グローバル共生と司法:資料編
授業資料:グローバル共生社会論(大阪大学大学院コミュニケーションデザイン科目2009)[→授業運用シラバス]
教科書:日韓共同編集『グローバル化時代をいかに生きるか:国際理解のためのレッスン』平凡社、2008年
1.グローバル共生社会と司法
担当:池田光穂(電子メールアドレス)
1.現代日本におけるグローバル化の現状を知るためには、教科書「1.文化のグローバル化」pp.14-20 を参照。
2.司法の社会的作用とはなにか?(国家による国民の統治手段、社会契約論にもとづく国民の権利保護のため、あるいはそれ以外の解釈は?)
3.司法の可能性と限界について考える。
【課題文】
「このように公共サービス通訳が、国家制度化されていなくても、実質上運用されて、公的な財源を投入することができる根拠は、国民健康保険 法、医師法、学校教育法、児童福祉法、生活保護法、労働者災害補償保険法などのなかに日本国憲法が規定する普遍的な人権とその擁護の実践原則が反映されて おり、これらの法律の運用根拠になっているからである。国家は外国人の人権についてそれを真理として完璧に承認しているわけではないが、それぞれの法律の なかに「部分的真理」(partial truth)として存在しているために、実質的に認めなければならないのだ。公共サービス通訳の制度化を、国民が政府に対して要求しつづけることができる 根拠もここにある」
(池田光穂:「「文化の翻訳」に資格はいらない:制度的通訳と文化人類学」『こころと文化』8(2)2009年刊行予定)。
【設問】
(1)法とはなにか?
(2)法の運用をこのように道具化することは可能か?
(3)もし道具化することが可能なら、この文章の作者のように、法を使ってよいか?
【もっと勉強したい人のために】
「日本の憲法の下で、外国人について権利性質説という考え方が判例、学説上定着していることはご存じのことと思います。これは権利の性質 上、日本国民だけに認められるべき権利、例えば国政選挙権などを除いては憲法上の権利は外国人にも等しく保障されるという解釈です。その意味では、憲法上 の権利を享受することについて外国人は、本来何ら欠けるところはないはずです。しかしながら、最高裁判所の判例は、こうした原則に対して幾つかの例外をこ れまで設けてきました」(東澤靖、平成15年3月12日)。
[出典:第156回国会・参議院憲法調査会第4号 平成15年3月12日の弁護士の東澤靖の発言より:当該議事録は参議院のウェブページよ り見ることができます](以下の、コメントも参照のこと)
コメント:国際条約および国内法などのうち、全面的ににではないにせよ、在日外国人の人たちの人権を保障する法的な根拠が、それぞれの条文のな かに「部分的真理」(partial truth)として埋め込まれているのではないかというのが、引用者の趣旨です。
【□□□】内は、引用者による強調
====国際法規====
世界人権宣言
第一条 【すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である】。人間は、理性と良心とを授けられており、互 いに同胞の精神をもって行動しなければならない。
第二条 1.【すべて人は、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治上その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、門地その他の地位又はこれ に類するいかなる事由による差別をも受けることなく】、この宣言に掲げる【すべての権利と自由とを享有することができる】。
2. さらに、個人の属する国又は地域が独立国であると、信託統治地域であると、非自治地域であると、又は他のなんらかの主権制限の下にあるとを問わず、その国 又は地域の政治上、管轄上又は国際上の地位に基づくいかなる差別もしてはならない。
児童の権利に関する条約
第2条1. 締約国は、その管轄の下にある児童に対し、【児童又はその父母若しくは法定保護者の人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的、種 族的若しくは社会的出身、財産、心身障害、出生又は他の地位にかかわらず、いかなる差別もなしにこの条約に定める】権利を尊重し、及び確保する。
2. 締約国は、児童がその父母、法定保護者又は家族の構成員の地位、活動、表明した意見又は信念によるあらゆる形態の差別又は処罰から保護されることを確保す るためのすべての適当な措置をとる。
女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約
第二条
締約国は、【女子に対するあらゆる形態の差別を非難し、女子に対する差別を撤廃する政策をすべての適当な手段により、かつ、遅滞なく追求する ことに合意し】、及びこのため次のことを約束する。
(a) 男女の平等の原則が自国の憲法その他の適当な法令に組み入れられていない場合にはこれを定め、かつ、男女の平等の原則の実際的な実現を法律その他の適当な 手段により確保すること。
(b) 女子に対するすべての差別を禁止する適当な立法その他の措置(適当な場合には制裁を含む。)をとること。
(c) 女子の権利の法的な保護を男子との平等を基礎として確立し、かつ、権限のある自国の裁判所その他の公の機関を通じて差別となるいかなる行為からも女子を効 果的に保護することを確保すること。
(d) 女子に対する差別となるいかなる行為又は慣行も差し控え、かつ、公の当局及び機関がこの義務に従つて行動することを確保すること。
(e) 個人、団体又は企業による女子に対する差別を撤廃するためのすべての適当な措置をとること。 (f) 女子に対する差別となる既存の法律、規則、慣習及び慣行を修正し又は廃止するためのすべての適当な措置(立法を含む。)をとること。
(g) 女子に対する差別となる自国のすべての刑罰規定を廃止すること。
あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約
第2条 1. 締約国は、【人種差別を非難し、また、あらゆる形態の人種差別を撤廃する政策及びあらゆる人種間の理解を促進する政策をすべての適当な方法により遅滞なく とる】ことを約束する。このため、
(a)各締約国は、個人、集団又は団体に対する人種差別の行為又は慣行に従事しないこと並びに国及び地方のすべての公の当局及び機関がこの義務 に従って行動するよう確保することを約束する。
(b)各締約国は、いかなる個人又は団体による人種差別も後援せず、擁護せず又は支持しないことを約束する。
