フローレンス・ナイチンゲール！（Florence Nightingale, 1820-1910）もう聞くだけで、イタリアっていう感じがしますが（事実イタリア生まれ）、日本の一部の看護学業界における 神 格化（apotheosis）での常識では、もうごりごりのセクシズムと切れない博愛主義者か、イギリスの帝国医療の手先か、はたまた現代フェミニスト的 専門職かという、この３パターンの中に入りうるご神体として奉られているのはご存じのとおりです。

彼女はロンドンの聖トーマス病院（St Thomas' Hospital）に附属してナイチンゲール看護学校を設立しました。これは世界初の 非宗教系の看護学校であり、現在はキングス・カレッジ・ロンドン（King's College London, KCL）の一部となっています。ウィキペディアには、ギリシア哲学についても造詣が深く、オックスフォード大学 のプラトン学者、ベンジャミン・ジョウェット（Benjamin Jowett, 1817-1893）とも親しく交流した、とあります。

St Thomas' Hospital（これは現在の姿です）

しかし、この近代の女性のアスクレピオスたるフローレンス・ナイチンゲール（1820 -1910）は、ナグアル（メソアメリカにおける人間の変身獣信仰）としては、ツグミ科ノゴマ属の鳥にも変容し、英語の俗語では、裏切り者ないし は密告者——夜に囀る種類がいるのでそのような名がついた——とも言われているように、なかなか理解するには難しい生き物なのでございます。

また、人間のお姿のフローレンスは、クリミア戦役時代においてスクタリでの活躍がニュース報道としての銅板画となり、広く大衆に流布するように なったと言います。この時期から、フローレンス神のお姿は、さまざまなイコノロジー的変容と遂げて、ひろく我々の信仰の中に登場するのでございます。

「スクタリの病棟にて」1855、W. Simpson 画；E. Walker, "The Seat of War in the East."

「スクタリの病院におけるミス・ナイチンゲール」1858,  J. Hind 画：G. Greeatbech, "History of the War with Russia."

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オリエンタリズム風の肖像（スクタリの病院で、彼女の部分が異様に白い）出典調査中（Hugh Small,Avenging angel の表紙に使われた）

彼女の作図考案になるニワトリの鶏冠（とさか）図："Example of polar area diagram by w:Florence Nightingale (1820–1910). This "Diagram of the causes of mortality in the army in the East" was published in Notes on Matters Affecting the Health, Efficiency, and Hospital Administration of the British Army and sent to Queen Victoria in 1858. This graphic indicates the number of deaths that occured from preventable diseases (in blue), those that were the results of wounds (in red), and those due to other causes (in black). The legend reads: The Areas of the blue, red, & black wedges are each measured from the centre as the common vertex. The blue wedges measured from the centre of the circle represent area for area the deaths from Preventable or Mitigable Zymotic diseases, the red wedges measured from the centre the deaths from wounds, & the black wedges measured from the centre the deaths from all other causes. The black line across the red triangle in Nov. 1854 marks the boundary of the deaths from all other causes during the month. In October 1854, & April 1855, the black area coincides with the red, in January & February 1856, the blue coincides with the black. The entire areas may be compared by following the blue, the red, & the black lines enclosing them." https://www.davidrumsey.com/luna/servlet/s/h6xid2

ナイチンゲールの図像学は、フローレンスの神をどのように解釈するかによって、きわめて重要な提案を看護学のイデオロギー研究にとって重要な意 義をもつものでございます。

リンク

• 天職としての看護︎▶ナイチンゲール第２書簡（May 23, 1873）︎▶︎︎▶︎▶︎︎▶︎▶︎︎▶︎▶︎︎▶︎▶︎
  

文献

• ︎ナイチンゲール : 神話と真実 / ヒュー・スモール [著] ; 田中京子訳、みすず書房 , 2003
• ナイチンゲールと六人の弟子 / Z.コープ著 ; 三輪卓爾訳,  医学書院 , 1972
• ナイチンゲールと医師たち / ザカリイ・コープ著 ; 小池明子, 田村真訳, 日本看護協会出版会 , 1979
• ナイチンゲール書簡集 / 浜田泰三訳, 山崎書店 , 1964.7→新訳・ナイチンゲール書簡集 : 看護婦と見習生への書簡 / ナイチンゲール [著] ; 湯槇ます [ほか] 編訳、現代社 , 1977
• ナイチンゲール著作集 / 薄井坦子 [ほか] 編訳, 全3巻. - 東京 : 現代社 , 1974.6-1977.3
• ケインズからナイチンゲール, 森鷗外まで / 福井幸男著, 共立出版 , 1997.6. - (知の統計学 / 福井幸男著 ; 2)
• 統計学者としてのナイチンゲール / 多尾清子著, 医学書院 , 1991
• もうひとりのナイチンゲール : 誤解されてきたその生涯 / 吉岡修一郎著, 医学書院 , 1966
• ナイチンゲールの「看護覚え書」 : イラスト・図解でよくわかる! / 金井一薫編著, 西東社 , 2014
• ナイチンゲールとマズロー : 看護における二人の位置付け / 広野照海著, 武蔵野 : さんこう社 , 2013
• 梟とナイチンゲール : 中世イギリス論争詩 / 佐々部英男訳, あぽろん社 , 1975（※これは鳥のナイチンゲールの話です）
• ナイティンゲールのことば : その光と影 / ナイティンゲール[述] ; モニカ ベイリー編集 ; 助川尚子訳, 医学書院 , 1994
• ナイチンゲール伝 : 図説看護覚え書とともに / 茨木保著, 医学書院 , 2014
• ナイチンゲールの末裔たち : 「看護」から読みなおす第一次世界大戦 / 荒木映子著, 岩波書店 , 2014
• ナイチンゲール『看護覚え書』の構造を読む : 方法としての書誌学的研究 / 小川典子著, ゆみる出版 , 1999
  

その他の情報

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