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保健医療社会学における

「問題にもとづく学習」手法の可能性について

On Potential of Problem-Based Learning Methodology in the field of Health and Medical Sociology

解説:池田光穂

2006年のプレゼン資料であるが、2021年の今日でも、その重要性は失われていないので、ここに掲げる次第である。

保健医療社会学における
「問題にもとづく学習」手法の可能性について
On Potential of Problem-Based Learning Methodology
in the field of Health and Medical Sociology
大阪大学コミュニケーションデザイン・センター
池田光穂
Center for the Study of Communication-Design, Osaka University
Mitsuho Ikeda
    •    保健学(医学・歯学・薬学・看護学)におけるPBL(Problem-Based Learning)導入状況での、保健医療社会学との関連性について考察する。カリキュラム編成とその内容構成の観点に着目し、これらの保健学関連の授業 のなかで保健医療社会学のプレゼンスをどのように考え、この学問領域のいかなる性質を高めるべきかについて考える。
    •    日本の医学教育の内容や手法は、保健学全般の教育内容に影響を与えてきた。そして、第二次大戦後の日本の医学教育は、タイムラグがあるものの、米国の医学 教育から多大な影響を受けてきた。その経緯を解説する。
    •    変貌する医学教育改革の代表例として能動的学習手法のひとつであるPBLを取り上げる。PBLに着目する理由は、それが大学教育全般の改革と多くの共通点 をもつからである。その特徴を指摘する。
    •    PBLの特色を明らかにした後、保健医療社会学は、それらの教育改革にどのように関わるのか(予稿集には「介入」と記述)/関わらないのかについて考える。その道筋を提示する。
    •    最後に、保健医療社会学という学問が教育手法としてPBLを導入することを想定した時、先行している状況から、未来において直面する解決すべき課題と、こ の学問そのものに与える「よい影響」すなわちこの学問の伸展の可能性について考える。
    •    1960年代
    •    → 行動科学・コミュニケーション教育を中心とした全人教育
    •    → 包括医療教育としての臓器別統合型カリキュラム
    •    → プライマリ・ケア医養成のための地域志向型教育
    •    1970年代
    •    → PBLチュートリアル教育の構想と先行実施
    •    1980年代
    •    → GPEPレポート(AAMC:米国医科大学協会, 1984)
    •    → ニューパスウェイ=詰め込みではない学習主体教育(ハーバード大学医学校)
    •    → OSCEの開発(コミュニケーション技能評価を含む)
    •    1990年代
    •    → OSCEの本格化(Objective Structured Clinical Examination: 客観的構造化臨床試験→客観的技能試験)
    •    → PBLの世界中への広がり
    •    2000年代
    •    → Outcome Based Education
    •    → プロフェッショナル教育
    •    → 多職種間コミュニケーション
    •    → ポートフォリオ評価

