超自然的施術説話の記号学
semiology of supernatural and or spiritual healing
解説:池田光穂
超自然的施術の説話の記号学
心霊治療における“治療のプロセス”について語られた内容には(その時系列において)いくつかの基本的なモチーフがみられる。すなわ ち、
(1)近代医学による病気の認定
(2)超自然的施術に関する情報の入手とそれに対する感情
(3)施術を受け入れること
(4)施術後の感覚
(5)近代医学による治癒の認定 である
これらの内容は次のごとくである。
●説話の5要素
(1)近代医学による病気の認定
そのヴァリエーションには「手術の適用の予定またはほのめかし」「不治の病いの診断」「不具の認定」など、治癒不能あるいは治癒が難し いことが患者あるいはその家族に告げられる。
(2)超自然的施術に関する情報の入手とそれに対する感情
他者あるいはメディアによる非正統的施術に関する情報の提示がある。その内容はそれが(1)の病気を治癒可能にするものだという情報 あるいはそのコノテーションである。それに対する患者の感情は一般的には不審を抱くなど否定的なものが多い。
(3)施術を受け入れること
否定的な感情をもったままの場合もあるが、多くは微かな希望をもって施術を受ける。そのような決断は、(1)の認定の深刻さによって より豊かに潤色される。
(4)施術後の感覚
治癒の実感は多様である。劇的な治癒を感じるもの(衆目の中での確認の行為はその効果を増強する/歩いて見せること)から治ったと感 じずに、㈭の近代医療による認定を待って感じるものまでその経験の質は幅広い。
(5)近代医学による治癒の認定
この説話・言説において重要な構造は、初め((1))と終わり((5))に必ず近代医学による認定と承認があることだ。つまり、近代 医学というエピステーメーを抜きにして心霊治療の言説は成り立たないのである。心霊治療の説話は“近代医学によって治癒不能なものを治癒可能にする”とい うメッセージが人々に語られるが、それは近代医学による認定によって完結する物語なのである。その点で、心霊治療の物語は、近代医療における治癒や伝統医 療における治癒の物語と一線を画している。これは、心霊治療は近代医学のイデオロギーの影響のもとで成立している(サラザール)とか、近代医学による医 療化に抗した形態だという主張(ロウ)に符合していることはたいへん興味深い。
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