プレゼン上達のためのヒント
You can transform your audiences
that feel more impressed than before
解説:池田光穂
当面の2つの目的
大学院生の諸君にとって、研究成果をプレゼン(てーしょん)する、当面の目的は次の2つである。 この目的は、参与者(ゲーマー)が守らなければならない大原則なので、大きな規則すなわち2つのルールといってもまちがいではないだろう。
1.他の研究者と議論ができること
2.他の研究者に対して議論のための素材を提供できること
この2つがないと、誰も君の研究発表に耳を貸さないだろうし、発表が終わった後にくるコメントや 感想は、単なる外交辞令にとどまるにすぎないであろう。君と議論をしたがらない最悪のコメントは、君の話を餌にした、自分(=他の研究者)の研究に関する 「君の議論とは関係のない」我田引水的な議論であろう。このようなことは避けなければならない。そして、
3.時間をまもることです(→原稿量と時間)
2つのミッション
しかしながら、よく考えてみれば、大学院生(のみならず研究者)にとって研究発表の最終的な目的 (テロス)は、もっと別のところにあるはずだ。この2つのテロスは、終わっている時には完遂されていることが前提とされているので、それを我々のミッショ ンと呼んでもさしつかえないだろう。それは次の2つである。
1.研究発表を通して、自分の研究が発展すること
2.自分の考えが他の研究者に伝わること
なぜなら、自分の研究が発展し、より多くの人に自分の研究が知れ渡るようになることは、研究者と しての生命を保証するものであり、また君の研究が公共性をもつことであり、また多少なりとも社会の役にたつことに繋がるからである。
3つのスローガン
そのための3つの原則と、それを実現させる方法論を紹介しておこう。つまり、プレゼンをよくする ためには、つぎの3つの点について努力すればよいことになる。
(1)わかりやすく
(2)誤解を防ぐ
(3)練習する
この3つのスローガンの内容を少し説明しておこう
(1)わかりやすく
難しいことをわかりやすく表現することほど難しいものはない! しかし、世の中には難し いことを上手にわかりやすく説明する人がいることも確かだ。難しいことをわかりやすく説明できる方法は必ずあると信じるほうが得策だ。
わかりやすく説明することを助けるプレゼンツールなどがある。しかし、プレゼンツールの フォントが大きく設定されているにもかかわらず、わざとフォントのサイズを落として、細かい情報をこれでもか!と詰める愚かものがいる。
プレゼンツールは、大きなフォントで表現することのできるスローガンか、それを上手に図 示したものを呈示すべきである。
(2)誤解を防ぐ
自分自身を知れ! というのは研究者にとって重要な要件である。
自分の知っていることと知らないことを明確にすることは重要である。(もちろんこれは世 の中の賢人についてのエピソードを聞くまでもなく、すごい大変なことではある)。
知ったかぶりはいけないが、アホを装うのもよくない。知識を正直モードで表現すること、 これこそが唯一、他人の理解に対して誤解を防ぐ近道である。
(3)練習する
どんなエクセレントな発表も、その陰には普段のそして不断の努力がある。一にも二にも練 習であり、第三者のアドバイスを虚心に受け、それを試してみること。もちろん、第三者のアドバイスも役に立つこともあるし、だめにする役立たずなものもあ る。採否は君の判断にかかっていることをお忘れなく!
またしても、プレンゼンツールのおかげて、この練習も効率よくおこなうことができるよう になった。
形式として守らなければならない3つのルール
どんな社会にも、どんな文化にも、人々がもっとも美的と感じる形式がある。研究者の間の美徳 (というか近代人的美徳)は、つぎの3つと言えるかもしれない(私の経験からいってこう断言できる)。
(1)発表の時間を守る(→冒頭の3分で、好印象を与えないとたいがいの 発表は失敗か「並」に評価されます!)
(2)オーディエンス・フレンドリーな発表
(3)質問やコメントへの応答は、最良のプレゼン技術が要求される!
