実験動物の安楽死処分に関する指針(写し)
平成 7年 8月1日
改定 平成18年12月5日
第1 一般原則
(1) 社団法人日本実験動物協会は、「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準(平成18年4月環境省告示第88号)」に基づき、実験動物を処分す るときの手引きとして、「実験動物の安楽死処分に関する指針」を定める。
(2) 実験動物の処分方法は、「動物の処分方法に関する指針(平成7年7月総理府告示第40号)」に準拠する。
第2 安楽死処分の実施
(1) 実験動物は、計画に基づく科学上の利用のほか、実験を終了した場合、疾病または負傷等によって回復の見込みがない障害を受けた場合、実験処置による苦痛が 著しい場合、あるいは退役個体等の余剰動物が生じた場合、ならびに火災や地震等の緊急事態の場合に、処分することができる。
(2) 実験動物の処分は、部署責任者がその必要性を判断し、適正な方法等について教育訓練を受けた飼育技術者が処分を実施する。
第3 安楽死処分の対象動物ならびに実施場所
(1) 安楽死処分の対象となる実験動物は、狭義には哺乳類、鳥類および爬虫類であるが、動物愛護の精神から、科学上の目的に利用されるすべての動物を含むと理解 すべきである。
(2) 処分動物といえども、安楽死処分が行われるまでは「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準」に従い、適切な施設において適正に保管しなけれ ばならない。
(3) 実験動物の安楽死処分の実施場所に部外者を立入らせてはならない。
(4) 部署責任者は、安楽死処分した実験動物の死体を「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準」ならびに関連法規に従って適切に処理しなければな らない。
手引きの改廃
本指針の改廃は実験動物福祉専門委員会の議を経て行う。
実験動物の安楽死処分に関する指針の解説
第1 一般原則
(1) 社団法人日本実験動物協会は、「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準
(平成18年4月環境省告示第88号)」に基づき、実験動物を処分するときの手引きとして、 「実験動物の安楽死処分に関する指針」を定める。
平成17年6月に「動物の愛護及び管理に関する法律(昭和48年10月法律第105号)」(以下 「動物愛護管理法」)が改正され、これに基づいて環境省は、昭和55年の総理府告示第6号「実験動物の飼養及び保管等に関する基準」を全面改定し、平成 18年4月に「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準」(以下「実験動物飼養保管基準」)を制定した(「実験動物の飼養及び保管等に関する 基準」は廃止)。「実験動物飼養保管基準」は第4の1 (2)実験等を行う施設における事後処置で、動物を処分する場合の苦痛軽減措置について規定している。
これを受けて日動協は、平成7年8月に策定した「実験動物の安楽死処分に関する指針」を見直し、 全面的な改定を行った。 なお、「実験動物飼養保管基準」は努力規定であるから、仮に他の義務規定との間に齟齬が生じたときは義務規定が優先され、また、「動物愛護管理法」は実験 動物に対して理念法であることから、具体的措置を規定する法令、たとえば「狂犬病予防法」が発令されたときには、同法に基づく処分である限り、「狂犬病予 防法」が優先される。
(2)実験動物の処分方法は、「動物の処分方法に関する指針(平成7年7月総理府告示第40 号)」に準拠する。
「動物の処分方法に関する指針(以下、「処分方法指針」)」は、「動物愛護管理法」第40条『動 物を殺さなければならない場合にはできる限りその動物に苦痛を与えない方法によってしなければならない、2 内閣総理大臣は、関係行政機関の長と協議して前項の方法に関し必要な事項を定めることができる』を受けて制定されたものである。「処分方法指針」は、家庭 動物、展示動物、産業動物、実験動物を含む、人が所有するすべての動物を対象に、処分の方法について規定している。「実験動物飼養保管基準」と「処分方法 指針」の関係であるが、実験動物を処分する場合の苦痛軽減全般に関して「実験動物飼養保管基準」が規定し、その具体的方法を「処分方法指針」が定めてい る。
(1)実験動物は、計画に基づく科学上の利用のほか、実験を終了した場合、疾病または負傷等に よって回復の見込みがない障害を受けた場合、実験処置による苦痛が著しい場合、あるいは退役個体等の余剰動物が生じた場合、ならびに火災や地震等の緊急事 態の場合に処分することができる。
2 安楽死処分の実施
