はじめにかならずよんでください

マイノリティの権利とネイション・ビルディングに関する

キムリッカ・テーゼについて

On Minority rights and State Nation-Building: Kymlicka's Thesis

解説:池田光穂

文書名:キムリッカテーゼ マイノリティの権利とネイション・ビルディングに関するキムリッカ・テーゼについて On Minority rights and State Nation-Building: Kymlicka's Thesis

1
マイノリティの権利をめぐる新たな論争 / 施光恒訳
2
リベラルな文化主義 : 生じつつある合意? / 施光恒訳
3
マイノリティの権利のリベラリズム理論は必要か : カレンズ、ヤング、パレク、フォーストへの回答 / 施光恒訳
4
人権と民族文化的主義 / 栗田佳泰訳
5
マイノリティ・ナショナリズムと複数ネイション連邦制 / 栗田佳泰訳
6
先住民の権利を理論化する / 栗田佳泰訳
7
先住民の権利と環境的正義 / 森敦嗣訳
8
移民多文化主義の理論と実践 / 森敦嗣訳
9
人種間関係の岐路 / 森敦嗣訳
10
啓蒙的コスモポリタニズムからリベラル・ナショナリズムへ / 白川俊介訳
11
コスモポリタニズム、国民国家、マイノリティ・ナショナリズム / 白川俊介訳
12
ナショナリズムに関する誤解 / 白川俊介訳
13
リベラル・ナショナリズムのパラドックス / 岡崎晴輝訳
14
国際舞台におけるアメリカ多文化主義 / 岡崎晴輝訳
15
マイノリティ・ナショナリズムと移民の統合 / 岡崎晴輝訳
16
シティズンシップ教育 / 竹島博之訳
17
グローバル化時代のシティズンシップ : ヘルドに関する論評 / 竹島博之訳
18
リベラルな平等主義と公民的共和主義 : 友か敵か? / 竹島博之訳



・キムリッカの立場:リベラリスト(マイノリティの権利問題に明るい)政治理論家

■〈ネイション・ビルディング〉と〈マイノリティの権利〉の間の弁証法の問題(p.1)

■マイノリティの限られた選択肢

■「マイノリティの限られた選択肢」ですら、成功のためには、国家の容認が 必要。国家の容認は時に「狡猾」である。

1.多文化主義政策をとる

2.特定の自治権や言語権を認める

3.マイノリティと条約や領土に関する取 り決めをおこなう

4.他の地域において遵守しなければなら ない、国内法の法的免除

5.これらのことを可能にするのは〈マイ ノリティの権利〉の要求と承認である。

+++

〈マイノリティの権利〉の要求は、国家の裏切りや不正に対する「自衛手段」である(p.2)。

■マイノリティの権利要求は、正当なものが多い(p.3)。


■ただし、この現象(=実践)をうまく説明する理論はあまりない(p.4)

「今日でさえ、ナショナリズムの関心が爆発的に増大 しているにも関わらず、言語的制度的統合を追求するために、リベラルな国家がいかなる手段を用いるのが正当なのかについては、体系的には説明されないまま である(たとえば、移民が市民権を取得する前に、公用語の学習を要求するのは正当なのであろうか)」(p.5)。
"Even today, despite the recent explosion of interest in the topic of nationalism (see Chapter 10), we still lack a systematic account of what tools can legitimately be used by liberal states to pursue linguistic and institutional integration. (For example, is it legitimate to require immigrants to learn the official language beforebecoming citizens?)"(p.4).

