研究倫理授業の討議用の資料集
やまもと博士は、この分野の主要誌へ出版するための、他大学の院生からの研究を審査するのに同意するか悩んでいる。彼はその院生の研究に通暁し ており、院生が彼女の研究について、短い報告を発表した討論会へも数カ月前に参加していた。彼女の研究は、多くの面で彼の研究と明らかに重なるものであ り、それが審査員に彼が選ばれている理由でもある。やまもと博士は、審査をする資格があることを自覚しており、そして院生の研究へ客観的で建設的な判断を 提供できる自信もある。けれども司彼の学生が同じ課題を研究しているので、彼は利害衝突の出現について心配になっている。加えて、彼がその院生のアイディ アのいくつかを不公正に利用することでおこるかもしれない後の責任追及を避けたいと考えた。そこで、自身の研究を発表するまで、未解明の研究について、よ り多く知りたいと望んでいるわけではない。研究室長がすでに無報酬の仕事を減らすよう彼に告げており、審査をすることでもう1つ週末を失うという面倒な問 題が、最終的には発生するところでもある。
1)やまもと博士は審査に同意すべきであるか?
2)もし彼が自身の責任について明確に認識できないなら、彼はどこからアドバイスを得るべきであろうか?
3)もし彼が、雇用や昇進の意思決定のために、院生の研究を審査するよう 求められていたなら、状況は違っているだろうか?
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最初の大きな助成金が終わろうとしているとき、サマンドラ博士の研究 の重要な要素が、突然うまくまとまるようになる。一連の実験の最後で、彼の 大学院生が、ある特殊ながんのタイプへ作用する遺伝子の結びつきを、実験で 明確に示した。この遺伝子と関係したタンパク質を対象にした彼のポスドクの 研究は、治療への可能性を聞くものであった。手元にあるこれらの成果でもっ て、最終的に、継続的な支援や今後の昇進へと結びつく、有利な実績をつくる ことができる。現在、彼がなすべきことは、研究成果を出版することである。 1 週間後、サンジャイの楽観論が色あせはじめる。期待していたように、彼 の研究室の主任が研究の進展に喜んでいた。しかし、その結果を報じる最初の 論文は、より広範な流通を得るために、主任である彼女の名前を筆頭に発表す るよう助言があった。一方、彼のポスドクと大学院生は、論文に現れるべき彼 らの名前の順序をめぐり、熱い討論の渦中にあった。また、大学の広報部が報 道発表用の結果の要約を求めており、そして技術移転部が、彼の研究の商業的 可能性が評価できるまで、すべての出版を留保するよう彼に要求している。
1)サマンドラ博士はどうすべきであろうか?
2)サマンドラ博士は、これらの問題のどれから最初に取り組むべきだろうか?
3)彼が研究結果を発表する準備ができたとき、物事がよりスムーズにいく ようにするには、サマンドラ博士には何ができるのか?
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ラン、スー、ミキの3 人は、専門家会議での、深夜の討論会で会った。 彼らは、それぞれ異なった分野を背景にして、ある疾患について研究する共通 の関心をもっている。ランは、脳の画像工学において最先端の仕事をして いる。スーは、都市の就学前児童に関心をもっている教育心理学者である。ミキは、生理学者として、代替医療の効果を拡大させるために、彼女の知識を役 立てようとしている。 深夜から早朝へと明ける時、新しく出会った3 人は、共同研究から得られる 利益に気づき、助成申請の概要を描き始める。研究のアイディアはすぐに固め られたが、詳細な計画を考えると、いくつかの解決すべき疑問が発生してくる。
1)誰が、どの大学を通して申請書を提出すべきか?
2)そのプロジェクトに関連し。 3 人のすべてが施設内研究審査委員会の承 認を得る必要があるのか?
3)もし、彼女らの研究が実際的に応用できるとすると、何が起きるだろうか? これらの疑問に彼らはどのように答えるべきだろうか? また、同様に答える べき他の重要な疑問はあるだろうか?
