先住民・エスニックマイノリティのディアスポラとグローバリゼーション
Globalization of Diasporas of Indigenous Peoples and Ethnic minorities
エスニック・スタディーズ【定義:ethnic studies】
アメリカにおけるエスニック・スタディーズとは、人種、民族、国家を中心に、セクシュアリティ、ジェンダー、その他のそのような徴(しるし)、そして国家、市民社会、個人によって表現される権力といった差異を学際的に研究することである。
「ハイフンで表現されないアメリカという現象は、植民地的な特徴を持つ傾向がある」と、ジェフリー・ハーリー=メラは『アフター・アメリカン・スタディー
ズ』の中で指摘している:
ある文化的資料がハイフンでつながれていない、つまり典型的なものとして理解されるのは、作者が一定の人口統計学的基準を満たしたときだけである。
「1]もともと米国と第三世界諸国との関係に焦点を当てるために創設された国際学と
は対照的に、エスニック・スタディーズは、すでに存在するカリキュラムに異議を唱え、米国におけるさまざまな少数民族の人々の歴史に焦点を当てるために創
設された。
[人類学、歴史学、文学、社会学、政治学、文化研究、地域研究など、伝統的な社会科学や人文科学の学問分野が、本質的にヨーロッパ中心的な視点から考えら
れているという非難に応える形で、20世紀後半に学問分野として登場した。この時代、教育者であり歴史家であったW.E.B.デュボイスは、
黒人の歴史を教える必要性を表明していた[4]。しかし、エスニック・スタディーズは、公民権時代以降に生じた二次的な問題として広く知られるようになっ
た[5]。近年では、表象の問題、人種化、人種形成論、さらに学際的なトピックやアプローチへとその焦点を広げている。-- Wikipedia, ethnic studies, の翻訳.
先住民・エスニックマイノリティの
ディアスポラとグローバリゼーション
Indigenous People and Ethnic Minority under Globalized Diaspora Process 研究計画の概要と着想の紹介
池田光穂 コミュニケーションデザイン・センター 2010年12月11日 |
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ディアスポラ(διασπορα)という 言葉は、ギリシャ語の動詞speirein(種をまく)と接頭辞のdia-(分散する)に由来する |
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3つの用法 古代ギリシャ人:「移住」「植民」(語源的表現) ユダヤ、アルメニア、アフリカ、パレスチナ[シャタット=アラビア語で離散]:故郷を夢見ながら異境生活を強いられること(歴史上のモ デル民族 や集団) 異境生活のなかで集団的アイデンティティをもつ人たちが——精神的苦痛の含意とは距離をおきつつ——自らの集団が直面している社会現象 (定着し た新語的用法、とりわけDiaspora誌の創刊=1991年以降、急速に人文社会学研究のみならず当事者のアイデンティティを示すものとして浮上) |
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William Safranの定義 サフラン(1991:83-84)は以下の6点をもつ、故郷を追われた少数派のコミュニティをディアスポラの定義とする。
Safran, W., 1991 Diaspora in Modern Societies: Myths of homeland and return, Diaspora 1(1):83-89.[増補版 Safran[2005:37]の7項目 |
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ディアスポラ本質主義的定義への批判 帝国化するエスニシティの言い換えではない、差異と共に差異を通して生きるアイデンティティは、異種混淆構成の認識から生まれる (Hall 1990; 1993:402-403) ユダヤ人の歴史をモデルを中心化——あるいは規範モデルに——する必要はない(Clifford 1994:305-306):起源の共有や帰還の目的論をそのモデルのなかに見て、脱中心化された紐帯などを過小評価してしまう。 ブルベイカー(2005)の代替案:1.離散、2.郷土志向、3.境界の維持——ただしこれに対しても異種混交、流動性、クレオール 化、シンク レティズムという対抗的要素が含まれていないという批判がある。 本質主義的な国民国家のあり方が、ディアスポラ概念を対置されるように規定されることが、それを本質主義的にするという陥穽。 |
