脳と自由意思:ジョナサン・モレノ『操作される脳』17
「紡錘状回が損傷を受けると顔を認識できなくなる、という実験結果が多数報告されている。この領域に損傷を受けた人には、この特異な問題が 生じる可能性があるのだ。しかし、二、三〇種類もの他の視覚的機能の作用に影響はない。イメージング装置を用いた研究により、信頼性に関する社会的な判断 は顔の見え方を基礎にしており、これらの判断には脳の特定のシステムが関係していると考えている神経科学者もいる。そうすると、この知覚処理は社会的な判 断と関係があると考えられるのだが、社会的な判断には扇桃体(アーモンド型の構造で、情動と関係している部位)、前頭葉(計画や複雑な社会的行動に関係す る部位)、体性感覚野(身体の表面からの感覚情報が最初に送られてくる部位)が係わっている。さらに、ややこしいことには、ここであげた領域のうちのいく つかが、自分と同じ人種の顔を好むことに関係しているという証拠を発見した研究者もいる。当然生じてくる疑問点だが、私たちには偏見がないとして、人間に はどれほどの自由意志があるのかということについて、この結果から何がわかるのだろうか?
だが、私たちの動きのすべてはニューロンの活動や脳内の血流によって決まってしまうのでは? と心配する必要はあるまい。すべての動作や 認知処理が脳の活動に還元できるからといって、これこそがその例だと考えるのはそれこそ「還元主義」というものだ。哲学者のケネス・シャフナーは、「全面 的な還元主義(sweeping reductionism)」と「潜行性の還元主義(creeping reductionism)」とを区別している。「全面的な還元主義」は、あるシステムの法則と初期状態がわかれば、その後、そのシステムがどのように変 化していくかを逐一予測することが可能だ、というもので、ニュートンの機械論的物理学の信奉者が言いそうなことだ。だが、神経科学的な説明がいつもそれほ ど機械論的だと考えるいわれはない。たとえば遺伝学は機械論にあてはまらず、そのかわりに「潜行性の」あるいは部分的な還元主義を生み出してきた。潜行性 の還元主義にはいくらでも余白がある。たとえば、DNA の分析だけで予測できる病は数えるほどしかない。環境内の毒物にさらされるなど 、他の多くの変数が働いているのだ。
神経科学は遺伝学ときっかり同じ立場にあるようだ。つまり、脳の状態は変数の範囲内で作用するということである(もちろん、神経科学の大
部分には遺伝学が含まれていて、遺伝子が神経系をコードする方法がこの変数の枠組形成に手を貸している)。もしそうならば、私たちの思考や行動の原因は、
完全に私たちのコントロールを超えたところで連鎖反応を起こしている、という概念を理解するのは難しい」(モレノ 2008:184-185)。
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