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最近の会議で、研究を優先している大規模な学科に所属する教員から、指導 プログラムについての関心があがってきた。彼らが直面していた多くの要求を 心に留めておく一方で、メンターを任命し、育て、監督してきた学科の方法に ついて、どのような変更が必要か悩んでいた。討議を進めた結果、いくつかの 検討する価値のある助言が提出された。多くの同意を得た助言は、論議と勧告 のための専門委員会に関するものであった。少々の無理を押して、博士課程院 生の池田、ポスドクの佐藤博士、そしてひとり立ちした研究者である七味博士が、選任された。 最初の会合で、3名の同僚は目標に関する疑問に、迅速に取り組むことで同 意した。もし、どのような指導が望ましいかを知っているとすると、彼らは現 在のプログラムのよい点と悪い点を評価し、修正の助言をすることができるで あろう。解決への途上で、彼らは同僚と何度か話し合う必要があり、つぎに話 し合いの記録を比較するために、ともにもち帰ることに決定した。次の会合 で、以下の疑問が示された。
1)どのような目標が、各委員会メンバーに勧めるよう期待されているの か?
2)なぜ、委員会の異なったメンバーが、それぞれの異なった目標を勧める のだろう?
3)彼らが、いくつかの改良が必要であるという結論に遣したと仮定しよう。その目的を達成するために、メンター・トレイニーの相互関係を変 えるべく、どのような道が聞かれているのだろうか?
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満月博士は、長い聞によきデータ管理は責任ある研究に欠かせない ことを学んできた。それゆえに、彼女は学生や助手の仕事を注意深く監督し、 実験ノートをチェックし、コンビュータファイルのパックアップをとり、常に 彼女自身で実験結果を確かめている。 彼女が次のプロジェクトを始める前に、現在のプロジェクトの成果をまとめ ているとき、大学の技術移転部の担当者から電話があった。彼女の研究室で以 前に働いていた大学院生が他の大学へ移り、マリオンの研究室の資金を得て行 ったであろう研究に対して特許を提出した。これが本当なら、大学院生は特許 を請求することができないのではないだろうか。
1)満月さんは彼女の研究室で行われた研究であることを証明するためのい かなる記録を必要とするだろうか?
2)満月先生の研究室で収集したデータは誰が所有し管理していたのか?
3)コンビュータレコードは、この事例において、いかなる固有の問題を提 出しているのか?
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学部教育の初期に、佐渡島博士は彼の家族に起きた心理障害の治療研究に 貢献しようと決めていた。生物学で修士学位を取得する際、彼は独立した研究 プロジェクトを続け、研究助手として長時間研究に従事した。つぎに、彼は精 神薬理学の博士課程に入学した。そして、神経科学分野での3年間のポスドク を終えようとしている。 ポスドクの期間に、彼は大学院時代に最初に発見していた前途有望な合成物 質について研究していた。彼の研究はうまくいき、臨床応用を目指して開発研 究するときがきていると感じている。学生、そしてポスドクの給与での生活と いう10 年以上のときをへて、彼に対してより高い給料の仕事が用意されてい る。 佐渡島は、学術機関か企業のどちらで仕事をするのが有利か考えており、そし て彼の有用な研究応用を、誰が所有するべきかについて、以下のようなことを 考えると、疑問に思うようになっている。
1)有望な合成物質についての研究を最初に行った場所である彼の大学院か?
2)彼が自分のアイディアをより明確にしたポスドク研究を行った機関か 命彼の将来の雇用機関になる学術機聞か企業か?
3)彼自身が所有するべきか、困難な研究活動と革新的な構想にもと づいたものである?
4)社会か、彼の教育の一部と研究の大部分を助成した?
5)誰がサムの研究についての合法的な利益をもつのだろうか、そして彼自 身の財政的な利益は、いつ利害衝突を生み出すだろうか?
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数年間、脳機能を研究するために魚類やカエル使ってきた後に、留萌博士は唯一新しい動物モデルを使用することで解明できる課題と直面した。近 いうちに、彼女はマウスやラットへの変更を計画している。しかし、場合によ ってはネコやイヌを用いた研究をする必要があるかもしれない。この新しい研 究計画をうまく準備するために、次の年に打ち切られる研究助成のための調査 報告に、その計画について記録することにしている。博士が長期にわたり雇用 している研究助手へ調査報告原稿を手渡した翌日、助手が困惑した表情で博士 のところへやってきた。助手は博士に話していなかったが、数年前に研究室で の仕事に応募した主な理由は、温血動物を使用しないことにあった。もしー博 士が動物モデルを変更するなら、助手は仕事を辞めなければならず、さらに給 与も良くやりがいのあるような他のポストを得る見込みもなかった。
1)留萌博士は、実験動物の変更を指示する前に、助手の考えに配慮する義務 があるのだろうか?