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The diaspora experience & identities The diaspora experience as I intend it here is defined, not by essence or purity, but by the recognition of a necessary heterogeneity and diversity; by a conception of 'identity' which lives with and through, not despite, difference; by hybridity. Diaspora identities are those which are constantly producing and reproducing themselves anew, through transformation and difference.(pp.402-403) Hall, Stuart. "Cultural Identity and Diaspora," in Williams, Patrick & Laura Chrisman eds. Colonial Discourse & Postcolonial Theory: A Reader. Harvester Whaeatsheaf, 1993. |
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ディアスポラ現象の本質化 本質主義的な国民国家のあり方が、ディアスポラ概念を対置されるように規定されることが、それを本質主義的にするという陥穽(再掲) ディアスポラは、しばしば、国民、民族集団、マイノリティに与えられてきた本質的定義をそのまま横滑りさせて適用され、成員の構成数ま でカウン トされ、実体化される(→ディアスポラの人種化) そのためあるディアスポラ個人(ナラティブ研究や心理学)、現象一般(政治学・社会学)、境界づけられた集団や文化(社会学・人類学) として研 究され、上のような本質化・実体化を再生産する。 |
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人類学がディアスポラ研究に関わること 我が国における「ディアスポラ学」の隆盛(臼杵 2009)への人類学からの応答——「〜学」ではなく、方法としての〜へ[仮想敵としての本質主義、人種主義] 現実の人々の集団を手がかりにしながら高度の論理操作をおこない、過度の抽象的な論理的飛翔をしつつ、現実の政治にも処方箋を示す「学 術的立 場」への介入 本質主義と人種主義への関与と不関与という人類学の歴史上の事柄に対する審問に、自らの歴史的視座を考慮に入れての弁明 |
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先住民とディアスポラ研究の関連付け 「強調すべきは、ここで問題となる関係論的な位置づけとは、ディアスポラを他と完全に区別するのではなく、むしろ絡みあう緊張関係のプ ロセスと して見るということだ。そこでディアスポラは、(1)国民国家の規範と、(2)「部族の」人びとによる土着的主張、とくに先住民権などオートクサナス (autochthouonus=原住の)の土地に根ざす主張と絡みあうと同時に、それらとは異なるものとして定義される」(p.284) J・クリフォード「ディアスポラ」『ルーツ』毛利ほか訳、月曜社、2002年 |
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人類学的な語り口? |
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林應植(イム・ウンシク)『求職』1953年 韓国国立現代美術館蔵 戦争難民化による故郷喪失 停戦の恒常化による国民性のゆらぎ 景気に翻弄される労働難民 |
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【当事者のナラティブ】 こんにちは。私の名はフー・リーです。年は41歳。結婚していて、9歳の娘がいます。12年前に香港を後にして以来、オークランドの チャイナタ ウンで暮らしています。暗い中で目を凝らすので、目が痛みます。合成染料の放つ有毒ガスで、咽喉はやられます。生地から舞い上がる繊維を吸わないように、 時々、マスクをするのです。一日中ミシンに向かって俯(うつむ)いているため、腰痛が止むことはありません。現場監督はまるで独裁者です。いつも私たちを 急き立てるのです。標示には「喋るな、トイレに行くな」と書いて書いてありました。仕事中に声をたてたり、笑い声を上げようものなら、彼は空箱を投げつ け、仕事へ戻れと怒鳴りつけるのです。急ぎの注文があるときは、ミシンに向かったまま昼食をとらなければなりませんでした。/昨年、経営者は、私たちに不 渡りの小切手を残したまま店を閉めました。後で判った事には、彼は既に破産宣告をしており、私たちの僅かな賃金さえも払う気などなかったのです。私を含む 12人の中国人裁縫師たちはかんかんに怒りました。あんな滅茶苦茶な仕事場でこき使われたのですから、せめてもの報酬はあるべきです。アジア女性移民支援 団体(AIWA) の助けを借りて、私たちは賃金の請求方法を探し始めました※(pp.182-183)。 From Asian Immigrant Women's advocates, Immigrant Women Speak Out on Garment Industry Abuse: A Community Hearing Initiated by Asian Immigrant Women Advocates(AIWA), Oakland, CA: AIWA, 1:5, May 1993.(リサ・ロウ[2002]新垣誠訳) |
