1 遺跡観光への招待
文化遺産(heritage)には、記念碑や動産財など「もの」としてとらえられる側面と、土 着文化などのように抽象化された観念という二つの側面がある(Boniface and Fowler,1993)。しかし、後者にしてもそれらを担う人びとが語ったり制作したり、あるいは祭や芸能などのように表象されることを通して文化遺産 として人びとに認められるのである。つまり文化遺産は、文化という観念とそれが物象化された「もの」との相互作用のなかにある。
文化遺産の場所を訪れることは、たとえ旅行全体の目的が余暇にあったとしても旅行者はその場所 に積極的意義を見いだす。旅行者がそこを訪れ、そこにある「もの」を媒介にして何らかの意味を抱くことが文化遺産観光を理解するための重要な鍵になる。こ の論文において私は文化遺産観光、とくにメキシコ南部から中央アメリカ西部にかけての古代マヤ文明の遺跡観光に焦点をあてながら、文化遺産と人びとが抱くそのイメージがどのような文脈におかれるかで、それらの関係が変化するということを論じてみたい。
Copyleft, CC, Mitzub'ixi Quq Chi'j, 1997-2099
この論文は、同名の著者による『観 光の二〇世紀』[共著]石森秀三編,ドメス出版,(担当 箇所「遺跡観光の光と影——マヤ遺跡を中心に」および総合討論),pp.193-206,1996年12月と、ほぼ同じ内容のものです。文献と謝辞は省い てあります。