「動物愛護管理法」は第2条で、『動物が命あるものであることにかんがみ、何人も、動物をみだり に殺し、傷つけ、又は苦しめることのないようにするのみでなく、人と動物の共生に配慮しつつ、その習性を考慮して適正に取り扱うようにしなければならな い』と定めている。すなわち、人間社会への動物の利用が正当な行為と認められるとしても、動物の命についてもその尊厳を守ることが基本である。したがっ て、「動物愛護管理法」に基づいて定められた「実験動物飼養保管基準」の事後処置に関する規定は、動物の処分が決定した時点で、実験開始前、実験期間中、 実験終了後を問わず適用される。
実験動物を処分することができる場合として、次の3つが考えられる。
第1は、重篤な疾病あるいは傷害によって回復の見込みがなく、かつ著しい苦痛を伴い、安楽死処分 以外にその動物を救う方法がない場合である。動物実験の過程で著しい苦痛を受けていると推測される場合もこれに該当する。
第2は、人の利益が著しく脅かされ、あるいは将来脅かされると予測され、動物を処分する以外に方 法がない場合である。具体的には、動物ばかりでなく、人にも深刻な危害や多大な経済的損害を与える狂犬病や口蹄疫のような疾患に罹った(もしくは罹る恐れ がある)ため、または著しく凶暴化したために、当核動物から人を守る必要が生じた緊急事態等である。
第3は、その動物の利用目的が処分によって完結する場合で、科学研究のために維持、繁殖された実 験動物を計画どおりに処分する場合や、実験の終了あるいは中止による処分が該当する。いうまでもないことであるが、無駄な生命を犠牲にすることがないよう に、厳密な生産計画の下で実験動物の繁殖に当たらなければならない。
なお、火災、長期の停電、地震、風水害等の事故や自然災害のために、実験動物の適正な飼養・保管 の継続が困難になったと判断された場合は、本指針に準拠することなく実験動物を処分することができる。これは、緊急避難的行為である。
(2)実験動物の処分は、部署責任者がその必要性を判断し、適正な方法等について教育訓練を受け た飼育技術者が処分を実施する。
実験動物の処分に関する最終責任は各社(所)の長にあり、社(所)長が、「実験動物飼養保管基 準」の定める管理者となることが望ましい。処分することの必要性および実施時期等を判断するのは部署責任者である。部署責任者は、動物愛護の観点から実験 動物に対して苦痛のない適切な処置(安楽死処分)をほどこす義務と責任をもつ重要な立場にあるので、「実験動物飼養保管基準」が規定する実験動物管理者が その任にあたる。
処分の実施には、動物の生理、生態、習性等を理解し、生命の尊厳性を尊重し、かつ動物の苦痛とそ の軽減について十分な知識、技術、経験をもつ者があたらなければならない。そのような意味から、処分実施者は、社団法人日本実験動物協会によって認定され た実験動物技術者であることが望ましい。
動物の処分方法について「処分方法指針」は、『化学的または物理的方法により、できる限り処分動 物に苦痛を与えない方法を用いて当該動物を意識の喪失状態にし、心機能または肺機能を非可逆的に停止させる方法によるほか、社会的に容認されている通常の 方法による』ことを求めている。
致死量以上の麻酔薬の投与(バルビツール系麻酔薬、非爆発性吸入麻酔薬など)や麻酔下での放血 は、動物種を問わず海外でも容認されている安楽死処分の方法である。一方、小動物に対する頚椎脱臼や断頭などには、実施者に対する教育訓練が条件として求 められ、また、炭酸ガスの吸入は、基本的に安楽死処分の方法として認められているものの、ガスの濃度をめぐる議論は依然続いている動物あるいは負傷によっ て狂騒状態に陥っている実験動物を安楽死処分させなければならない事例もある。このような場合を考慮すると、立ち入りは、安楽死処分に伴う危険に的確に対 処できる能力をもつ、最少人数の関係者に限るべきである。
教育目的等により、安楽死処分を伴う実験操作を関係者以外に公開する場合は、慎重な対応が必要で ある。安楽死処分を実施する理由やその意義を事前に十分説明し、動物愛護の精神に則って苦痛のない状態で行われる安楽死処分であることを理解させなければ ならない。特に、理解力が十分でない年少者等への公開は避けるべきである。
(4)部署責任者は、安楽死処分した実験動物の死体を「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減 に関する基準」ならびに関連法規に従って適切に処理しなければならない。
生命の尊厳を守る基本的姿勢に準じて、実験動物の死体を取扱わなければならない。同時に、人の健 康と安全を守ることへの配慮も重要であり、死体の衛生的な取扱いには十分留意する。特に、人獣共通感染症が疑われる動物の死体や、人に危険な病原体や有害 な化学物質等を投与された実験動物の死体の取扱いは、細心の注意をもってすべきである。
出典:社団法人日本実験動物協会・実験動物福祉専門委員会の配布によるpdf資料( http: //www.nichidokyo.or.jp/welfare_charter.html より入手)