    •    学習者じしんが中心となり、反省的反復の作業をともないながら、実践される少人数グループの教育手法ことを、「問題にもとづく学習」とよぶ。
    •    医学・歯学・看護学・環境科学・法律実践・工学などのように実践の場での問題解決などが職業的スキルとして重要視される教育課程でしばしば採用されている。
    •    Problem-Based Learning
    •    反対語は系統的学習(systematic Learning)あるいは受動的学習
    •    1969年カナダのマックマスター大学のハワード・バロッズが嚆矢(と言われる)
    •    「具体的な問題提示が学習者をして勉学せしめる」という学習観
    •    SGL・SDL・PBLの3セットメニュー
    •    Problem-Based and/or Project-Based
    •    具体的な学習課題を立てて少人数グループでプロジェクトを完遂させる「プロジェクトにもとづく学習」のアクロニムもまたPBLである。
    •    後者のPBLは、これまで実習や演習と呼ばれてきた学習課題のより発展形態だと考えればよく、ほとんどあらゆる学問分野の教育課程で採用することが可能である。
    •    Problem-Based and/or Project-Based
    •    具体的な学習課題を立てて少人数グループでプロジェクトを完遂させる「プロジェクトにもとづく学習」のアクロニムもまたPBLである。
    •    後者のPBLは、これまで実習や演習と呼ばれてきた学習課題のより発展形態だと考えればよく、ほとんどあらゆる学問分野の教育課程で採用することが可能である。
    •    PBL is any learning environment in which the problem drives the learning. That is, before students learn some knowledge they are given a problem. The problem is posed so that the students discover that they need to learn some new knowledge before they can solve the problem.
    •    「問題にもとづく学習とは、問題の提示が学習をやる気にさせるような、あらゆる[形態の]学習環境のことである。そこでは、学生たちは何か知識を学ぶ以前 に、すでに学生たちにある問題が与えられている。自分たちが問題を解くことができる以前に、学生たちじしんが何か新しい知識を学ぶ必要があるぞ、というこ とを学生たちが発見するように、まさに問題が[学生たちに]し向けられているということなのだ」
    •    SGLはSmall Group Learning のアクロニム(=頭文字略語)
    •    6±1がゴールデンナンバーズ
    •    このグループごとに1名のチューターがつく
    •    グループはチュートリアルという指令書から解くべき問題を探究してゆく
    •    チューターの介入は最小限で、学習の強度やスケジュールはすべてグループの裁量に委ねる。
    •    SDLは Self-Directed Learning のアクロニム
    •    SDLは自己中心主義のことではなく、学習の自己管理や主体性の尊重のこと。
    •    SDLはSGL(小グループ学習)における協調性・協働性・相乗性[シナジー]に欠かせない資質でもある。
    •    SDLは、学習におけるTQC(Total Quality Control)を動かす「エンジン」のようなもの。
    •「ここに故障したトースターがあります、これを直してください。でなければ、少しばかり要求を譲歩して、ちょっとでも使えるようにしてください」
ネバダ大学医学校PBLのチュートリアル・ケース『ゲロ吐き少年!:ランディ・ミルバーンのケース』
    •    ネバダ大学医学校PBLのチュートリアル・ケース『ゲロ吐き少年!のケース』では、11項目の情報が盛り込まれているが、最初の解説は「1.ランディ・ミ ルバーンは10歳の男性で、母親に連れられて君のオフィスにやってきたが、彼は虚弱、喉の渇き、そして継続する嘔吐発作を訴えている」 という一文のみ
    •チューターなどのマンパワーが必要。これまでの報告ではチューターの〈実践知〉や〈現場力〉についての考察がほとんどなされてこなかった
    •系統あるいは受動的学習に比べると学習者へのプレッシャーをかけないので、学習集団に対して均質な学習効果を予想することが困難。
    •系統あるいは受動的学習に比べると学習者へのプレッシャーをかけないので、学習集団に対して均質な学習効果を予想することが困難。
    •系統あるいは受動的学習に比べると学習者へのプレッシャーをかけないので、学習集団に対して均質な学習効果を予想することが困難。
    •    情報爆発: 知識や技能のターンオーバーのサイクルが短くなり、まなぶべき情報量が増大すると、系統学習や受動的学習ではたちいかなくなる。記憶や技能を多くはコン ピュータやマシンに委ね、判断力、想像力、創造力を陶冶しつつ、それらの機器を柔軟に使いこなすための教育が重視されるようになった。
    •    コミュニケーション:専門職支配を乗りこえ、分業体制が洗練化しつつある。そこでの主体は倫理規範を自ら陶冶し、リスク分散の技法を身につけ、多種多様な 他者と良好な関係をたもちつつ、柔軟に対人関係をその都度構築してゆかねばならぬ。対人コミュニケーション能力そのものが有力な社会関係資本のひとつにな る。
    •    【Episode IV: A NEW HOPE】
    •    大阪大学CSCD・ワークショップ「福祉・看護・医療における人文・社会科学の挑戦」での出来事(2006年1月7~8日,吹田市)
    •    医療社会学(Sociology of Medicine)を大学の研究教育科目として確立すべきだという主張と、臨床社会学を標榜する実践派がより現実の諸問題にコミットすべきだという主張の 間で、活発な議論が展開した。物語のはじまり。
    •    【関わり方の分類】
    •    1. 保健学領域におけるPBL教育を、純粋に観察対象として客体化し、その実態を価値中立的に分析する(~ of medicine)。
    •    2. プログラムの同僚として参与観察しつつ、出てきたデータ解析やそれについての観想を同僚と共有する(~ in medicine)。
    •    【関わり方の分類:承前】
    •    3. プログラムの同僚として参与観察しデータ解析を共有しながらも、彼らの主体的判断に最終的にゆだねる(~ in action; action research)。
    •    4. 得られたデータのみならず、プログラムの同僚と利害を共有し、その専門分野の知識や技能を積極的にPBL教育に還元する(~ for medicine)。
    •    (1)保健学領域におけるPBL教育と、ディシプリンとしての保健医療社会学の関係性
    •    (2)PBL教育内部における保健医療社会学の「介入」の位置づけの有無やその程度
    •    (3)これらの考察を経た具体的なカリキュラムの提案
    •    (4)学際的性格をもつ保健医療社会学そのものの教育におけるPBL手法の導入の可能性
    •    【克服すべきポイント】
    •    人間の学習過程の一般的共通性(=普遍)を前提にするPBL教育が、SDLにおいて学習主体を先験的に設定し、集団的行為過程における文化という「変数」 や「媒介物」を考慮しない、あるいは「変数や媒介物」としての文化を過小評価してきた事実をどう克服するか?
    •    PBL教育は問題解決のプロセスを通して行為者を自発的な学習者へと訓育することを理想とするが、問題解決そのものがしばしば自己目的化し、行為者を解決 中心の功利主義者へと結果的に仕立て上げるというジレンマの超克は?
    •    【PBLポテンシャル】
    •    PBL学習のスタイルは、自己内省的過程を含み、あらゆる知識習得の可能性を妨げるものではないので、教育現場における体系的知識習得型学習スタイルのマンネリズムを打破する。
    •    再帰的な自己意識をもち現場の組織秩序を変えてゆくユニークな学習者を多く生み出すことが期待できる。
    •    PBL教育の導入過程は、それまで未経験な教育者そのものを計画・立案・実行を通してPBL学習の現場に誘う。
    •    以上のような観点から、大学のなかで導入されつつあるPBL教育、チュートリアル教育、対話型教育などの教育手法にかかわる改革や改良は、今後の保健医療 社会学の未来像を模索するための貴重な試金石になると考えられる。
    •    PBLの医療思想史に関する意味については佐藤純一教授(高知大学)ならびに日米の医学教育におけるPBLの位置づけについては藤崎和彦教授(岐阜大学)から貴重な助言をいただきました。
    •    本研究は第16回ファイザーヘルスリサーチ振興財団より研究助成を受けた「サイエンスショップにおける臨床研究の可能性に関する基礎的研究―日本における 社会的・倫理的課題の検討」(代表者:西村ユミ)および大阪大学GCOE「コンフリクトの人文学国際研究教育拠点」研究プロジェクト「在日外国人支援の現 場における参与実践」(代表者:池田光穂)における支援を受けました。
    •    以上の関係の方々に深く謝意を表します。なお、この発表における見解ならびにその責任はすべて発表者(池田光穂)にあり、上記研究者ならびに支援団体の見解ではありません。


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