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不法滞在に「隠し部屋」計30人一斉摘発 潜伏用の隠し部屋がある工場で不法滞在のまま働いたなどとして、警視庁と東京入国管理局は9日、東京都足立区のかばん工場など7か所 で、 20〜40歳代の中国人と韓国人の男女計30人を入管難民法違反(不法残留など)の疑いで一斉摘発し、身柄を入管に引き渡した。/同庁などは今年、計約 40か所の工場で計約200人の不法滞在者を摘発し、このうち十数か所で隠し部屋が発見されている。同庁は、安価な労働力を求める工場側が不法滞在者を雇 い、摘発を免れるために潜伏場所まで用意するケースが増えているとみている。 出典:http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20101210- OYT1T00117.htm(最 終確認:2010年12月10日) |
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研究計画の再考(I) 【当初案】先住民とエスニックマイノリティが直面するグローバリゼーションについて、本研究では、人と人との出会いにおける文化の生成 過程であ ると捉える。 【現在の所感】先住民とエスニックマイノリティが直面するグローバリゼーションについて、本研究では、人と人との出会いにおける「文化 の生成過 程(=文化の政治化の過程)」であると捉える。 |
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研究計画の再考(II) 【当初案】先住民とエスニックマイノリティが経済的・政治的・宗教的・文化的要因によりディアスポラ化した際の民族的アイデンティティ の変容 と、先住民やエスニックマイノリティが様々な形で接触する人の相互交渉がもたらす新たな文化的現象の中にグローバリゼーションにまつわる社会的過程に焦点 を絞る。 【現在の所感】 先住民とエスニックマイノリティが経済的・政治的・宗教的・文化的要因によりディアスポラ化した際の人々のアイデンティティの変容と、先住民やエスニック マイノリティが様々な形で接触する人の相互交渉がもたらす新たな文化的現象の中にグローバリゼーションにまつわる社会的過程に関する民族誌事例の検討に焦 点化した研究をおこなう。 |
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研究班と内容 共同研究者14名(学内8名:学外6名) 1)共同研究会を開催するための国内国外旅費 2)この研究に関わる国内国外調査研究旅費 3) 共同研究会を開催するための会議費等 4)共同研究会研究発表者に対する謝金と印刷経費 交付内定額(2010年度100万:2011年度100万) |
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文献 Hall, Stuart. "Cultural Identity and Diaspora," in Williams, Patrick & Laura Chrisman eds. Colonial Discourse & Postcolonial Theory: A Reader. Harvester Whaeatsheaf, 1993. Safran, W., 1991 Diaspora in Modern Societies: Myths of homeland and return, Diaspora 1(1):83-89. Safran, William. 2005. The Jewish Diaspora in a Comparative and Theoretical Perspective. Israel Studies 10(1):36-60. 2005. クリフォード、J., 2002[1993]「ディアスポラ」『ルーツ』毛利嘉孝ほか訳、Pp.277-314、月曜社。 ブルベイカー、R., 2009[2005]「「ディアスポラ」のディアスポラ」赤尾光春訳、『ディアスポラから世界を読む』Pp.375-406、明石書店。 |
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討論:ディアスポラと移民[概念定義]の違いは何なのか不明確である 従来の移民研究と、移民研究がもたらした当事者の意識(アイデンティティ)についてのパラダイムへの批判(=関連性をもたらない跳躍的 領域 の創造)をもたせたい(=ディアスポラを使う意図) しかし、移民研究の何が問題でディアスポラ研究が、どのような点でそれを補い、さらに凌駕するのかという具体的例を示せなかった点は発 表者 の瑕疵だと認識している。 |
