抑圧的ソビエト精神医学システム:ジョナサン・モレノ『操作される脳』14
「ソビエト連邦では、精神病の診断は国家安全保障にとって極めて有効な道具だった。神経科学が発達して個人間の違いの神経学的な基礎を識別 できるようになりつつあるからこそ、こういう事態があったということは、教訓として心にとめておくべきだろう。すでに見てきたように、脳科学は戦争を戦う 上で、さらに諜報作戦を行う上で、たいへん便利な道具になる。また、国内の意見をコントロールできるような手だてが存在すれば、全体主義者は必ず欲しがる だろうが、これもまた、神経活動を解明し操作する技術が進めば、実現されるかもしれない。ソビエト共産党のやり方は概して不器用だったけれども、未来の暴 君はもっとましな手を使うかもしれないからこそ注意が必要なのだ。/ソビエト政治システムの権威であるテレサ・C ・スミスは、旧USSR の精神医学文化に、ある独特なものを見てとっている。心の病の定義が西側諸国に比べでかなり広く、反体制者を「無症候性統合失調症」という名のもとに入院 させることすらできたのだ。だが、西側では統合失調症は実際に症状(たとえば幻覚など)が出ていなければ診断もできないし、ましてや入院などありえない。 また、ソビエトは時代遅れの優生学を受け継いでもいて、心の病の原因として遺伝的なものを強調したため、家族全体を精神異常者に仕立て上げることもでき た。健康そうに見えるからといってもだめだ。「疾患隠蔽(病気ではないと嘘をつくこと)」かもしれないとされ、それはある種の「パラノイア」に典型的だと 考えられていたのである。/スミスによれば、他にも重要な要因があって、それは一見、害がない、ばかりか、積極的によいことのようにも見えるものだ。体制 側は地方の病院にも精神科をおくべしとしたのである。なるほど、ケアを受けられるのはよいことだ。問題は、抑圧的な政治システムにあっては、これら地方の 医療施設は疑わしい個人を監視するための前哨地になりうるという点だ。あいまいな精神医学を根拠として、何百万人もの反体制者が登録され、それをもとに警 察が随時検挙していくのである」(モレノ 2008:156-157)。
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