ツーリスト・アート
Tourist Art
From Graburn (1979:6)
解説:池田光穂
ワールド・アートは和製英語である。
元来、伝統芸術・民族芸術のデザインやその工芸の様式は、その社会固有の神話や伝承に深くむすびついたものであった。ところが、大衆観光の 到来、そして交通機関の著しい発達は、そのような芸術の様式を根本から変えてしまった。
しかしそれは、通常我々が想像するような“伝統的な芸術の衰退”という単純な現象だけではない。なぜなら、影響を受けたのは「彼ら」じしん の芸術の様式だけではないからだ。我々のじしんの芸術のセンスにまで影響を及ぼしているのである。
つまりこうである。我々は旅先であるいは自分たちの住んでいる町のエスニック・マートで、民族芸術のかおりのするアイテム——すなわちキー ホルダーや簡単な織物から置物や調度まで、時には民族音楽のカセットやCDも——を購入するが、その動機は我々じしんの美的趣味に由来している。身の周り の需要に応じて作られていた「彼ら」の民族芸術の様式が、観光客や先進諸国のお客の要望によってシフトするのである。さらに「彼ら」は、自分たちの芸術の 様式から、我々の好みにあった様式を再発見したり、ときには創造したりする。
カリファルニア大学のネルソン・グレーバーン教授によると、そのような芸術を担っている「彼ら」とは「第四世界」の住民たちである。彼ら は、第三世界にまで共通する「国家」という大きな装置を所有せず自らの集団を方向づける力を所有していない。
現在の我々の身の周りを見回してみよう。第四世界の住民たちが作製した芸術に満ち溢れている。そして、それらは元あった場所や元あった意味
を失ってはいるが、我々と確かなコミュニケーションを保っている。それは、民族芸術の商品化に伴う人間疎外という弊害もあるが、異質な審美観どうしの交流
や、芸術に込められたメッセージ性を共有するという新たな状況をも生んでいるのである。 ツーリスト・アートの面白さは、第四世界の人びとと我々をむすぶ
コミュニケーションに由来するのである。
■類語:ワールド・アート、観光現象と芸術、観光芸術人類学、エスニックアート()
Some of the papers were presented at the Symposium on the Arts of
Acculturation at the annual meeting of the American Anthropological
Association in San Diego, Calif., Nov. 1970
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