■理論の真空、実践の成功

・「昨今の実践は理論的な真空地帯で生まれ、長期目 標や基本原則を認識することなく生まれた」(p.6)。
・「ネイション形成とマイノリティの権利に関しては、西洋民主主義諸国は規範理論を欠いているいたのに一定の成功を収めてきた」(p.7)。

■「配分的正義」よりも基本的正義の範疇としての「マイノリティの権利」が認識されている(p.8)。

配分的正義(distributive justice):「各人に各人のものを配分すること、すなわち、各人がそれぞれ持つべきものを実際に持つように働きかけることである。配分的正義の特徴は、各人が何らかの事物に対する自己の相応しさに応じてそれを比例的に持つこ とを目標とする点にある。例えば、平等主義は、各人が何らかの対象を平等に(すなわち1:1で)持つべきであるとする立場であり、各人に各 人のものを配分するという形式的指図の実質化である。……労働の対価を労働時間に応じて配分すべきだという基準が採用されるときには、2時間労働した人は 1時間労働した人の倍額を受領するべきであり、また、労働の対価を実際の労働量に応じて配分すべきだという基準が採用されるときには、1時間で10個の製 品を作った人は同じ時間で同質の5個の製品を作った人の倍額を受領すべきことになる(正当対価ないし正当価格の問題)」配分的正義

"Distributive justice concerns the socially just allocation of resources. Often contrasted with just process, which is concerned with the administration of law, distributive justice concentrates on outcomes. This subject has been given considerable attention in philosophy and the social sciences." - Distributive justice.

■ジョン・ロールズの正義論

「ロールズは価値(善の構想)の多元化を現代社会の恒久的特徴と捉えた。そのような状況に あっては、ある特定の善を正義と構想することはできない。ロールズは正義と善を切り離し様々な善の構想に対して中立的に制約する規範を正義とした。このよう に、正義が善の追求を制約しうる立場(正の善に対する優先権)を義務論的リベラリズム[Natural-rights libertarianism] と言う。正義は制度によって具現化し、公権力のみならず社会の基本構造を規制する性格を持つが、それが各人の基本的な自由を侵害するものであってはならな いと考える。/ロールズはジョン・ロックやジャン=ジャック・ルソーの政治思想で展開されている社会契約の学説を参照にしながら、社会を規律する正義の原理は、自己の利益を求める合理的な人々が共存するために《相互の合意に よってもたらする構想ととらえる。このような正義の原理を考案する方法を、公正としての正義(Justice as fairness)と定義する」。「し かし、正義を公正性から解釈することは、古典的功利主義で論じられている効率として の正義の概念と対立せざるを得ない。/古典的功利主義は、効用を最大化しようとするひとりの人にとっての選択原理を社会全体にまで拡大適用 するが、ロールズはこれに対して個人の立場や充足されるべき欲求は個々人で異なるも のであるとし、「別個の人びとをあたかも単一の人格であるかのようにみなし、人びとの間で差し引き勘定をするような論法は成り立つはずもない」 と批判した」。そこで、ジョン・ロールズJohn Bordley Rawls, 1921-2002)『正義論』(1971)の正義に関する2つの原理つまり、1)最大限の平等な自由と、2)(a)公正な機会均等の原理と(b)格差原理を提唱する。ロールズは言う:「正 義の概念は、原理に関する自明 の前提や条件からは演繹できない。そうではなくて、正義の正当化は、多くの考慮すべき事柄が互いに支え合うこと、すべてのことが一つの整合的見解へと組み 立てられることなのである」(Rawls,J., A Theory of Justice. 1971, p.60)(→「ジョン・ロールズの正義に関する2つの原理」)。

■経験的含意


■その背景にあるもの=国際世論、例:先住民の権利宣言

■権利要求のエスカレートは国家による反動を生む危険性:例、人種隔離主義、ゲットー化、抑圧(p.10)

■マイノリティの権利の「矢はすでに放たれた」ので、それを戻すことができない。我々に残されているのは、原理や権利の姿を鮮明にすることである (p.11)。

■議論の一般的論法を批判することが、キムリッカのねらい(p.11)

「私の目的は、西洋民主主義諸国におけるネイション や民族文化的多様性の問題を議論する一般的論法を批判的に検討することである。こうした問題について日 常的に議論する際に生じるバイアス、二重基準、思考を妨げる概念、混乱を特定したい。例えば、集団の権利、公民的ナショナリズム、シティズンシップ、連邦 主義、コスモポリタニズムについて語る時に生じるものである」(p.11)。
"My aim, rather, is to examine critically some of the standard ways of discussing issues of nationhood and ethnocultural diversity in Western democracies. I try to identify biases, double-standards, conceptual blinders, and confusions in our everyday discourse on these issues-e.g. in the way we talk about such things as group rights, civic nationalism, citizenship, federalism, and cosmopolitanism"(p.8).

