現場力とコミュニケーション
《第8回》
プロセスレコードの批判的研究(2)議論
講義目的
プロセスレコードの〈批判的〉研究をグループワークを通しておこなう。
講義内容
プロセスレコードとは、ヒルデガルド・ペプロウ(1952)によって提唱された、看護の臨床の現 場における、対人関係とくに看護者と患者の間の相互作用にかんする文章による記録のことであ る。この記録の形式は、アイダ・オーランド(1972)による、看護過程論(nursing process) による議論を受けて、看護者が患者の(対人相互作用による)行動を、知覚分析し、それにもと づいて、看護者がどのように行動をおこなったかを、出来事の後で、内省的な観察を加えて記述 する方法へと洗練化された。また、プロセスレコードを看護者の内省的観察を実践する際に、ア ーネスティン・ウィーデンバック(1962)は、5つの自己評価項目を標語化(つまりテーゼ化) し、プロセスレコードを記述することを、一連の行動の連続(シークエンス)をひとかたまりの 単位(ユニット)として抽出すること、ならびに、それらの一連の行動を、ひとつの意味のある (=分析に値する)行動と知覚の連鎖として記述するという技法の形にとりまとめられることを 明らかにしている。
【状況設定】
あなたは、これまでに看護教育における実習の現場で、プロセスレコードの作成という課題をおこなってきまし た。ここではあなたが、授業で与えられ、そして具体的作成してきたプロセスレコードについて、この授業では、 より価値自由にかつ相対的に、プロセスレコードをとりあつかます。そのような作業により、このような自己内省 型の教育ツールが、看護教育ひいては、医療の現場における対人関係をどのように「理想化」(より社会学的概念 として正確に表現すると「理念化」(アイディアライズド)といいます)しているのかについて、みなさんの経験 や議論を通して明らかにします。
【課題】
1.プロセスレコードについて知っていることを調べなさい。
2.プロセスレコードについて(実際の作成経験のある人は、その門外漢に対して)わかりやすく説明してくださ い。
3.プロセスレコードについて、その教育上におけるプラスの意義について、自分の経験を交えて指摘しましょ う。
4.プロセスレコードについて、その教育上におけるマイナスの意義について、自分の経験を交えて指摘しましょ う。
5.現場経験が長くなるほど、プロセスレコードの教育経験などについて「忘却してしまうようだ」という声が聞 かれます。その理由はなぜでしょうか? みなさんの中に現場経験がそれほどない方がいらっしゃっても、どうし て、医療・看護・福祉の学生たちが「結果的に」そのような事態に陥ってしまうのかについて、その状況を想像し て、そこで何がおこっているのか/おこったのかを省察し、みなさんで知恵を出し合って話し合ってください。
6.以上のような成果について、「プロセスレコード」風に、ご自身の経験をまとめて宿題とし、次回に持参して ください。
7. もちよった皆さんの資料をもとに、みんなで議論し、最終的に、プロセスレコードを使う授業をどのように改 善すればよいか話し合ってください。
【考える視点】
プロセスレコードのエピソードは過度に理念化される。 他方で、初学者の教育には便利だ。 専門家と初学者(つまり学生)では、現状やエピソードの切り方が異なるのでは? 理想と現実のギャップを代表する例である。 頭ごなしに疑念を提示するだけでなく、実際につかってみて改善する方法もあるのでは? プロセスレコードが生まれてきた当時の人間観や社会観(ひいては臨床観)についての理解も必要では? ディスカッションのプロセスのダイナミズムと、プレゼンテーションになった時の単純化や平準化 現場力とプロセスレコード
【時間配分】
16:20〜16:35(15分) オリエンテーション
16:35〜17:20(45分) グループワーク
17:20〜17:50(30分) 任意の数グループを指摘して発表、残りを全体討論。
全体討論
【グループ編成】
学生数__名( __グループ)
文献:
・樋口昌彦「コミュニケーション技術への視線―プロセスレコードの社会学的研究に向けて」
山中浩司編『臨床文化の社会学』Pp.247-268、京都:昭和堂、2005年
・池田光穂 プロセスレコードとはなにか?
http://cscd.osaka-u.ac.jp/user/rosaldo/061114geNba.html(2007年2月17日)
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