2)なぜ、研究にある種の動物使用について反対が起きるのだろうか。そし てこれらの反対意見へどのように答えることができるだろうか?
3)他の動物と比較して、ある種の動物使用に対して、より大きな反対があ るのはなぜだろうか?
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新学期に入って2週間、丸田が受講している家族保健についての教授の授 業で、シラパスになかった特別課題がクラスに出された。次の週にわたって、 クラスの全員が、救急医療と慢性疾患の家族をどう扱うべきか、コースを受講 していない3 名の級友と話すというものである。次の週、学生はインタビュー にもとづいたレポートを準備してクラスへ参加しなければならない。けれども、 教授は、会話について発表する際に、インタビューをした級友のプライバシー を保護するために、氏名を挙げるべきでないと学生へ警告した。その課題は丸田を悩ませることになる。基礎心理学の最終学期コースで、彼女は被験者を 使う際のいくつかの規則について学んでいた。けれども、彼女がそのことを教 授にもち出したとき、教授は級友との非公式な会話は研究ではないので、規制 の対象にはならないと丸田の疑念をとりさる。さらに、丸田が具体的な氏 名を記載しないので、プライバシーについて思い悩む必要はないと答えている。
1)丸田は教授からのこれらの保証に安心してインタビューを行うべき か?
2)もし丸田が依然として気になるなら、助言をどこへ求めるべきである か?
3)教授がこの課題をクラスへ課すのは正しい行動であるか?
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慈雨博士は、独立した研究者として5 年目の研究を始めている。彼の 研究はうまくいっている。多くの重要な論文を発表し、将来のための巨額な助 成を保障されている。この進展の中で噌彼はまだ決定されていない昇進審査が 大過なく進むよう願っている。ある日の夕刻ーひとりの院生が研究部門の上級 研究者により書かれた2 編の論文を慈雨博士に手渡した。彼女は。 2 つの異なる 実験として報告されてはいたが、明らかに同一である論文の各々にあるグラフ を丸で囲んでいた。グラフを注意深くチェックし、支持するデータを確認して から、慈雨は誤っていることに同意する。この上級研究者は、間違いなく慈雨の昇進を検討する審査委員会メンバーであり、不注意から誤りを犯してい るかー出版に際して情報を偽造しているのである。
慈雨博士はどうすべきか?
1)上級研究者にグラフについて問い合わせる。
2)その2 論文を彼の研究部門責任者へ知らせるためもって行く。
3)研究部門の管理者へ匿名でその問題を報告する。
4)院生にその問題を報告するよう強く勧める。
5)少なくとも、昇進審査委員会が済むまで何もしない。
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名声ある研究室での新ポスドクに着任した近畿博士は、博士の論 文が少々の修正を条件に、著名な学術誌へ受理され、その原稿がちょうどでき あがっていた。指摘された事項の多くは重要であったが、編集者は印刷スペー スの都合で、方法の部分を短くするよう要求していた。もし要求にそって短く すると、他の研究者が彼女の研究を再現できないだろう。 状況をたずねてみると、 近畿博士の研究室長と彼女の教育係であるメンター は、彼女に修正を助言している。もし他の研究者がより多くの情報を求めると すると、彼らは常に連絡をとることができる。ただし、方法を十分に説明しな いと、再現しようと試みる他の研究者に、時間や資源を無駄にさせることにな るという気がかりが残る。
1)近畿博士は、要求された変更をすべきであろうか?
2)近畿博士は、同僚へ不十分な情報を提供することに心配すべきだろうか?
3)雑誌スペースを節約したいという要求に沿った妥当なやりかたで、詳細 な方法部分を減らすのか?
4)近畿博士は司責任ある行動に関するさまざまな疑問に対し、決定的な答え をどのように得ることができるだろうか?
この授業の資料は、ステネック、ニコラス著『ORI 研究倫理入門:責任ある研究者になるために』山崎茂明訳、丸善、2005年に収載しているものです。非常によくできた教科書で、高校生にも十分理解可能な 記述内容になっていますので、ぜひ、現物を手にとって(あるいは購入されて)検討していただけるようにお願いします。
Copyright Mitzub'ixi Quq Chi'j, 2011