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討論:標題「先住民・エスニックマイノリティ」という併置の有効性:そもそも両者は異なるカテゴリであり併置は唐突である。 先住民がオートクサナス(autochthouonus=原住の)の土地に根ざす存在と位置づけられており、その対峙概念は、入植者や 国家 国民である。他方、少数派民族(ethnic minority)は国民国家内における数の多寡やヘゲモニー的位相の関係性のなかで定義され、両者の併置が唐突という点はそのとおり。 したがって[・]は[+、〜と〜]の意味で捉えてほしい。ただし、そのことについて別項を設けて説明しておくべきだと反省する(=将来 の改 善課題) |
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討論:ディアスポラ現象は、グローバリゼーションの随伴だとすると、それらにリンクする重要な分析概念は他に伏在していないか? 発表者(=池田)にはとりわけ、その場の応答では思いつかなかったし、また構想もしていなかった。 このコメントをされた方は、サフランの定義の二番目の概念と関連する郷土(ホームランド)あるいは、ホームを比較考察することを重要性 を指 摘され、ホームの人類学(anthropology of home)の提唱した。 大文字のユダヤ・ディアスポラと[一般化された現象としての]小文字のディアスポラの区分もまた指摘された (Diaspora/diaspora dichotomy) |
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討論:先住民と民族少数派の「問題」としてディアスポラが想定されるのであれば、それとは対峙している国民国家や多数派 (majority)が 抱える「問題」とはなにか? アーレントの議論によれば、ホームにそれにふさわしい国民が居住し自治自決する国民国家の確立が、(今日的な意味の)ディアスポラの原 因と なる難民や無国籍者を創り出す原因になっている。国民国家のジレンマは(国境越境を移動を伴わない)国内難民や流入難民の存在、あるいは無国籍者や不法移 民という「市民権なき民」への統治理由と国際間におけるその正当化の論理を作り出さねばならないことだと思う。 |
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討論:先住民とエスニックマイノリティが隣接される理由がわからない(承前)が、それらがディアスポラを媒介としてなにか結びつく(= 共通点を もちうる)のであれば、それはなにか?その可能性はあるのか? 労働移民者たちがディアスポラした移民先——ここではディアスポラ現象と移民を同一のものとして捉えており再考が必要だが——では、そ れぞ れ「異なったホームや出自」を想起しながら、同じ労働移民として共感や相互交渉をもちうる可能性がある点で、紛争やネグレクトあるいは競争(=民族的葛 藤)ではない可能性を拓く。共通点を持たない先住民とエスニックマイノリティは、ディアスポラ状況のなかで出会い、それまでにはない人間の存在の共同主観 を創造する可能性を有しているのではないだろうか? |
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討論:ディアスポラが国民国家への批判として有効であるならば、それは歴史性をもたない普遍的で無時間的 (anachronistic)なもの なのか?ディアスポラがグローバリゼーションの過程のなかで産出された歴史的現象であるならば、その批判対象となる国民国家の存在も歴史的なるもの。ディ アスポラおよびディアスポラがもたらす批判的なるものが、歴史性や時間性をもつのなら、それらはどのような時間の中にあるのか?(ディアスポラの未来を、 どのようにフレーム化するのかということが問われている) ディアスポラ現象の理解や批判がもたらす時空間文脈(time-space context)への配慮が構成されていなかったのは、たしかに私の失敗だと思う。このフレーム化を通して、研究計画で述べているように、私の事例検討か らこのコメントに応えたい。 |
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関心あるテーマ(池田) ・EPA(経済連携協定)で渡日する外国人労働移動、とりわけ看護師・介護福祉士候補者受け入れ事業 ・東アジアにおける医療観光 ・および、これらを運営・支援・反対・研究する人たちの〈反グローバリゼーション運動〉との関係に関心がある |
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私にとってのV.I.P.の意味とは…… Vagabond in Power —— Fela Kuti, 1979 |