(c)各締約国は、政府(国及び地方)の政策を再検討し及び人種差別を生じさせ又は永続化させる効果を有するいかなる法令も改正し、廃止し又は 無効にするために効果的な措置をとる。
(d)各締約国は、すべての適当な方法(状況により必要とされるときは、立法を含む。)により、いかなる個人、集団又は団体による人種差別も禁 止し、終了させる。
(e)各締約国は、適当なときは、人種間の融和を目的とし、かつ、複数の人種で構成される団体及び運動を支援し並びに人種間の障壁を撤廃する他 の方法を奨励すること並びに人種間の分断を強化するようないかなる動きも抑制することを約束する。
2. 締約国は、状況により正当とされる場合には、特定の人種の集団又はこれに属する個人に対し人権及び基本的自由の十分かつ平等な享有を保障するため、社会 的、経済的、文化的その他の分野において、当該人種の集団又は個人の適切な発展及び保護を確保するための特別かつ具体的な措置をとる。この措置は、いかな る場合においても、その目的が達成された後、その結果として、異なる人種の集団に対して不平等な又は別個の権利を維持することとなってはならない。
====国内法=====
日本国憲法・前文
日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土に わたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言 し、この憲法を確定する。【そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものてあつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その 福利は国民がこれを享受する】。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅 を排除する。
日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼し て、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、【平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会にお いて、名誉ある地位を占めたいと思ふ】。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、【平和のうちに生存する権利を有する】ことを確認す る。
われらは、【いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法 則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる】。
日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。 (昭和21・11・3・公布・昭和22・5・3・施行)
日本国憲法・第3章国民の権利及び義務
第11条 【国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない】。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利とし て、現在及び将来の国民に与へられる。
第14条 すべて国民は、【法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別 されない】。
第18条 何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。
22条 何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
2 【何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない】。
第25条 すべて国民は、【健康で文化的な最低限度の生活を営む権利】を有する。
2 【国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない】。
第26条 【すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する】。
2 【すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務】を負ふ。義務教育は、これを無償とする。
出入国管理及び難民認定法(昭和二十六年十月四日政令第三百十九号)
第一条 出入国管理及び難民認定法は、【本邦に入国し、又は本邦から出国するすべての人の出入国の公正な管理】を図るとともに、【難民の認定手続を整備する】こ とを目的とする。 第二条 出入国管理及び難民認定法及びこれに基づく命令において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
二 【外国人 日本の国籍を有しない者をいう】。
三の二 難民 難民の地位に関する条約(以下「難民条約」という。)第一条の規定又は難民の地位に関する議定書第一条の規定により難民条約の適用を受ける難民を いう。
引用者註(→難民条約の規定は複雑だが、「難民の地位に関する議定書」から概ね次のような定義が該当する:「【人種、宗教、国籍若しくは特定の 社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であって、 その国籍国の保護を受けることができないもの又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まないもの及びこれらの事件の結果として 常居所を有していた国の外にいる無国籍者】であって、当該【常居所を有していた国に帰ることができないもの又はそのような恐怖を有するために当該常居所を 有していた国に帰ることを望まないもの】」)
外国人登録法
第一章 総 則
(目的)
第 一条 この法律は、本邦に在留する外国人の登録を実施することによつて【外国人の居住関係及び身分関係を明確ならしめ、もつて在留外国人の公正な管理に資 する】ことを目的とする。
(定義)
第 二条 【この法律において「外国人」とは、日本の国籍を有しない者のうち、出入国管理及び難民認定法(昭和二十六年政令第三百十九号。以下「入管法」とい う。)の規定による仮上陸の許可、寄港地上陸の許可、通過上陸の許可、乗員上陸の許可、緊急上陸の許可及び遭難による上陸の許可を受けた者以外の者をい う】。
