人類学的医学・人類学的医療
Anthropological Medicine
解説:池田光穂
人類学的知識をもって既存の近代西洋医療を改変したり組み替えたりするより実践性の高い医療的 実践を人類学的医学・人類学的医療(Anthropological Medicine)という。
医療人類学(Medical Anthropology)とは、健康と病気にかんする社会のさまざまな現象を研究する人類学の一分野であった。しかし医療人類学の真に新しい定義は「医療と人類学を架橋する学問」である。医療人類学は、欧米や日本のみならず、イ ンド、マレーシア、タイ、メキシコ、ブラジルなどにおいても大学の内外で研究分野として呼ばれている。
医療人類学という学問については、次の3つのコンセンサスがみとめられている。
(1)人びとの健康と病気にかんする信条や実践は文化的に修飾された多様なものであり、それ らの実態は変化しているという現状認識。
(2)文化的に修飾された人間の行動は、環境への適応や生物学的進化という医学的現象によっ ても解析可能であるという、科学的態度。
(3)それらの知見をもとに特定集団の健康と病気にかんする生活慣習への介入をおこない、人 びとの生活の質を改善することができるという実践的方向性。
医療人類学は、人類学・社会学の民族誌学的方法、第二次大戦後に本格化する国際的な医療援助の 現場、臨床現場における人間行動の微細な観察の蓄積などを背景に、健康と病気について人類学から実践的に関与しようという方向性をつねに持ち続けてきた。
つまり、身体にかかわる文化的事象を研究しようとする人類学の学問的嗜好と、よりよい生活の質 をもとめる近代医療の社会実践が折衷的に融合したものとみてよい。その中で上記(3)で記した実践的態度は、人類学的知識をもって既存の近代西洋医療を改変したり組み替えたりするより実践性の高い人類学的医療(Anthropological Medicine)という領域を うみつつある。
【リンク集】
【主要文献】
さすが医療社会学は医療人類学のご先祖さまのひとつで偉く、社会学的医療という概念を18世紀の終わりにチャールズ・マッキンタイアがすでに提 唱しているという(市野川 2003:178)
McIntire, Charles. 1894. The Importance of the Study of Medical Sociology. Bulletin of the American Academy of Medicine 1:425-434.
マッキンタイアは Journal of Sociological Medicine の発刊者でもある。
【参照文献】
市野川容孝 2003 「解説 レネー・C・フォックスと医療社会学の系譜」 レネー・フォックス『生命倫理をみつめて』中野真紀子訳、所 収、Pp.175-214、東京:みすず書房。