未来の「人間生態学」:ジョナサン・モレノ『操作される脳』12
「キャメロンはモントリオールで活動していたが、アレン・ダレスへの報告書の共著者の一人で、全米神経学協会の前会長だったハロルド・ウォ ルフは、ニューヨークで自ら実験を行うことを申し出た。ウォルフは、自分ならCIA が利用しているものよりもさらに効果的な尋問法や教化法を突きとめられると考え、CIAの屈辱を与える行為、その他に関するファイルを請求した上で、中国 人難民100人を選んで、中国本土に送り返すことを想定し、彼らをアメリカのスパイに作り替えようとしたが、そのために「予備条件付け」を施して中国での 洗脳に耐えられるようにも訓練した。部分的にはその仕事のおかげで、米軍はSERE——survival(生存)、evasion(回避)、 resistance(抵抗)、escape(逃亡)——というプログラムを作り、捕虜になった時の敵の扱いに備えさせた。/一九五六年、ウォルフは、教 化についての研究成果を全米精神医学振興グループに報告する。ウォルフは、痛みを絶望や屈辱と結びつけるのが洗脳テクニックとして最も効果的だと述べ、侮 辱その他の中国共産党が採用した八つの強制手法を挙げた。米軍兵士には朝鮮で尋問に耐えられなかった者が多かったが、同じように捕虜にされたトルコ軍兵士 は米軍兵士よりもよく耐えていた。トルコ軍兵士は自己鍛錬を欠かさず、傷ついた仲間の面倒を見て、階層性を保って指導力が発揮されていた。米軍兵士の自己 鍛錬を改善するべきだし、民主主義や多文化主義についてさらに教育を受けるべきだともされたが、この点は、冷戦後の世界でも相変わらず通用する。アブグレ イプ刑務所で過ちを犯した兵士たちは、イスラム系アラブの価値観や信念を十分に理解していないばかりか、自分たちがそこで守ろうとしているはずの民主主義 のことさえ、よくわかっていなかったと言われているのだから。ウォルフの目標はキャメロンのそれよりもずっと大きく、異常心理学が発展すればそれでよしと いうわけではなかった。ウォルフは一九五〇年代初期にCIAに次のように語っている。「どうしたら、人間を他人の望み通りに考えさ『感じ』させたり、ふる まったりさせられるのか、また逆に、どのような影響を受けるのを避けられるのか」を解明したいと考えていたのだ。ウォルフのこのセリフは、現代の私たちか らしても大げさすぎる気がするが、実際、時代の先を行きすぎていた。なにしろ、彼は人間の環境に対する関係(「人間生態学」とウォルフは呼んだ)を研究す るのに、様々な学問分野を統合しようと志したのだ。そのような物言いや総括的で理論的な野心が異質に感じられなくなったのは、それから一五年も後のこと だった。今日では、もちろん神経科学もそうだが心理学のような分野が、本質的に異なる学問分野をまとめあげ、もともと学際的な性質をもった問題に焦点をあ てようとしているのだ」(モレノ 2008:139-140)。
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