ディアスポラ的批判について考えるために:クリフォード「ディアス ポラ」ノート
この研究は日本学術振興会科学研究費補助金・基盤研究(B)海外学術調査「中米先住民運動における政治的アイデンティティ:メキシコとグアテマ ラの比較研究」(平成22年度〜平成25年度:研究代表者:池田光穂)の研究にも関連しています。関係各位の皆様、研究班のメンバーのみなさまに感謝いた します。
2011年5月10日の報告会での報告(要旨)
先住民・エスニックマイノリティのディアスポラとグローバリゼーション
Indigenous People and Ethnic Minority under Globalised Diaspora Process
研究代表者 池田光穂 コミュニケーションデザイン・センター(CSCD)臨床部門 教授
2011年5月10日グローコル兼任教員会議配布資料(池田光穂)
口頭で報告する内容は、白い地の枠で囲まれた部分で表記されているものです。
今回報告される研究期間 2010年7月から2011年3月末日まで
研究班: 栗本 英世 人間科学研究科 教授(GLOCOLセンター長)ほか、12名から構成されています。 |
※研究班のメンバーの方は[省略]しています
まず本研究の研究目的を御紹介します。
ディアスポラとは、自己のグループへのアイデンティティを共有する民(people)が、自然災害による避難や退避、他の集 団からの迫害あるいは経済的あるいは政治的要因により、自発的あるいは非自発的に、「本来の住み処」を離れて、遠隔地に一定の居場所を見いだしている分離 した状態(=ディアスポラ状況)のこと、あるいは、そのような状態にいる人間集団のことを指します。ディアスポラは、あらかじめ入手できた行き先の状況に ついての情報や、地球上を動く移動の手段の発達により加速されるので、今日言われるところの「グローバリゼーション」(=経済と情報の地球規模化)は、そ の機会を高めることに大きな役割をはたしています。ディアスポラ現象を対象とする文化人類学において、まず直面する最初の学術的課題は、それらの具体的な 現状の把握と、そのような状態に至った歴史的な経緯に関する情報収集です。今日では————事故後の福島第一原発の周辺住民の人たちのことを思い起こして ください—————すべての民族はディアスポラ経験に直面する潜在的可能性をもっているために、いくつかのディアスポラの類型的パターンと、そのプロセス に関する「予測」さらには「ケア」に関する考察も次なる課題になります。これまでは、グローバリゼーションに伴う人の移動に関する研究は、民族政策や民族 紛争事案を基調とした国際政治学、あるいは種々の国際/国内統計をもとにその動向を明らかにする経済学あるいは————行為者の主体的動きを追跡するとい う偏りのある————「移民研究」が主流でした。しかし、文化人類学の観点から見たときに、きわめて大局的に捉える政治経済学的な研究に対しての不満点 は、その細かい人間関係や、それぞれの当事者に去来する生活の変化や、それに伴うさまざまな主体的体験についての情報がないがしろにされるということで す。政治経済学には歴史事象の一般化に向かう傾向があるからです。言うまでもなく両者はお互いに補いあうことが重要です。世界のさまざまなディアスポラの 民についての詳細な経験というデータと、大局的な政治経済的な分析と突き合わせることで、ディアスポラに関する人文社会的な研究は、もっと豊かになり、今 後加速する「グローバリゼーション」のプロセスに関する人間の新しい経験についてのさまざまな知見をもたらすでしょう。 本研究では、とりわけそのディアスポラ経験に直面する民のなかで、先住民とエスニックマイノリティ(=少数民族)に特段の焦 点を充てようとします。その理由は、このような集団は、長いあいだ文化人類学の研究対象になり、彼ら/彼女らに関する情報が蓄積されており、ディアスポラ 化した時の変化の幅や多様性について、ある程度正確な比較検討ができる可能性があることです。 この発表の後半では、昨年度の研究実施成果について紹介します。昨年、平成22年7月22日に採択通知を受けて、採択審査委 員会のコメント受けて訂正した申請書と同意書をその翌日に提出しました。予め内諾をうけた学内外の共同研究者との電子メールによる事前の打合をおこない、 共同研究会の名称を、大阪大学GLOCOL共同研究「ディアスポラとグローバリゼーション」研究会と銘打ちました。代表者(池田)の科学研究費補助金(海 外学術(B))による昨年8月から9月末までの長期出張により、本格的な研究打合は代表者の帰国後の同年10月より開始されました。代表者は同年10月 19日のGLOCOL兼任教員会議において本研究計画の概要とこれからの目論見について、パワーポイントを用いて報告しました。 その立ち上げの第1回研究会を国立民族学博物館において11月12日におこないました。午前中は、グアテマラとメキシコの調 査研究班による研究打合であり、午後は、初めての全体会議を開催し、参加した全員から20分前後の個別の口頭発表とその後全員による全体討論をおこないま した。