先住民・エスニックマイノリティのディアスポラとグローバリゼー ション
(平成22年度の中間報告)
大阪大学グローバルコラボレーションセンター GLOCOL共同研究年次報告書(2年計画の1年度目)
1.研究課題
(和文)先住民・エスニックマイノリティのディアスポラとグローバリゼーション
(英文)Indigenous People and Ethnic Minority under Globalised Diaspora Process
2.研究代表者
池田 光穂 コミュニケーションデザイン・センター(CSCD)臨床部門 教授
3.研究期間
2010年 7月から 2011年 3月まで
4.研究組織(省略)
5.研究目的(400字程度)
グローバリゼーション現象を取り扱う日本の文化人類学研究において火急の課題は、世界の文化的多様性を維持していると見なされているディ アスポラ化した先住民・エスニックマイノリティが、ホスト社会との複雑な関係をもちつつ民族的アイデンティティとの関わりのなかでユニークな文化的生産の 渦中にいることの的確な把握と、その現状を理解しうる理論化にある。我が国においてはグローバリゼーションの研究は、民族政策や民族紛争事案を基調とした 国際政治学、あるいは種々の国際/国内統計をもとに大きな動向を明らかにする経済学あるいは「移民研究」が主流であった。それらの潮流とは異なる、グロー バリゼーションの潮流の中で具体的なフィールドのローカルな文脈から説き起こす実践を志向する研究をめざす。
6.本年度の研究実施状況
平成22年7月22日に採択通知を受けて、採択審査委員会のコメント受けて訂正した申請書と同意書をその翌日に提出した。内諾をうけた学 内外の共同研究者との電子メールによる事前の打合をおこない、共同研究会名称を、大阪大学GLOCOL共同研究「ディアスポラとグローバリゼーション」研 究会と銘打った。代表者の科学研究費補助金(海外学術(B))による同年8月〜9月末までの出張により、本格的な研究打合は代表者の帰国後の同年10月よ り開始された。代表者は同年10月19日のGLOCOL兼任教員会議において採択された本 研究計画の趣旨と概要について報告した。
第1回研究会を国立民族学博物館において11月12日(土)の午前10時半から休憩を挟み、午後6時30分までおこなった。午前中は、グ アテマラとメキシコの調査研究班(一部)による研究打合であり、午後は、初めての全体会議を開催し、参加した全員から20分前後の個別口頭発表と全員によ る全体討論をおこなった。この研究会においてディアスポラ経験と文学表象に関する文献の収集の必要性に鑑み、ヨコタ教授からのリストにもとづいて書籍を収 集した。また先住民および少数民族のディアスポラとグローバリゼーションに関する国内外の基礎文献の収集ならびに、国内旅費を使って代表者ならびに共同研 究者の旅費を充当した。
また第2回研究会として、翌平成23年2月5日(土)と6日は、台湾交通大学の陳光興(Chen Kuan-Hsing)教授を招へいして、同教授の近著”Asia as Method,” Yale Univ. Press, 2010 とアジアの人びとをめぐるディアスポラ経験について、豊中キャンパス大学教育実践センター・スチューデントコモンズの会場を公開して議論した。この研究会 での成果は、少数ながら国内外の大学院留学生が、それぞれ陳教授の専門であるアジアの文化研究(カルチュラルスタディーズ)や本研究会の主要なテーマの一 つであるディアスポラについて、自らの研究テーマを持ち寄り陳教授と討論をおこなうことができたことである。なおサヴァティカルを利用して帰途に中国での フィールドワークに従事する予定の陳教授の台湾、日本、中国間の招へいのための費用と滞在の費用に旅費・滞在費および講演に対する謝金を充当した。
7.研究成果の概要(400字程度)
その生存と歴史的経験形式の現在進行中の多様な展開を通して、植民国家やホスト社会への直接的あるいは間接的応答という形で、全地球の文 化システムにおける文化的多様性の重要性の意味を「その存在を通して主張し続けている」のが先住民・エスニックマイノリティである、というのが本研究会で 出発時点での基本的合意であり、それを研究班のメンバーにおいて確認している。
第1回研究会では、ディアスポラと移民の概念の再定義、先住民と少数民族の併置に伴う追加説明と解説、ディアスポラ現象とグローバリゼー ションに関する歴史的事象の蓄積による再解釈の余地、ディアスポラ現象における時間性の再検討などの課題が生じた。
第2回研究会では、陳光興教授(台湾交通大学)との議論により、ユダヤ文化研究におけるディアスポラ位置づけとの比較や、東アジア地域に おける文化研究との議論などとの関連性を発掘する必要性についてなどが検討された。
8.共同研究会に関連した公表実績(出版、公開シンポジウム、学会分科会、電子媒体など)
第2回研究会については、講演と討論「方法としてのアジア:脱帝国主義化とディアスポラ」として一般公開し、グローコルおよび大阪大学 21世紀懐徳堂のホームページ上に公開した。また日本文化人類学会の会員向けメーリングリストに投稿し、参加を呼びかけた。
出版、公開シンポジウム、学会分科会等についての公開は、研究初年度ということもあり、次年度に開催などの可能性を模索している。
研究会の資料として、下記のURLとそれにリンクするウェブページで関連資料を公開している。
◎方法としてのアジア:脱帝国主義化とディアスポラ
http://www.cscd.osaka-u.ac.jp/user/rosaldo/AsiaAsMethod2011.html
◎先住民・エスニックマイノリティのディアスポラとグローバリゼーション
http://www.cscd.osaka-u.ac.jp/user/rosaldo/101211diaspora.html
9.外部資金等への申請状況
日本学術振興会・科学研究費補助金への申請に関しては、代表者が平成22年度より、基盤研究(B)および挑戦的萌芽研究への研究代表者と なったため、平成23年度の申請は重複制限のために応募を控えている。
この研究資金に関する国外・国内旅費の不足を補うため、人文社会系の民間財団の申請という方途を模索している。
10.来年度の実施および研究成果の見込み
平成23年度は、初年度で得られたさまざまな萌芽的なアイディアを、より着実なものをするために、外部講師を招へいし、研究会の議論をよ り精確なものに収斂させたい。
本プロジェクト以外に、代表者ならびに共同研究者が関連する研究テーマならびに受けている国内外の研究費について質問表を徴収し、各メン バーの研究関心の広がりや、国内外の諸研究との関連性について整理する必要を感じた。また国内外で類似の研究プロジェクトを実施しているところに照会し、 それまでの諸研究成果の収集と現在進行中の中途成果などの情報も併せて進めたい。
そのために本研究テーマに関して興味をもつポスドクに呼びかけ、資料の収集と整理などの業務に当たらせ、併せて、当該若手研究者の育成に 努めたい。
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