リベラルとコミュニタリアン(全文引用)

「ロールズの立場は一般的にリベラルと分類されるも のの、通常のリベラルとは異なる。通常のリベラルは、自己利益を追求することのできる私的領域を重視し、その領域への国家の介入を極力排除し、国防や治安 維持のみを任務とする最小国家を主張する。その際に社会構成員の満足の総和を極大化するという功利主義的な正義論目的論的な正義論が 展開される。古典的 なリベラルから、ハイエク、近年ではロバート・ノージックなどがその代表と言えよう。ロールズの立場は、リベラルとその前提を共有しながらも、効利主義を 批判し、義務論的な正義論の立場から、不平等の是正、公益サービスの充実を主張し、結果として、福祉国家、大きな政府を要請するものである。この二つのタ イプのリベラルは、たしかに対立する結論を導き出してはいるが、「個人」の多元的対立から社会構成の原理を導き出そうとしている点で共通点を有している。 /この個人主義的な人間像と社会像に対して異議を唱えたのが、コミュニタリアンと総称される者たちであるが、このコミュニタリアンの内部にも二つの方向性 がある。ひとつは、<古典古代回帰派>とも呼べる者たちで、彼らは古代ギリシアの、人的結合に焦点をあてた政治イメージへの立ち返りこそが今日必要だと考 え、「共通善」の実現を政治に求める。M.サンデルやA.マッキンタイアなどがその代表と言える。もう一つは<市民的共和主義派>と呼んでおくが、一元的 な共通善を求めるのではなく、正義や権利の多元性を承認し、人々の間にある差異を積極的に容認、保護しつつも、人間が人間でありうるのは自由で自治的な共 同体の一員として行動するときのみであるとの立場をとる。代表的な思想家としてCh.テイラーやM.ウォルツァーが挙げられよう。コミュニタリアンはリベ ラルの想定する「負荷なき自我」、あたかも実験室ですべての外界から隔離されて存在する人間主体の想定を批判し、人間を共同体のもつ歴史的・社会的なコン テキストと不可分の具体的な存在としてとらえようとする点で共通している」出典「ポイントレッスン」)

整理しよう

リベラルには2タイプある

1)通常型リベラル:功利主義的な正義論目的論的な正義論

2)ロールズ流リベラル:(a) 格差原理と、(b)公正な機会均等の原理を軸に、不平等を極小化することを目的とするリベラル(=ロールズにも功利主義的で目的論的なモーメントは担保されている)

そして、コミュニタリアンにも2タイプある

3)ギリシア的古典回帰派コミュニタリアン

4)市民的共和派コミュニタリアン

マイノリティ・ナショナリズムの現在 / マイケル・ワトソン編 ; 浦野起央, 荒井功訳, 刀水書房 , 1995/ Michael Watson ed., Contemporary minority nationalism. London:Routledge, 1990

Minority nationalism is a significant not to say potent force in the modern world. In many countries new problems of and for minority nationalism have recently surfaced. This book presents a wide ranging examination of the state of minority nationalism in the 1970s and 1980s. It considers many different cases in detail: Britain, Ireland, the Soviet Union, Canada, France, Spain and South Africa. It explores the political and socio-economic circumstances surrounding minority nationalism, analyses its successes and failures in recent years, and looks at an exhaustive range of issues: the structures and politics of minority nationalist movements, relations with governments, ideology, attitudes to human rights, and so on. Interestingly, it views both Afrikaners in South Africa and Protestants in Northern Ireland as cases of minority nationalists in dominant positions finding it increasingly difficult to maintain their positions.


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