医療現場でのコミュニケーション(1)
Human Care in Clinical Practice (1)
西村ユミ
◆ 講義内容および目標
1 医療現場におけるコミュニケーションの一例として、遷延性植物状態患者の援助をしている看護場面を取りあげ、ここでいかなるコミュニケーションが行われているのか(行われている可能性があるのか)を検討する。
2 遷延性植物状態を患う患者の“存在”から、どのような問いかけを読み取ることができるのかを考える。
◆ 問い
・コミュニケーションは、一方が他方に、言語的・非言語的に[問いかけそれに応じる]というスタイルでだけ行われているか?
・コミュニケーションは、[うまくできる/できない]という次元のみで行われているのか?
・経験の次元において、[自己/他者]は明確に分離されているか?
1. 遷延性植物状態患者について
○遷延性植物状態(意識障害)患者にかかわる医療者の経験
・相手がはっきりした返事を返してこないとき、かかわろうとした側が自分自身の感覚や行動を問い直すことになる。
・実際に患者たちと直に接している看護師や医師の多くは、遷延性植物状態の定義からは理解できないような関わりの手ごたえを経験することがある。しかし、それをはっきり説明することは困難である。
・関わる側の見方によって、患者の存在の有り様が大きく異なる。
○遷延性植物状態患者の定義
一見、意識が清明であるように開眼するが、外的刺激に対する反応あるいは認識などの精神活動が認められず、外界とのコミュニケーションをはかることができない。(Jennett, B & Plum, F., Persistent Vegetative State after Brain Damage; A syndrome in search of a name. The Lancet, April 1, 1972)
○疑問
・はっきりとは説明できないが、確かに何らかの交流ができているという「関わりの手ごたえ」とは一体何か? 思い込みか? 何が看護師たちを患者へと向かわせるのか?
2. 遷延性植物状態患者と看護師とのコミュニケーションについて考える
1)VTR『あせらないけどあきらめない』の視聴(約20分)
2)グループワーク(約30分)@6人/G
[課題]
・遷延性植物状態患者の援助をしている看護場面において、いかなるコミュニケーションが行われているのか(行われている可能性があるのか)?
・名前を呼んだり、体をさすったりする行為には、どのような意味があるのか?
3)1Gの発表+まとめ(約10分)
[宿題] 1) 本日のGWの課題を,各自の言葉でまとめてくる. 2) VTRで遷延性植物状態患者を見て、あるいか看護師のかかわりを見て、考えたことを書き出してくる.
※以下は授業シラバスからの抜粋です。
臨床コミュニケーション
臨床コミュニケーションとは、人間が社会生活をおこなうかぎり続いてゆく、ある具体的な結果を引き出すためにおこなう対人コミュニケーションのことを言います。ここで言う臨床とは、狭い専門領域としての臨床(clinic)ではなく、その現場における実践状況(human care in practice)のことをさします。臨床コミュニケーション研究において、このような脱専門領域の意識を共有することは重要です。なぜなら臨床コミュニケーションとは、専門家どうしの対話のみならず、専門家と普通の人(例えば患者など)、そして日常経験の中に生きる普通のひとどうしの対話などから成り立っているからです。
ディスコミュニケーション
コミュニケーションの不在や失敗を、私たちはディスコミュニケーションと呼びます。ディスコミュニケーションは良好ではないという点で、いちはやく「問題の発見」や「改善や治療」の必要性が叫ばれます。しかし、劣悪な関係性であれば、コミュニケーションを遮断することが最善の選択になることだってあるはずです。我々はコミュニケーションとディスコミュニケーションの様式を深く学び、それらを上手に操ることも必要なのです。良好なコミュニケーションを目指す人は、ディスコミュニケーションについての深い理解が不可欠です。
本講座では
このような「知」のあり方を自覚するために、様々な専門領域の大学院生どうしの討論をおこないます。各自が専門領域以外の者と円滑にコミュニケーションを図る能力、プレゼンテーション能力、および社会的判断力を身につけることを通して、ディスコミュニケーションを解消するための具体的なスキル学習を目指しています。
具体的には
異文化間、医療現場、紛争の現場における臨床コミュニケーションの特徴と課題を理解するとともに、参加者が自分たちの生活の場面からディスコミュニケーション事例を持ち寄り、そのプレゼンテーションと解決のための討論を通して、各領域におけるコミュニケーションの可能性と限界を明らかにします。そして、この臨床コミュニケーションの将来の課題を皆さんとともに模索してゆきます。
さらに学びたい人は
第1学期に開講されている「ディスコミュニケーションの理論と実践」、第2学期に開講する「臨床コミュニケーション II」「現場力と実践知」があります。また夏期集中講義「医療対人関係論」では、この授業のより具体的でかつ先進的なかたちで受講することができるでしょう。より少人数で、テーマを絞ったグループ討論で、学びを深めることができます。
これらの一連の授業の関連性について示したものが以下の図です。上下の軸は受講者が指向するレベルの局面を、左右の軸は受講者の解決したい問題の質を表現しているものです。受講者は、本人の関心に応じてどのような授業から入門されてもかまいません。
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