2 日本の国籍以外の二以上の国籍を有する者は、この法律の適用については、旅券(入管法第二条第五号に定める旅券をいう。以下同じ。)を最近に発給した機 関の属する国の国籍を有するものとみなす。
刑事訴訟法
第2条 【裁判所の土地管轄は、犯罪地又は被告人の住所、居所若しくは現在地による】。
第13章 通訳及び翻訳
【第175条 国語に通じない者に陳述をさせる場合には、通訳人に通訳をさせなければならない。】
【第176条 耳の聞えない者又は口のきけない者に陳述をさせる場合には、通訳人に通訳をさせることができる。】
【第177条 国語でない文字又は符号は、これを翻訳させることができる。】
児童福祉法
第1条 【すべて国民は、児童が心身ともに健やかに生まれ、且つ、育成されるよう努めなければならない。】
2 【すべて児童は、ひとしくその生活を保障され、愛護されなければならない。】
第2条 国及び地方公共団体は、児童の保護者とともに、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負う。
第3条 前2条に規定するところは、児童の福祉を保障するための原理であり、この原理は、すべて児童に関する法令の施行にあたつて、常に尊重さ れなければならない。
教育基本法
(教育の機会均等)
第四条 【すべて国民は、ひとしく、その能力に応じた教育を受ける機会を与えられなければならず、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、 教育上差別されない】。
2 国及び地方公共団体は、障害のある者が、その障害の状態に応じ、十分な教育を受けられるよう、教育上必要な支援を講じなければならない。
3 国及び地方公共団体は、能力があるにもかかわらず、経済的理由によって修学が困難な者に対して、奨学の措置を講じなければならない。
(義務教育)
第五条 国民は、その保護する子に、別に法律で定めるところにより、普通教育を受けさせる義務を負う。
2 義務教育として行われる普通教育は、各個人の有する能力を伸ばしつつ社会において自立的に生きる基礎を培い、また、国家及び社会の形成者として必要とさ れる基本的な資質を養うことを目的として行われるものとする。
3 国及び地方公共団体は、義務教育の機会を保障し、その水準を確保するため、適切な役割分担及び相互の協力の下、その実施に責任を負う。
4 国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については、授業料を徴収しない。
学校教育法
第16条 【保護者(子に対して親権を行う者(親権を行う者のないときは、未成年後見人)をいう。以下同じ。)は、次条に定めるところにより、 子に9年の普通教育を受けさせる義務を負う】。
第17条 保護者は、子の満6歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満12歳に達した日の属する学年の終わりまで、これを小学 校又は特別支援学校の小学部に就学させる義務を負う。ただし、子が、満12歳に達した日の属する学年の終わりまでに小学校又は特別支援学校の小学部の課程 を修了しないときは、満15歳に達した日の属する学年の終わり(それまでの間において当該課程を修了したときは、その修了した日の属する学年の終わり)ま でとする。
2 保護者は、子が小学校又は特別支援学校の小学部の課程を修了した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満15歳に達した日の属する学 年の終わりまで、これを中学校、中等教育学校の前期課程又は特別支援学校の中学部に就学させる義務を負う。
国民健康保険法
第一条 この法律は、国民健康保険事業の健全な運営を確保し、もつて【社会保障及び国民保健の向上に寄与する】ことを目的とする。
(国民健康保険)
第二条 国民健康保険は、【被保険者の疾病、負傷、出産又は死亡に関して必要な保険給付を行うものとする】。
第五条 【市町村又は特別区(以下単に「市町村」という。)の区域内に住所を有する者は、当該市町村が行う国民健康保険の被保険者とする】。
医師法
第19条 【診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない】。
第22条 医師は、患者に対し治療上薬剤を調剤して投与する必要があると認めた場合には、患者又は現にその看護に当つている者に対して処方せん を交付しなければならない。
歯科医師法
第19条 【診療に従事する歯科医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない】。
生活保護法
(この法律の目的)
第1条 この法律は、【日本国憲法第25条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を 行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする】。
(無差別平等)
第2条 【すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護(以下「保護」という。)を、無差別平等に受けることができ る】。
(→日本国憲法・第25条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、 社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。)
労働者災害補償保険法
第1条 労働者災害補償保険は、【業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をする】ため、必要 な保険給付を行い、あわせて、業務上の事由又は通勤により負傷し、又は疾病にかかつた労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、労働者の安 全及び衛生の確保等を図り、もつて労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする。
第2条 労働者災害補償保険は、政府が、これを管掌する。
第2条の2 労働者災害補償保険は、第1条の目的を達成するため、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に関して保険給 付を行うほか、社会復帰促進等事業を行うことができる。
第3条 【この法律においては、労働者を使用する事業を適用事業】とする。
グローバル共生社会論(大阪大学大学院コミュニケーションデザイン科目
2009)