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研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針
文部科学省告示第七十一号
研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針を次のように定める。
平成十八年六月一日
文部科学大臣 小坂 憲次
研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針
前文
地球上の生物の生命活動を科学的に理解することは、人類の福祉、環境の保全と再生などの多くの 課題の解決にとって極めて重要であり、動物実験等はそのために必要な、やむを得ない手段であるが、動物愛護の観点から、適正に行われなければならない。
このため、研究機関等においては、従前から「大学等における動物実験について(昭和62年5月 25日文部省学術国際局長通知)」等に基づき、動物実験委員会を設けるなどして、動物実験指針の整備及びその適正な運用に努めてきたところであるが、今後 も生命科学の進展、医療技術等の開発等に資するため、動物実験等が実施されていくものと考えられる。
一方、平成17年6月に動物の愛護及び管理に関する法律の一部を改正する法律(平成17年法律 第68号)が公布され、動物実験等に関する理念であるいわゆる3Rのうち、Refinement(科学上の利用に必要な限度において、できる限り動物に苦 痛を与えない方法によってしなければならないことをいう。)に関する規定に加え、Replacement(科学上の利用の目的を達することができる範囲に おいて、できる限り動物を供する方法に代わり得るものを利用することをいう。)及びReduction(科学上の利用の目的を達することができる範囲にお いて、できる限りその利用に供される動物の数を少なくすることをいう。)に関する規定が盛り込まれた。
このような動物実験等を取り巻く環境の変化を受け、研究機関等においては、科学上の必要性のみ ならず、動物の愛護及び管理に関する法律(昭和48年法律第105号。以下「法」という。)及び実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準(平 成18年環境省告示第88号。以下「飼養保管基準」という。)の規定も踏まえ、科学的観点と動物の愛護の観点から、動物実験等を適正に実施することがより 重要である。
このような現状を踏まえ、動物実験等の適正な実施に資するため、研究機関等における動物実験等 の実施に関する基本指針(以下「基本指針」という。)を定める。
第1 定義
この基本指針において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによ る。
(1) 動物実験等 動物を教育、試験研究又は生物学的製剤の製造の用その他の科学上の利用に供することをいう。
(2) 実験動物 動物実験等のため、研究機関等における施設で飼養し、又は保管している哺乳類、鳥類及び爬虫類に属する動物をいう。
(3) 研究機関等 次に掲げる機関であって、科学技術に関する試験、研究若しくは開発又は学術研究を実施するものをいう。 1 大学
2 大学共同利用機関法人
3 高等専門学校
4 文部科学省の施設等機関
5 独立行政法人(文部科学省が所管するものに限り、独立行政法人国立高等専門学校機構を除く。)
6 民法(明治29年法律第89号)第34条の規定により設立された法人(文部科学省が所管するものに限る。) (4) 動物実験計画 動物実験等の実施に関する計画をいう。
(5) 動物実験実施者 動物実験等を実施する者をいう。
(6) 動物実験責任者 動物実験実施者のうち、動物実験の実施に関する業務を統括する者をいう。
第2 研究機関等の長の責務 1 研究機関等の長の責務
研究機関等の長は、研究機関等における動物実験等の実施に関する最終的な責任を有し、動物実験 委員会の設置、2に規定する機関内規程の策定、動物実験計画の承認、動物実験計画の実施の結果の把握その他動物実験等の適正な実施のために必要な措置を講 じること。
2 機関内規程の策定
研究機関等の長は、法、飼養保管基準、基本方針その他の動物実験等に関する法令(告示を含む。 以下同じ。)の規定を踏まえ、動物実験施設の整備及び管理の方法並びに動物実験等の具体的な実施方法等を定めた規程(以下「機関内規程」という。)を策定 すること。
3 動物実験計画の承認
研究機関等の長は、動物実験等の開始前に動物実験責任者に動物実験計画を申請させ、その動物実 験計画について動物実験委員会の審査を経てその申請を承認し、又は却下すること。
4 動物実験計画の実施の結果の把握
研究機関等の長は、動物実験等の終了の後、動物実験計画の実施の結果について報告を受け、必要 に応じ適正な動物実験等の実施のための改善措置を講ずること。
