かならず 読んでください

省察の記録と書物の転写について

 On reflection and writing of your reading books

池田光穂

「自分でおこなった貴重な省察は、でき るだけ早く書きとめておくべきである。これは、当然な心がけである。われわれは自分の体験でさえ時には忘れてしまうのであるから、まして自分が思索したこ とは、どれだけ忘れ去るかわからない。それに、思想というものは、われわれの望みどおりの時にやってくるものではなく、気まぐれに去来するものなのであ る。

 これに反して、出来合いの形でそとから受けとるもの、他人から学びとったものは、いつでもまた書物をきがして見つかるものであるから、書きとめない方が よい。つまり、書き抜き帳は作らない方がよい。何かを書きとめるということは、それを忘却にゆだねるということだからである。そして記憶力に対しては、甘 やかして従順さを忘れさせることのないように、厳格な命令的な態度で臨むべきである。たとえば、何かある事項とか詩句とか単語とかを思いだせないような時 には、すぐ書物を検索してさがしたりせずに、何週間でも定期的に自分の記憶力に詰問して、それが責任を果たすまでやめないということが大切である。なぜな ら、思いだすまでに長時間を要したものほど、あとになってそれだけ強く記憶にのこる。こうして苦労して自分の記憶の奥底から引きだしてきたものは、書物の 助けをかりてよみがえらされたものよりも、次の機会にはずっと楽に利用できるようになるものである」

——ショーペンハウエル「知性について」細谷貞雄訳、 Pp.90-91、岩波文庫、東京:岩波書店、1961年より

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