言葉を失うこと
―「患者が何も訴えてくれない!」―
2008年度 第1学期
ディスコミュニケーションの理論と実践
20080605 ディスコミュニケーションの理論と実践(8) 担当:西村ユミ
言葉を失うこと
「患者が何も訴えてくれない!」
■講義内容および目標
1 遷延性植物状態(意識障害)患者への援助を紹介したVTR『あせらないけどあきらめない』を観て、「コミュニケーション」の観点から、気になったこと考えたことを話し合って下さい。
2 VTRにおいて看護師たちは、「患者が何も訴えてくれない」こと(言葉による意思疎通の困難)に戸惑っていたと語られていましたが、それでもなお患者に関わり続けていました。この関与の継続が可能になる理由について考えて下さい。 (ALSの患者さんとの違いも考慮してみて下さい)
■遷延性植物状態患者のVTR鑑賞とグループワーク
16:25〜16:45 VTR『あせらないけどあきらめない』の視聴(約20分)
16:45〜17:30 グループワーク(約45分)@5〜6人/G
17:30〜17:50 発表とコメント
■情報
□遷延性植物状態患者について
○Jennett & Plumによる遷延性植物状態患者の定義
一見、意識が清明であるように開眼するが、外的刺激に対する反応あるいは認識などの精神活動が認められず、外界とのコミュニケーションをはかることができない。(Jennett, B & Plum, F., Persistent Vegetative State after Brain Damage; A syndrome in search of a name. The Lancet, April 1, 1972)
○日本脳神経外科学会植物状態患者研究協議会による定義(1972年)
useful life を送っていた人が脳損傷を受けた後で以下に述べる6項目を満たすような状態に陥り、ほとんど改善がみられないまま満3カ月以上経過したもの。
(1)自力移動不可能。
(2)自力摂食不可能。
(3)尿失禁状態にある。
(4)たとえ声は出しても意味のある発語は不可能。
(5)「眼を開け」「手を握れ」などの簡単は命令にはかろうじて応ずることもあるが、それ以上の意思疎通が不可能。
(6)眼球はかろうじて物を追っても認識はできない。
○脳に何らかの重い障害を受け昏睡、つまり意識を失い、外界からの刺激に全く反応しない状態におちいった後、呼吸活動や眼の対光反射など生命徴候だけはもどったものの、外部との意思の疎通がまったくあるいは通じない状態が続くこと。脳死とは異なる。
○脳死と植物状態
脳死の定義:脳幹を含む脳全体の機能の不可逆的停止
生命維持装置によって人工的に心臓や肺は動いている(=体は生きている)が,脳機能が停止した状態をいう。
臓器移植法 第六条「脳死した者の身体」とは,脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止するに至ったと判定されるものの身体をいう。
■看護師の言葉(西村『語りかける身体』より)
・握手をして応答を確認しようとしたとき
「…手を握ってくるっていうのがあったので、こう、ピッってして(患者さんの手の中に自分の手を入れる真似をする)、あの、「手力入れて」って言ったらキュイ、「離して」キュイ、「合ってるかな」っていう感じ?…不随意でたまたま言葉かけに合ってたのかなとか、私がその不随意な動きに無意識に言葉だけ合わせてた可能性ってあると思うんですよ。瞬目もそうだと思うんですけどね。うん。だから、だから「確立できてない」と言ってるんだけれども、たぶんキュッて手握ってくる様子があったような気がするし、瞬目も回数合ったりとか、だから二回目パチパチしたら、パチパチってやるときがあったりとか、やっぱりパチンって。嫌やったらあのしなかったりとかっていうことがあったような気が、自分のなかであるように思えたから、そういう形でも、あの、コミュニケーションのとり方をしていた。」
・目を覗き込んだとき
「住田(患者)さんとどの程度コミュニケーションがとれてたと思う?」って言われたら、やっぱりうまくは言えないけど、なんだろう、目を見たらなんとなくこっちの目と視線が合うような気がしてたんですよ。なんとなく視線が。で、目と目が合うっていうのは、やっぱりなんか通じるものがあるって思うけども。…こうある瞬時で、なんかこうやっぱり視線がピッと絡むみたいなところはあるような気がする。そういう視線が絡むみたいなところがあるような瞬間が、瞬間として捉えられる。プライマリーだから捉えられるのかもしれないし、う〜ん。」
・がんの告知
「「がんの告知はしないで」って言ったのは奥さんの意向でした。…告知はしないっていう方向で、・・・話は決まってた。その具体的にじゃあ実際、臨床、現場のところで、その病状っていうか状況説明みたいな…、例えば胃瘻(腹壁と胃壁に直接穴をあけること。ここにチューブを通して栄養剤を投与する)を開けるときなんか、なんでオペ室入らなあかんのってことになるわけですよ。それがそのときの説明として、食道にがんできてとか、そういうこと言えないから、「チューブが入りにくくなってるから、でも住田さん糖尿病があるから、あのー栄養はちゃんと入れないといけないし、お薬もあるし、一回ずつ鼻からチューブ入れるのすごい苦しいだろうし」っていうような云々って話して、でね、「お腹の中で簡単にこう胃にチョンって穴開けて、チューブ直接そこから入れるってこともできるから」って、そういうレベルでの説明をしたりとか、もちろんこの段階で彼が手術に同意するしないっていうのがないから、家族の同意になってるけども、本当はもしかして一方通行な説明の仕方っていうか、コミュニケーションのとり方だって言われたら、「ウッ」て下がるしかないけど、でもそういうふうな形での説明で彼の納得が得られるって線で、少しでも彼が納得できるだろうって状況を、自分の中にそういうふうに考えてた。もし彼が本当に何も分かってないと、そこまでの話も分からない人やったら、今から点滴するよとか、もっと簡単な言葉で、ちっちゃな言葉で本当に最低限のことだけ伝えるっていうふうにできたけど、私はそのレベルでは止めてなかったから、うん、ある理解度を持ってたと感じる。それはでもなんでかって言うとやっぱり、二年近く関わってきて、あの人のまあやっぱ目を見ながら話して、やっぱり目が分かってるような気がするんですよね。」
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