第3 動物実験委員会 1 動物実験委員会の設置
研究機関等の長は、動物実験委員会を設置すること。
2 動物実験委員会の役割
動物実験委員会は、次に掲げる業務を実施すること。
1 研究機関等の長の諮問を受け、動物実験責任者が申請した動物実験計画が動物実験等に関する法令及び機関内規程に適合しているかどうかの審査を実施し、そ の結果を研究機関等の長に報告すること。
2 動物実験計画の実施の結果について、研究機関等の長より報告を受け、必要に応じ助言を行うこと。
3 動物実験委員会の構成
動物実験委員会は、研究機関等の長が次に掲げる者から任命した委員により構成することとし、そ の役割を十分に果たすのに適切なものとなるよう配慮すること。
1 動物実験等に関して優れた識見を有する者
2 実験動物に関して優れた識見を有する者
3 その他学識経験を有する者
第4 動物実験等の実施 1 科学的合理性の確保
動物実験責任者は、動物実験等により取得されるデータの信頼性を確保する等の観点から、次に掲 げる事項を踏まえて動物実験計画を立案し、動物実験等を適正に実施すること。 (1) 適正な動物実験等の方法の選択
次に掲げる事項を踏まえ、適正な動物実験等の方法を選択して実施すること。
1 代替法の利用
動物実験等の実施に当たっては、科学上の利用の目的を達することができる範囲において、できる 限り実験動物を供する方法に代わり得るものを利用すること等により実験動物を適切に利用することに配慮すること。
2 実験動物の選択
動物実験等の実施に当たっては、科学上の利用の目的を達することができる範囲において、できる 限りその利用に供される実験動物の数を少なくすること等により実験動物を適切に利用することに配慮すること。この場合において、動物実験等の目的に適した 実験動物種の選定、動物実験成績の精度及び再現性を左右する実験動物の数、遺伝学的及び微生物学的品質並びに飼養条件を考慮する必要があること。
3 苦痛の軽減
動物実験等の実施に当たっては、法及び飼養保管基準を踏まえ、科学上の利用に必要な限度におい て、できる限りその実験動物に苦痛を与えない方法によってすること。
(2) 動物実験等の施設及び設備
適切に維持管理された施設及び設備を用いて実施すること。
2 安全管理に特に注意を払う必要がある動物実験等
研究機関等の長は、安全管理に特に注意を払う必要がある動物実験等を実施する際には、次に掲げ る事項に配慮すること。 1 物理的、化学的な材料若しくは病原体を取り扱う動物実験等又は人の安全若しくは健康若しくは周辺環境に影響を及ぼす可能性のある動物実験等を実施する際 には、研究機関等における施設及び設備の状況を踏まえつつ、動物実験実施者の安全の確保及び健康保持について特に注意を払うこと。
2 飼育環境の汚染により実験動物が傷害を受けることのないよう施設及び設備を保持するとともに、必要に応じ、検疫を実施するなどして、実験動物の健康保持 に配慮すること。
3 遺伝子組換え動物を用いる動物実験等、生態系に影響を及ぼす可能性のある動物実験等を実施する際には、研究機関等における施設及び設備の状況を踏まえつ つ、遺伝子組換え動物の逸走防止等に関して特に注意を払うこと。
第5 実験動物の飼養及び保管
動物実験等を実施する際の実験動物の飼養及び保管は、法及び飼養保管基準を踏まえ、科学的観点 及び動物の愛護の観点から適切に実施すること。
第6 その他 1 教育訓練等の実施
研究機関等の長は、動物実験実施者及び実験動物の飼養又は保管に従事する者(以下「動物実験実 施者等」という。)に対し、動物実験等の実施並びに実験動物の飼養及び保管を適切に実施するために必要な基礎知識の修得を目的とした教育訓練の実施その他 動物実験実施者等の資質向上を図るために必要な措置を講じること。
2 基本指針への適合性に関する自己点検・評価及び検証
研究機関等の長は、動物実験等の実施に関する透明性を確保するため、定期的に、研究機関等にお ける動物実験等の基本指針への適合性に関し、自ら点検及び評価を実施するとともに、当該点検及び評価の結果について、当該研究機関等以外の者による検証を 実施することに努めること。
3 情報公開
研究機関等の長は、研究機関等における動物実験等に関する情報(例:機関内規程、動物実験等に 関する点検及び評価、当該研究機関等以外の者による検証の結果、実験動物の飼養及び保管の状況等)を、毎年1回程度、インターネットの利用、年報の配付そ の他の適切な方法により公表すること。 附則
この基本指針は、平成18年6月1日から施行する。
(研究振興局ライフサイエンス課)
文部科学省・通達(2006年6月1日)
出典:http: //www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/06060904.htm
リンク
文献
その他の情報
引用&解説:池田光穂 (c)Mitsuho Ikeda, 2011