最後に、この3つについて解説をして、このページを終えよう。
(1)発表の時間を守る
みんなに与えられている発表時間は、研究者にとっての自己表現の権利の時空間であ る。したがって、このスケジュールを破ると、かならず第三者にしわ寄せがくる。つまり迷惑がかかるのである。
時間を守らないと、オーディエンス(聴衆)は最後まで聞くことができず、託児所に子 供を引き取りにいかねばならず、質問することができず、また辛抱しているトイレにいくこともできず、(発表内容以外の要因により)発表そのものに悪い印象 を与えてしまうことになりかねない。
時間をきっちり守る奴は、シャープな研究者だと判断されやすい。もちろん内容が台無 しだと、それが制限要因になってしまうが、余韻を残して、もっと聞きたいとオーディエンスに思わせる発表がプロの技である。
01●役 にたつチップス:講演時間を守るためには、原稿分量と朗読速度と量を事前に計算しておきましょう。
たとえば、私は英文で発表する際には、15分間の学会発表では、朗読量としては、およそ180語で発表します。20分
では210語です。つまり、5分間に53語〜60語で話すこ
とになります。ただし、講演時間が長くなると時間に余裕があると誤解して脱線が多くなり、後半あわてて、いろいろなものをスキップしてしまう失敗がありま
す。講演時間が予定よりも短ければ、質疑応答や議論に時間を割くことができるので、時間を超過して他の演者に迷惑をかけるよりかはましです。人間はだいた
い焦ると早口で読んでしまい、余裕がありすぎると冗長で長くなるので、リズミカルに読んで、聴衆を疲れさせないように工夫することも必要です。
(2)オーディエンス・フレンドリーな発表
楽しくて生き生きしている発表は、聞いているだけで元気をもらってしまう。
オーディエンス・フレンドリーな発表により、オーディエンスは発表者に対する余計な 偏見をもつことなく、内容の議論に没入することができる。
原稿の棒読みはだめである。どちらかというとゆっくり(ただし冗長はだめ)のほうが よい。なぜなら、人間はあせると原稿の読み方のスピードが増し、それによりさらに、オーディエンスがわかりにくくなるからである。
音読によりフィードバックすることで、同音異義語やわかりにくい漢語表現を避けるこ とができる。
これらの配慮は、すべてオーディエンス・フレンドリーという言葉と原則にまとめるこ とができる。
(3)質問やコメントへの応答は、最良のプレゼン技術が要求される!
いくら完璧なプレゼンをしても、刺激的なコメントや激励をもらったり、建設的な批判 や質問を引き出さないことには、意味がありません。
この部分はもっとも高度ですが、逆に言うと、この部分に細心になれば、あなたのプレ ゼン技術は完成に近い状態になります。
なぜでしょうか?
答えは簡単です。質問やコメントは「予測が難しい」からです。
それゆえ、当意即妙の受け答えや誠実な応答は、質問者から評価されることになりま す。
かといって準備できないというわけではありません。自分の発表が終わった後に、どの ような質問が出てくるのかということを予測して、研究発表の準備を進めることが重要です。
また、質問の内容がよく分からない場合は、虚心坦懐(つまり謙虚に)質問者に確認を とりましょう。中途半端な理解にもとづいて応答すると墓穴を掘ることがあります。
大切なことは、質問やコメントを誘発させる発表は、人を完璧にうならせる発表より も、将来的な成長が見込まれるということです。
整理しましょう
発表の資料まとめが終わった段階で、次のような自問をして、より満足のいく発表を期待できる ように、チェックしておきます。
(1)対象は誰か?
(2)何を伝えたいのか?
(3)伝えるための方法は適切か?
(4)相手に伝わることで、どのような社会的効果を生むのか?
これについて、ある程度のビジョンがもてれば、不安は解消するはずです。闇雲な度胸をもつ必 要はありません。この4つの安心をもてば、初めての発表でも決して緊張はしないはずです。
さあ、自信をもって楽しく発表しましょう。
姉妹編:スライド形式で学ぶ「プレゼンテーションの技法:その最初のステップ」は こちらです!