは、果たして変化したのかな?」

アナザシ 「人類学は、折衷主義的な学問だったけど、ますますそうなっているね」

ロイ・ダンドラーデ(1995)は、アーネスト・ゲルナーの主張にこだまして、人類学が「議論のテーマをぴょんぴょん変えること」はいかに作動するのかに ついて整理する。調査・研究によって明らかになるのは、何か新しいことを生み出すためにますますの努力を要するような複雑性だけではない。何が発見されよ うと、それはますます興味深さを欠くようになっているということも明らかにするのだ。——「こうなると、多くの実践者は、他の項目にくら替えする。つま り、何か本当に興味深いものを発見できるだろうという、いくらか希望がある新しい仕事の方向へと乗り換えるのだ」。

人類学は、他者との対話というよりも、〈他者についての研究〉であり続けている。人類学は、他者の生活様式を普及させ、それは裕福な西洋消費主義のデザイ ナー装飾と化してしまった。エコツーリズムは、今や裕福な人びとが〈風変わりで趣のあるエキゾチックな人びと〉を訪問することを可能にし、人類学とは何か ということを彼らに示す見本となっている。人類学は、西洋と他者との間で、富の力や格差を対等にするためには役立ってこなかった。人類学者のなかには、そ うすべきだと個人的に強く考える者がいるにも関わらずである。

【台詞】バルトロメ=デ・ラス=カサス「これらの問いと不確かさはすべて、16世紀の我にとってもすでに馴染みがあるものだ」

【台詞】アナザシ「俺たちにとっても馴染み深いものだよ。まさにそれが連中が未だに拒んでいる点だよね」



【おしまい】にはならない文化人類学

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