この第1回研究会では、ディアスポラと移民の概念の再定義、先住民と少数民族の併置に伴う追加説明と解説、ディアスポラ現象とグローバリゼーション に関する歴史的事象の蓄積による再解釈の余地、ディアスポラ現象における時間性の再検討などの課題が生じました。そのため、これらの課題を各メンバー研究 対象にしている先住民やエスニックマイノリティに関して分析してみるという宿題を各人が持ち帰ることになりました。その後、ディアスポラ経験と文学表象に 関する文献の収集の必要性に鑑み、ヨコタ教授から提出されたリストにもとづいて書籍を収集し本研究に供しました。このことに関して、先住民および少数民族 のディアスポラとグローバリゼーションに関する国内外の基礎文献の収集ならびに、国内旅費を使って代表者ならびに共同研究者を国内の研究機関と博物館に派 遣しました。 第2回研究会は、翌平成23年つまり本年2月5日と6日の両日にわたり、台湾交通大学の陳光興(Chen Kuan-Hsing)教授を招へいし、陳教授の近著”Asia as Method,” Yale Univ. Press, 2010 とアジアの人びとをめぐるディアスポラ経験について、豊中キャンパス大学教育実践センター・スチューデントコモンズの会場を一般にも公開して議論しまし た。この研究会での成果は、少数ながら国内外————このテーマで研究する————大学院留学生が、それぞれ陳教授の専門であるアジアの文化研究(カル チュラルスタディーズ)や本研究会の主要なテーマの一つであるディアスポラについて、自らの研究テーマを持ち寄り陳教授と実質的な討論をおこなうことがで きたことです。陳光興教授(台湾交通大学)との議論により、ユダヤ文化研究におけるディアスポラ位置づけとの比較や、東アジア地域における文化研究との議 論などとの関連性を発掘する必要性について新しく生産的なサブテーマが生まれました。サヴァティカルを利用して帰途に中国でのフィールドワークに従事する 予定の陳教授の台湾、日本、中国間の招へいのための費用と滞在の費用に旅費・滞在費および講演に対する謝金を充当しました。 |
共同研究会に関連した公表実績(出版、公開シンポジウム、学会分科会、電子媒体など)は次のとおりです。第2回研究会については、講演と 討論「方法としてのアジア:脱帝国主義化とディアスポラ」として一般公開し、グローコルおよび大阪大学21世紀懐徳堂のホームページ上に公開しました。ま た日本文化人類学会の会員向けメーリングリストに投稿し、参加を呼びかけました。出版、公開シンポジウム、学会分科会等についての公開は、研究初年度とい うこともあり、次年度に開催などでおこなうことを考えています。
研究会の資料として、下記のURLとそれにリンクするウェブページで関連資料を公開しています。
◎方法としてのアジア:脱帝国主義化とディアスポラ
http://www.cscd.osaka-u.ac.jp/user/rosaldo/AsiaAsMethod2011.html
◎先住民・エスニックマイノリティのディアスポラとグローバリゼーション
http://www.cscd.osaka-u.ac.jp/user/rosaldo/101211diaspora.html
外部資金等への申請状況について報告します。日本学術振興会・科学研究費補助金への申請に関しては、代表者が平成22年度より、基盤研究 (B)および挑戦的萌芽研究への研究代表者となったため、平成23年度の申請は重複制限のために応募ができなくなりました。
代表者は、研究分担者として、EPA派遣によるインドネシア人・看護師および介護福祉士候補者の日本への受け入れに関する科学研究費補助 金の申請に関与しています。しかし今年度は残念ながら採択されませんでした。この他に、この研究資金に関する国外・国内旅費の不足を補うため、人文社会系 の民間財団の申請という方途を模索し、現在、S文化財団に(この研究会のメンバーが一部重複する)研究調査費の申請をおこなっています。
最後に、来年度の実施および研究成果の見込みと今後展開したいことについてです。これには大きくわけて2つあります。ひとつは、平成23 年度は、初年度で得られたさまざまな萌芽的なアイディアを、より着実なものをするために、外部講師を招へいし、研究会の議論をより精確なものに収斂させた いと考えています。本プロジェクト以外に、代表者ならびに共同研究者が関連する研究テーマならびに受けている国内外の研究費について質問表を徴収し、各メ ンバーの研究関心の広がりや、国内外の諸研究との関連性について整理する必要を感じました。また国内外で類似の研究プロジェクトを実施しているところに照 会し、それまでの諸研究成果の収集と現在進行中の中途成果などの情報も併せて進めたいとも考えています。もうひとつはそれに関連しますが、若手研究者の育 成です。そのために本研究テーマに関して興味をもつ大阪大学および関西の学外の博士課程学生(とりわけ外国人留学生)ならびにポスドクなどに呼びかけ、資 料の収集と整理などのRA的な業務に当たらせ研究支援と、併せて、当該若手研究者の育成に努めたいと考えています。
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