文化の解釈行為からの逸脱に対する安全弁
25■文化の解釈行為からの逸脱に対する安全弁
通訳・翻訳の資質にばらつきがあれば、それは医療者 にも患者にも不利益が生じるために、専門の医療通訳者の資質の維持と管理が不可欠になる。医療通訳の 制度化には、国家資格の認定、通訳養成のための教育カリキュラムの整備と維持、専門職集団の職業倫理規定、資格維持者の定期的な質の管理、資格業務に見 合った賃金保証などが、総合的に策定される必要がある。他方、人類学者の仕事に資格は不要である。人類学者の質を唯一保証するのは、まさに薄氷を踏むよう な脆弱性を持ち続ける、所属する学会や職場の同僚によるピアレビュー以外になく、それすら学説の推移や[どの学問でもみられる]スター制により儚い根拠し か持ち得ない。ひょっとしたら資格がないという「不安」こそが、文化の解釈行為を傲慢におこなわないための人類学者にとっての安全弁になっているかもしれ ない。
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